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名球会コラム しごとの風景 - 職業としての野球

第6回 有藤通世 「素質や才能だけでは生き残れない」

―関西6大学リーグで首位打者を獲得した近畿大学の有藤通世氏は、昭和43年の第4回ドラフト会議で東京オリオンズ(翌シーズンからロッテオリオンズに名称変更)から1位指名を受け、プロ野球の世界に足を踏み入れる。


心の中では都市対抗野球にものすごい憧れがありました。まあお袋と2人だけの生活だったものだから、余計、堅実な生活というものにあこがれがあったんですね。
僕は高知高校出身なんですが、高知県からもずいぶんプロ野球選手が出ているんですよ。で、そうした先輩たちがほとんどプロの世界で潰れていったんですよ。あんな凄い人でもプロではレギュラーになれないのかって、そういう実感がありましたから、まあ僕なんかがプロの世界に入っても潰れるのがおちだと。それなら就職して、まず社会人としての勉強をして、それから都市対抗野球で頑張ろうと。それでもプロから誘いがあったら、そのときはそのときで考えようって、そういう感じだったですね。
ところが、ロッテから1位指名でしょ。まあ、いいかと。やるだけやってダメだったら、すっぱりと野球から離れよう、そう思ってプロの世界に入っていったんですね。


―プロ野球はまさに弱肉強食の世界だった。とにかくゲームに出場すること、そして出場しつづけることが第一義の世界だったという。


いくらドラフト1位だからといってもね、それだけではゲームには出してもらえないですよ。僕は高校、大学を通してずっと3塁手をやってきたんですが、当時のロッテの3塁は、前田さんといって非常に守備のうまい人が守っていたんです。この先輩は足に肉離れの持病を抱えていて、ときどき戦列から離れていたんですが、正直いって、前田さんが休まれたときが勝負だと思っていたところ、たまたま前田さんが休んだときに僕が代わりに出場することになり、非常に運がよかったんですが、ホームランは出るは、ヒットは打つわと。で、そのまま4月下旬ぐらいからズーッとゲームに出るようになったんです。
だから病気であれケガであれ、とにかくゲームを休んだら終わりなんだと、もう自分は生活できないんだと、そういう思いは非常に強かったですね。実際、自分が前田さんの故障のときにそのポジションを奪っていますからね。だから自分が休んだら、今度は自分がポジションを奪われると。
プロの選手は食べ物にこだわる人が多いんです。何故かというと、おいしいもの、良質のものを食べていれば病気をしない、ケガをしないという思いが強いんです。いや、本当かどうかわからないですよ。だけど、レギュラーポジションをずっと守っていくためには、人一倍練習しなけりゃいけない。守備だったら人より多くノックを受けなければならない、バッティングだったら、どれだけ多くバットを振るかですよ。それしかないんです。だから人より多く練習するためには、人よりも体力がなければできないわけでしょ。その体力をつくるためにも、まず食べ物にこだわるんですよ。


― 高知高校の学園長から贈られた「日に進まざれば、必ず日に退く」を座右の銘とする有藤氏。その現役18年間の生活はまさに常在戦場の日々だったという。


トレーニングは家でやるんです。誰でも1日24時間の時間を与えられているんですが、僕の場合は、まず睡眠に9時間、それから球場にいる時間が4時間、それに移動が1時間ですから、だいたい1日10時間は自分の時間が持てるんです。じゃあ、その10時間をどう使うかというと、まずバットを振るんですね。
自分のベストの感覚というのがあって、バットを振ってみると、それにピシッとはまるかどうかが、すぐわかるんです。で、ほとんどの場合は納得できないから、その感覚が戻ってくるまでバットを振りつづける。時間は決まっていないんですが、だいたい平均して1日2,3時間は振っていたんじゃないですか。納得できないときは10時間振りつづけたりね、もう自分でも呆れるぐらいバットは振りましたね。
なぜバットを振りつづけるかというと、それは不安だからなんです。1日でも休んだら技術レベルが落ちる、明日は打てないかもしれない、そういう不安が常にあるんですね。だから毎日とにかくバットを振るんです。
読売ジャイアンツの松井君とか高橋君がいまどんな生活をしているかといったら、やはり自宅で黙々とバットを振っていますよ。振らなければどんどんレベルは落ちていくし、だいたい不安で眠れないですよ。プロの世界でレギュラーポジションを維持するということは、そういうことなんですよ。素質や才能だけで生き残れる世界じゃないんです。


財団法人 産業雇用安定センター刊「かけはし」
2000年6月号より抜粋

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