アメリカの大統領は20日、オバマさんからトランプさんに交代します。多くの期待を集めながら、理想と現実のはざまで揺れた8年間の「オバマ時代」を振り返ります。【文・竹花周】
ポイント
<1>黒人初のアメリカ大統領
<2>数々の和解を実現
<3>軍縮は道半ばのまま
<4>恩恵は国民全体に行き渡らず
高かった変化への期待
オバマさんは8年前、選挙で「チェンジ(変革)」と「イエス・ウィ・キャン(やればできる)」のスローガンを訴えて当選しました。2009年1月に大統領に就任。アメリカ社会では少数派の黒人の中から初めて大統領が誕生し、世界もアメリカ国民も変化を期待しました。実際、同性カップルの結婚を支持するなど、これまでの大統領ができなかった姿勢を見せました。就任直後の09年4月にはチェコの首都プラハで演説し、「核兵器なき世界」の実現を訴える演説をして、ノーベル平和賞を受賞しました。
他国への歩み寄りで成果
15年にはキューバと54年ぶりに国交を回復。核開発問題で対立していたイランとは、核計画の規模を縮小させる行動計画を結びました。昨年5月には被爆地・広島を現職の大統領として初めて訪問するなど、他国との「和解」を進めました。地球温暖化対策の新しい枠組みである「パリ協定」を批准(協定を守ることに国として同意すること)し、協定の発効を積極的に後押ししました。また、任期中にスキャンダルはほとんどありませんでした。
戦争を終わらせられず
選挙ではイラクとアフガニスタンでの二つの戦争を終わらせることを約束していました。11年にはイラクから軍を引き揚げました。しかし、過激派組織「イスラム国」(IS)が勢力を増し、14年には再び軍を派遣。アフガニスタンにも軍が残ったままです。一方で11年に内戦が始まったシリアへは、アサド政権が化学兵器を使ったことに対して空爆を予告しましたが途中で断念し、軍の派遣を見送りました。これらの対応を「弱腰」とみなし、シリアが混乱を深めた原因の一つと指摘する意見もあります。
経済の危機は乗り越えたが
アメリカ国内の政治でも手腕を発揮しました。就任4か月前、住宅ローンを発行していた証券会社の破綻をきっかけに、アメリカではリーマン・ショックと呼ばれる深刻な不況が起きていました。就任後1か月足らずで景気対策の手を打ち、危機を乗り切りました。また、誰もが適切な医療を受けられるよう、国がつくった医療保険に加入することを国民に義務づける制度改革(オバマケア)を実現させました。しかし、景気回復の恩恵は国民全体には行き渡らず、不満と失望が広がったことがトランプさん勝利の要因にもなりました。