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点字毎日

共生の架け橋94年 視覚障害者と社会を結ぶ

 毎日新聞社が発行する週刊点字新聞「点字毎日」は、発刊以来、視覚障害者の福祉、教育、文化の向上に寄与するとともに、社会とをつなぐ懸け橋としての役割も担い続け、多くの読者に親しまれてきている。90年以上の長期にわたって点字新聞を発行し続けている新聞社は、毎日新聞社が国内唯一で、世界的にも例がない。

◇創刊は大正時代

点字毎日の創刊号

 点字毎日は、毎日新聞本紙を点字化したものではなく、視覚障害者に関連のある福祉、教育、文化、生活などさまざまな分野のニュースを独自に取材・編集し、発行している。

 創刊は1922(大正11)年。創刊号では初代編集長、中村京太郎(全盲)が「発刊の目的は、失明者に対して自ら読み得る新聞を提供し、本社発行の各種の新聞とあいまちて、新聞の文化的使命を徹底せしめんとするにほかありません。かくして、一方には盲人に対し、一個の独立せる市民として社会に活動するに必要な知識と勇気と慰安とを与え、他方には、これまで盲人に対して眠れる社会の良心を呼び覚まさんとするにあります」と、その理念を格調高くうたい上げている。

◇損得を度外視

 点字新聞の創刊が提案された当初、社内では「そんなもうからんもん、あかん」と反対の声が強く、一蹴(いっしゅう)されそうになった。当時は、点字を読める視覚障害者はまだわずかで、まったく収益は見込めない。また、福祉という概念も確立しておらず、情報媒体としてのラジオもない時代。視覚障害者が社会の動きを知るには、身近な目の見える人に新聞を読み聞かせてもらうくらいしかなかった。そうしたなか、大阪毎日新聞社(当時)社長、本山彦一の「これはいい案だ。ぜひやろう。損得など問題ではない」の一言で実現する。

 だが、点字新聞の収益性への不安、事業継続の困難さを指摘する声は、社外にもあった。記録によれば、創刊号に快く祝辞を寄せた当時の首相、高橋是清も「盲人の新聞を発行しても300(部)出たらいい方だろう」と語ったという。

◇点字普及に貢献

 良くも悪くも社内外の注目を集め、発刊に向けアメリカから輸入した最新の点字印刷機の不調にも悩まされながら、創刊号は800部を発行し、スタートした。同時に、全国的な点字の普及にも取り組み、点字毎日は視覚障害者が自ら読むことのできる新聞として受け入れられ、部数は徐々に伸びていった。

 一方、発刊を機に、点字毎日は点字普及のほか盲学校用点字教科書の発行、視覚障害者の点字投票実現に向けたキャンペーンなども展開。点字投票は25年に公布された普通選挙法で世界で初めて認められ、その後の点字の市民権拡大に大きくつながっていった。また、盲学校の生徒たちが、自らの思いや生き様を訴える全国盲学校雄弁大会などの事業も創設し、視覚障害者と社会とを結ぶ懸け橋としての役割も担ってきた。

点字毎日の印刷室を訪れたヘレン・ケラー(左)=1955年

◇菊池寛賞を受賞

 こうした長年の活動が評価され63年、日本文学振興会から「菊池寛賞」を受賞。これを記念して、視覚障害者の文化、福祉、教育に貢献した人たちを顕彰する「点字毎日文化賞」を創設した。

 また、68年には朝日新聞社から「朝日賞」(現・朝日社会福祉賞)を受賞。記念事業として、ハンセン病で失明し、点字を触読するための指先の感覚を失った人たちへ、記事内容をカセットテープに収録した「声の点字毎日」を無償提供(現在は毎日新聞社会事業団との共同事業としてデイジー版CDを寄贈)している。

 

