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慶大生の「海の家」奮戦記(下) 抱き合って泣いた閉店式
後輩に託す儲けと伝統

 葉山のビーチに秋風が吹き、慶応大学広告学研究会の運営する海の家「慶応義塾学生Campstore」に店をたたむ時がきた。8月30日が最終営業日、翌31日には閉店式が行われ、常駐スタッフである3年生の…

authored by 慶応義塾学生Campstore広報

 葉山のビーチに秋風が吹き、慶応大学広告学研究会の運営する海の家「慶応義塾学生Campstore」に店をたたむ時がきた。8月30日が最終営業日、翌31日には閉店式が行われ、常駐スタッフである3年生の役員13人は引退した。これまでCampstoreはひと夏の思い出といってきたが、必ずしもそうではない。昨年10月から何度も運営に向けた会議を重ね、5月からは建設作業に汗を流した。

 7月から営業が始まり、8月は下級生も参加して合宿の意味も込めた「班入り」期間。仲間たちと過ごしたこの時間が終わってしまう寂しさ、いままでの苦労、笑った思い出、それらすべてがこみ上げてきて、閉店式では皆涙を流し抱き合った。

2カ月の営業成績、525万円なり

 約2カ月に及ぶ営業結果はどうだったか。最終営業を終え集計すると、売上高は525万円となった。2013年、14年と減少傾向にあった店の売り上げの中では、ここ3年間のトップだ。

 確かに8月前半までは好天に恵まれたが、それからは不安材料も目立った。お盆休み以降、急に涼しくなった。天候も雨や曇りばかりで、台風による高波で店のある大浜海岸やすぐそばの長者ヶ崎海岸は遊泳禁止の赤旗が立つことも多かった。さらに追い討ちをかけるように、茅ヶ崎のサメ騒動があった。しかしそうした影響はほとんど受けなかったといっても過言ではないほど、客足は止まらなかった。理由のひとつとして、今年は例年に比べリピーター客が多かったことが挙げられる。「もっと早くこんないいところ知っておきたかった」などと言ってくれるお客さんもいて、運営側としては感激させられた。

合宿所前の朝の点呼。ここから浜に向かうときに点呼ソングが流れる

利益が出なければ「自腹」だった

 結局、販売商品の仕入れ代金や光熱費などを差し引き約100万円の利益が出た。役員も下級生も無給ということもある。それどころか、役員は1人5万円を出資金として先に払わなければならない。利益が出れば、返ってくるが、赤字だった去年は5万円は返ってこなかったそうだ。その分も差し引いた"最終利益"は約40万円となった。

 大学生が運営する海の家ということもあって、そこから出た利益がどう使われるのか興味がある人もいると思う。Campstoreは非営利で行っており、利益は来年の建設作業や運営に使われるプール金として、後輩たちにそっくり渡すしきたりだ。これは広告学研究会が縦のつながりを重んじてきた証といえる。Campstoreが今まで60年間続けられてきたのは数々のOB、OGのおかげであり、我々もこれからのさらなる発展を願って利益を託そうと思う。

店内で行われた「リリィ、さよなら。」のライブ

記憶に残るキャンストソング

 今回は最終回ということで、このCampstoreに欠かせない「キャンストソング」について説明したい。海の家の店内で流れているBGMとは別に、我々の店での生活を取り囲む音楽が数多く存在する。例えば合宿所の朝は爆音のように流れるアニソンで起こされる。これは起床ソングと呼ばれる。前回紹介した閉店後の店によしずを巻く作業の際に流れる曲もある。

 合宿所の点呼ソングというのもある。この曲は毎日合宿所から浜へ向かう時と、浜から帰ってくる時に流されるため、最も聞く回数が多い。今年の点呼の曲には「リリィ、さよなら。」というアーティストの「約束」という曲が使われた。10代での別れをテーマに、「もし生まれ変わったら、その時は探すからね」と歌う、切ないラブソングだ。8月24日には、店内で本人のライブも行われた。キャンストソングは生活と一体化しているため我々の記憶に強く残る。夏が終わってもiPodやウオークマンで聞く曲は、キャンストソングばかりだ。

2年生の手で「アトカタ」は進んでいく

「アトカタ」で店の組み立てを学んでくれ

 閉店式が終わって、店は2年生に引き渡された。その翌日から早速、「アトカタ」と呼ぶ解体作業が始まっている。アトカタは単に店を解体するだけでなく、どのように組み立てられているかを後輩たちが学ぶ機会で、来年自分たちが建設作業をするための準備でもある。アトカタは17日まで続く予定で、店跡は完全な更地となるのだ。

 後輩たちは来年、どんなCampstoreを作るのだろうか。我々はCampstoreがこの先、何十年も受け継がれ、卒業してもまたここに集まることができることを祈っている。
(慶応義塾学生Campstore 広報 髙橋 優)

慶応義塾学生Campstoreの場所は、神奈川県葉山町御用邸下大浜海岸 
公式サイト http://koad.jp/campstore60th/HTML/

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