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第17回 山内一弘 「打撃の神髄は「意識をするな、挑戦せよ」」

―昭和26年2月、愛知県立起(おこし)工業高校3年生の山内一弘氏は、就職が内定していた川島紡績・野球部の自主トレーニングに参加した。


当時はガチャ万時代といって、繊維産業が大盛況の時代だった。岐阜市にあった川島紡績という会社も業績を大きく伸ばしていて、その余勢をかって、26年からノンプロの野球部をつくるということで、いろいろなところから選手を集めていたんです。僕は高校でピッチャーや内野手をやっていたということで採用されたんですが、まあレギュラー扱いではなかった。
それで2月に自主トレをやるから来いということで、学校の許可をもらって岐阜市の川島紡績まで練習しに行ったんです。その自主トレの最中に、名古屋の大須球場でダブルヘッダーの練習試合をやった。第1試合が東海電通、そして第2試合が東邦ガスとの試合だったのですが、第1戦でセンターの選手がケガをした。それで急遽、第2戦にセンターの代役で出場したんです。外野守備は経験がなかったのでバンザイばっかりだったんですが、しかし、打つほうはホームラン2本にセンター前ヒットと、まさに大当たりをしたんですね。
で、どうもこれは本物らしいということで、3月からはレフトのレギュラー要員になって、もう毎日、外野ノックの捕球の練習ですよ。もしあのときホームラン2本打っていなかったら、もうずっと川紡の倉庫番だったかもしれないですね。


―春のベーブルース杯、都市対抗、そして秋の日本選手権というノンプロの3大大会など通算42試合にレギュラーとして出場した山内氏は、そこで打率4割2分、ホームラン13本という驚異の打撃成績を記録、たちまちプロ球界から注目を集める存在になった。


会社は僕のプロ入りに反対したんですが、どうしても行きたいという僕の熱意に根負けしましてね、ついに川島紡績の専務さんが間に入って、契約金50万円、月給2万5000円で毎日(現・ロッテ)オリオンズとの入団契約をまとめてくれたんです。
それで昭和27年の春のキャンプからオリオンズの練習に参加したんです。もちろん2軍からのスタートですが、1軍と合同の紅白戦では結構ホームランを打ちましてね、開幕したらすぐに1軍のほうからお呼びがかかったんです。ところが、2軍監督の若林忠志さん、この方はハワイ出身で、阪神タイガースのエースを務めた大投手だったんですが、その若林さんが「まだ山内を上げるのは早い」って1軍昇格に反対したんです。しかし、1軍のほうからは上げろ上げろと。
で、若林さんも抗しきれなくなって、6月に僕を1軍に上げたんですが、そのときに僕を呼んで、こういうことを覚えとけって、いくつか忠告してくれたんですね。
若林さんは「君は将来、別当薫に代わるオリオンズのスタープレイヤーになる男だ。だから1軍のグラウンドに出たら、プロ野球選手として恥ずかしくないプレイをしなければいけない。お客さんは常に君をみている。走るときでもいい加減な走り方をするな、いいフォームで走れ、キャッチボールをやるときは基本に忠実に、しっかりと捕球しろ」と、そういって僕を1軍に送り出してくれたんです。


―強打者・別当薫に次ぐ5番打者として1軍デビューした山内氏は、勝負どころで長打を放つバッターとして頭角を現し、29年には「一流選手の証」ともなる念願のオールスター戦出場を果たす。


パ・リーグのトップバッターで出場したんですが、異常な興奮状態になってしまって、歩いていても足が軽いんですよ。フワフワとしてまるで雲の上を歩いているような感じ。で、打席に立ったら、気負ってしまって、まったく普段のような感じで打てないんです。
普段だったらホームランというスライダーをファールにして最後はセカンドゴロ。どうしてなんだという思いを抱えながら第2打席に立った。それで今度はヒットを打とうとか、ホームランを打とうとかいう気持ちは捨てて、とにかくミートしようと。そう気持ちを切り換えて打席に立ったら、またまた内角のスライダーなんですね。で、打ちやすい球だなァーって思いながら自然に打ちにいったら、これが左中間のホームランになってしまった。
そのとき思ったのは、打撃でいちばん大切なことは、自分の打ちやすいような打ち方で、打ちやすいと思った球を打てばいいんだということですね。別のいい方をすれば「意識をするな、挑戦せよ」ということになるんですが、こういう気持ちの切り換えで、その後はオールスターでも日本シリーズでも気持ち良く自分のバッティングができるようになりました。


財団法人 産業雇用安定センター刊「かけはし」
2001年5月号より抜粋

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