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名球会コラム しごとの風景 - 職業としての野球

第11回 鈴木啓示 「いい仕事はプレッシャーのなかから生まれる」

―兵庫育英高校のエースだった鈴木啓示氏は、2年生の秋に阪神タイガースから入団の誘いを受けたが、高校中退を反対する周囲の声もあってプロ入りを断念した。しかし、翌年秋に開かれた第1回ドラフト会議では、期待のタイガースからの1位指名はなく、鈴木氏はやむなく2位指名で交渉権を獲得した近鉄バファローズに入団した。


僕ら関西人の場合はやっぱり阪神タイガースなんですよ。地元のチームだったし、人気チームでしたからね。だからバファローズに2位指名されたって聞いたときは、「よっしゃ」という感じはなかったですね、「あー近鉄か」と。
高校の監督は私に大学行きを勧めたんですが、やっぱり最終目標はプロの世界ですから、プロはプロだと、阪神も近鉄もプロには変わりはないだろうと。それから近鉄に入って、阪神をギャフンっていわしたろやないかって、そういう気持ちも多分にありましたよね。逃がした魚がどれだけ大きかったか、阪神に思い知らさないかんと。
だいたい私は、子どものころから非常に負けん気が強かったんですよ。それも弱いもの、小さいものに勝つんじゃなくて、強いもの大きいものに勝ちたい。大きな相手倒して、どや凄いやろって、そう見栄を切りたいタイプなんですわ。だから近鉄に入団して4、5年は常に阪神のことが頭のなかにあって、それをバネに野球やっていたような感じがあったわけです。


―高卒ルーキーとしてチーム最多の10勝を上げた鈴木氏は、入団2年目にして合宿所を離れ、阪急沿線の西宮で一人暮らしをはじめた。チームを離れなければ俺はダメになる、という危機感からの行動だった。


当時の近鉄は、年間130試合で42勝から45勝しかできないチームだったですね。ピッチャーも悪けりゃバッターも悪い。先輩なんかを見ていると、負けるのは当たり前で、たまに勝ったら「ウォー、勝った」と。これまったくアマチュアの感覚なんですね。プロだったら勝って当たり前、負けて悔しいというのが当然だと思うんですが、当時の近鉄はそうじゃなかった。
負けるたびに酒飲んで、仲間同士でキズ舐めあってたら俺はダメになる。そう思って2年目に合宿所を飛び出したんです。先輩たちはみんな近鉄沿線に住んでいる。じゃあ俺はまったく反対の阪急沿線に住んでやろうと、そうすれば試合前も試合後もみんなと別行動になるわけですよ。
ところが、そういう行動を快く思わない連中がいるんです。西宮に住みやがってクソナマイキな奴ちゃ、あいつが投げたときは打ったらんとこうや、あいつが投げたときはエラーしたろうやないかと、そういう先輩たちの声が聞こえてくるんです。
でも、それは自分の思うところだったんですよ。そう思われてもいいやないか、たとえ失点が5点あったとしても、自責点は1点かもわからへん、残りは全部エラーの点だと。自分は自分のマウンドを守ろうやないかと、そういう気持ちで投げとったら、今度は先輩たちが変わってきたんですね。
やっぱり選手というのは、目の前に球が飛んできたら捕りたい、いい球がきたら打ちたいっていうのが本能なんです。で、僕が零点に押さえていたら1点取ってくれたし、1点取られたら2点取り返してくれるようになりました。
結局、2年目から5年連続で20勝以上の勝ち星を上げたんですが、それもこれも合宿所を離れたお陰ですよ。言葉は悪いけど、チームメイトというのはライバルというよりも敵なんですよ。敵のなかにおるという気持ちがあるから、彼らに文句をいわさんためには、どうしても結果を出さなくちゃいかんわけです。そうしたらチームのなかで一番練習しなくちゃならんし、遊びも酒もやらない、すべてが野球中心という生活に、自然となっちゃうもんなんです。
だいたいプレッシャーのないところには、いい仕事はないというのが僕の持論なんです。プレッシャーっていうのはしんどいもんですよ。でも、そのきつさから逃げたときには、仕事はダメになるし、人間もダメになりますね。
僕は60年の7月、シーズン途中で現役引退を発表したんですが、その間の20年間というのは全力疾走でね、とにかく走り込んで投げ込んで、相手に負けない身体をつくってきたんです。ところが最後は、身体がガタガタになって、走ろうにも走れない状態になってしまった。
そうなると、もういくら打たれても悔しくないんですよ。腹が立たなくなったら喧嘩はできない。だから、シーズン途中でマウンドを下りたんです。まあ格好よくいえば、それが僕の美学なんです。


財団法人 産業雇用安定センター刊「かけはし」
2000年11月号より抜粋

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