惑星間空間へ乗り出す超小型探査機
この欄にも以前に登場したヨーロッパの探査機ロゼッタ。彗星に接近し、その周りを回りながら活動状態を詳しく調べました。彗星は「汚れた雪だるま」と言われるくらい氷が多いのですが、太陽に近づいて熱せられると、その氷が溶けて蒸発していきます。
その彗星の研究に、2014年12月、探査機「はやぶさ2」と一緒に打ち上げられた、世界最小クラスの日本の超小型深宇宙探査機「プロキオン」(写真)が一石を投じました。ロゼッタのターゲットとなったチュリューモフ・ゲラシメンコ彗星の水素ガスを観測し、彗星核(本体)から放出される水蒸気の量を明らかにしたのです。超小型の深宇宙探査機による世界初の素晴らしい科学的成果です。
「プロキオン」は、質量約65キログラム、一辺約60センチメートル、深宇宙探査機としては世界最小サイズです。ロゼッタのような重さが3トン近くもある大型の探査機でもやりきれなかった重要な観測を、低コストかつ短期間で開発された「プロキオン」がサポートしたのは特筆すべき大きな出来事だったのです。
近年は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と東京大学をはじめとする日本各地の大学で、超小型探査機を実現する努力も開始されています。一つの例は、「エクレウス」と名づけられた超小型衛星(図)です。2018年にアメリカが開発中のSLSロケットに相乗りして打ち上げられる予定です。地球と月の重力の均衡点であるラグランジュ・ポイントまで飛んで行き、そこから地球と月、および月に飛来してくる小天体を遠隔観測します。外国もこうした超小型探査機の開発に積極的に取り組み始めた今、日本としては、「プロキオン」の実績と優位性を生かして、この小型競争に今後とも力を入れてほしいものです。
私はキューブサット(大学の研究室などで作られる超小型衛星)の製作に直接関わったことがありませんが、今の若い人たちの中には、大学生や大学院生の時代にそれを経験した人がいっぱいいます。あの「はやぶさ2」のプロジェクトマネジャーを務めているJAXAの津田雄一くんもその一人です。彼は日本の初代のキューブサットのプロジェクトマネジャーとして大学院時代に情熱を注ぎ、その豊富な経験を経てから、JAXAの宇宙科学研究所に入ってきました。あのキューブサット時代の思い出は強烈だったらしいですよ。皆さんももう少し大きくなったら挑戦してみては?(完)
★的川泰宣さん
長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍してきた“宇宙博士”。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉教授。YAC顧問、「KU-MA」名誉会長、「はまぎんこども宇宙科学館」館長を務める。
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