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名球会コラム しごとの風景 - 職業としての野球

第32回 皆川睦雄 完敗したときにこそ、その内容を振り返る必要がある

―南海ホークス(現福岡ダイエーホークス)は昭和29年、東北の高校球界で際立つ戦績を上げていた米沢西高校のエース・皆川睦雄氏の獲得に成功した。


卒業生のほぼ100%が大学に進学するという、当時としては県下有数の進学校だったのですね。僕も勉学が主体で野球は余暇、楽しみでやるもんだという感覚で気楽にやっていたんです。
ところが、3年生の秋に校長から突然呼び出されて「お前、大学行くのを辞めて社会人になれ」といわれたんです。エッ、どうしてですかと聞いたら「南海から誘いが来た。支度金も出るそうだからプロ野球へ行け」と。まさに青天の霹靂といった感じでプロ入りの話が出てきたんですね。
いまから振り返ってみれば、まあ幸いなことに家が貧乏だった。運送業をやっていた父が早くに亡くなって、それを引き継いだ長兄が1回事業に失敗して破産しているんです。プロ野球に進めば支度金が入る。それでお金に苦労してきた母親が少しでも喜ぶならと、そう思って進学を諦めてプロ入りを決めたんです。


―体力不足や脚気などで入団して2年間は2軍暮らしを余儀なくされた皆川氏だが、入団3年目、31年のシーズンは開幕から1軍登録され、抑え役のリリーフピッチャーとして活躍をはじめる。


当時のホークスの監督は鶴岡一人さん。親分肌というか面倒見のいい監督さんで、2軍も含めて選手1人ひとりのことを私生活も含めて細かく把握していた。そして必要なときにピシッと的確なアドバイスを与えてくれる人だったですね。その鶴見さんが2軍で低迷していた僕に向って「お前、他のピッチャーにないものをつくれよ」って声をかけてくれた。
僕の持ち球は当時、ストレートとカーブ、そしてシュートの3種類しかなかった。ただシュートは高校時代、ときどきキャッチャーがパスボールするぐらいの切れ味を見せることがあった。それで、その切れ味の鋭いボールを自分の武器にしようと考えたんです。要は指の微調整とコントロールなんですが、それを自分のものにするためには、やっぱり球数を投げることと、それから走り込みによる下半身の強化しかないんです。
ホークスの選手は関西の出身者が多かった。だからチーム内は関西弁が支流だったんですが、僕は訛りの強い山形弁。だからチームメイトと話すと、その訛りを笑われるんですよ。それが悔しくってね。走っていれば誰とも話さないで済むからと思って、早くからグラウンドに出てひたすら外野を走っていたんです。クソッ、いつかお前らを追い越してやるからな、なんて思いながら。とにかくランニングだけはしました。時間と場所さえあれば、いつも走っていた。
そういった毎日の走り込みと投げ込みが自然と球威、コントロールにつながっていったんでしょうね。3年目の春の国内キャンプが終わったとき、ハワイの1軍キャンプから帰ってきた鶴岡さんが「お前、一生懸命練習したんだそうだな」って、すぐに1軍に引き上げてくれたんです。


―リリーフ主体で毎年10勝以上の勝ち星をあげつづけた皆川氏は、肩の故障をきっかけに下手投げへとフォームを変更。また入団8年目からは先発ローテーションの一員に加わり、頭脳的な投球術を駆使して勝利数を伸ばしていった。


キャッチャーの野村克也とは同期入団で、しかも寮は同室という仲だったので、若いときから2人で投球の組み立てなんかについてよく研究しましたね。ピッチャーにとって持つべきものはいいキャッチャーなんですよ。
ホークスは日本ではじめてスコアラーを導入した球団なんです。試合が終わると、スコアラーがその詳細な経過をつづったノートを僕らのところへ届けてくる。で、そのノートをもとに野村と2人で今日の試合の復習を1つひとつ行っていくんです。このときはこういう組み立てだったから、この球を狙われたとか、次に当たったときはこう攻めようとか、そういう研究を2人でずっとつづけていったんです。
ノックアウトされて、その日の投球内容なんか振り返るのも嫌だという日もありますよ。でも、嫌な内容だからこそ復習しなくっちゃいけないんですね。毎日走ることもそうで、今日は嫌だな、走りたくないな、という日が必ずあるんです。しかし、そこで1回休むと、その後ズルズルと落ちていってしまうことがわかるんです。同僚のピッチャー、若手もベテランもみんな一生懸命頑張っている。そこで1人休んだら、たちまちみんなに追い抜かれ、落とされていくんです。そういう意味で、現役時代は完全なオフという日は1日もなかったですね。


財団法人 産業雇用安定センター刊「かけはし」
2002年8月号より抜粋

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