◇両陛下が視察

点字タイプライター(下)で打ち出した歓迎の言葉をご覧になる天皇、皇后両陛下=大阪市北区の毎日新聞大阪本社点字毎日部編集室で99年11月17日

 一方、55年に毎日新聞社の招きで3度目の来日を果たしたヘレン・ケラーが点字毎日の編集室や印刷室を視察した。印刷室では、点字製版機を触りながら「こんな立派な機械でできるとは夢にも思わなかった」と、感想を述べている。

 さらに、99年には天皇、皇后両陛下が点字毎日の編集・印刷室を視察された。皇后陛下は点訳を学ばれた経験があり、以前から点字毎日に関心を寄せておられた。両陛下は、編集から印刷までの制作工程を予定時間を超えるほど熱心に見入り、「これからも良い仕事をなさってください」というお言葉が寄せられた。

 そして現在。創刊当時に比べ、社会情勢、情報媒体の発達など、環境は大きく変化してきた。特に、障害者福祉施策はいま変革期にあり、教育面でも特殊教育から特別支援教育へと制度を変えている。そうしたなか、点字毎日は新たな事業展開、媒体の拡充などを行いながら、創刊の理念や志をいまも脈々と受け継いでいる。情報障害者でもある視覚障害者へ独自の視点から関連する福祉、教育、生活などあらゆる分野の情勢の変化を伝える一方、当事者の声を社会へ届け、より良い共生社会の構築に寄与し続け、「新聞」の原点を大切にして、読者とともに未来へ向かっている。

弁論大会、国際的な点字作文コンクールも主催

 1928(昭和3)年から続く全国盲学校雄弁大会は、全国盲学校弁論大会と名称を変えて、毎年秋に全国大会を開催。2002年から日本公文教育研究会、03年からは住友グループ広報委員会の特別協賛を得て、入賞弁論集の作製・寄贈や、入賞者を海外研修に派遣して国際感覚や見識を広げることに役立てている。

 03年からオーディオ・パソコン&ビジュアル機器メーカーのオンキヨーとの共催で「オンキヨー点字作文コンクール」を創設した。翌年から、国内だけでなく海外部門も設け、アジア・太平洋地域(20カ国)、西アジア・中東地域(21カ国)、ヨーロッパ地域(45カ国)と対象地域を拡大。09年の第7回からはさらに北米・カリビアン地域(21カ国)へも対象を広げ、点字、活字併記の入賞作品集を全国の図書館等に寄贈するとともに、英語版作品集を世界186ヵ国に寄贈、世界の視覚障害者と「異文化コミュニケーション」の輪を広げている。

活字、音声版も

点字毎日が発行する主な出版物など
点字毎日が発行する主な出版物など

 発行媒体は従来の点字版に加えて、98年から「点字毎日活字版」を創刊。点字のデータを活字に置き換え編集し直して、点字を読めない弱視者や目の見える人たちにも視覚障害に関する情報を共有することに役立てている。このほか、毎日新聞社発行の月刊「NEWSがわかる」の中から、一般向けの解説記事を点字化した「NEWSがわかる点字版」(03年創刊)▽「点字毎日」と「NEWSがわかる」の点字データをインターネットで自宅へ配信し、専用の触読端末(ケージーエス社製)で読める「電子新聞」(同)▽2週分の「点字毎日」を世界規格デイジー形式でCDに収録した「点字毎日音声版」(05年創刊)などの発行も行っている。

各種点字刊行物も受託

点字毎日は創刊以来、毎日新聞大阪本社を拠点に発行している。

 「点字毎日」は、毎週日曜付。A4判60ページ。1年2万円、半年1万円(非課税、送料無料)。地域によって購読費助成制度実施自治体もある。 「点字毎日活字版」は、点字毎日の記事から編集。毎週木曜付。タブロイド判12ページ。1年1万2856円、半年6428円(送料込み)。 このほか多数の点字書籍も刊行。各種点字印刷物の受託、点字名刺などの問い合わせは点字毎日(06・6346・8388)へ。

点字と点字毎日に関する主要年表はこちらから