【物理学は宇宙や私たちの存在理由を知る手がかり】
物理学の魅力とは何でしょうか。私がこの学問に惹かれたのは、アメリカで過ごした高校時代でした。尊敬できる物理学の先生に出会ったことと、物理という学問の数理的な美しさに気づいたことが大きな理由です。具体的には、物の落下速度など、日常にあることすべてを数式で表すことができ、実験するとその結果が計算と合致する点に「美」を感じたのです。
物理学を突き詰めれば、例えば、なぜ宇宙が誕生し、なぜ私たちが存在するのかということを理解できる可能性があります。私が研究している素粒子論では、「物質が存在すれば必ず同量の反物質が存在する」ということが確認されています。その理論を踏まえると、ビッグバンによりはじまった物質宇宙が存在するならば、それと同量の反物質宇宙も創造されているはずなのです。ところがそれはいまだに観測されていない。この矛盾を解明することができれば、私たちは宇宙のはじまりについて、ほんの少し理解を進めることができます。また、最先端の研究には、さまざまな技術開発が伴います。すっかり身近になったWEBが発明されたのは素粒子の実験の過程ですし、テレビやリモコンも物理学なくしては誕生していません。
【自ら創造する“本当の勉強”を教えたい】
このように物理学は、工学や応用化学の基礎的な部分を担っています。世界は今、どんどんと多様化し、例えば、物理学をベースに生物学を学ぶというように研究分野も広がっています。こうした時代の変化に対応し、常に新しいことに取り組んでいける力を身につけるところが大学だと私は考えます。そして、その力を養うために必要となるのが基礎です。
私が担当している物理学の講義は、1、2年生を対象とした基礎教育です。講義では単に公式を暗記し、そこに数字を入れて計算するだけでなく、本質的な物理学の考え方を理解し、自ら創造する“本当の勉強”を教えていきたいと思っています。基礎となる学問をきちんと学べば、さまざまな応用分野に対応できる。つまり、みなさんの将来性が大きく広がるのです。
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