ジョージ・A・ロメロ監督インタビュー
「宣伝に踊らされて大作に集まる観客は、ゾンビと同じさ」
町山智浩
“ゾンビ映画のゴッドファーザー”ことジョージ・A・ロメロをピッツバーグの自宅に訪ねた。彼は「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(68)以来ほとんどの作品をハリウッドから遠く離れたピッツバーグで自主製作してきた。このたび公開される「URAMI」は「ダークハーフ」(93)から8年振りの新作になる。
「ずっとハリウッドにつかまっていたんだ」
身長190センチ近いロメロは「あきれたよ」という身振りで言った。
「ニューライン、MGM、FOXをタライ回しさ。会議やら脚本のリライトでね。そのデベロップだけに費やされた金が600万ドルだよ。『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の製作費は10万ドルだったのに(笑)」
ハリウッドに愛想のつきたロメロはインディーズに戻って、この「URAMI」を撮った。
男性雑誌の編集者ヘンリー(ジェイソン・フレミング)は、浪費癖のある妻と、人遣いの荒い編集長(ピーター・ストーメア)にバカにされながらもマジメに働いてきたが、ある日、妻と編集長の浮気を知り、妻を責めるが逆に「あなたはカスよ。いないも同然だわ」と存在を否定される。その翌朝、彼は「のっぺらぼう」になっていた。顔すらも失ったヘンリーは、彼を踏みにじった連中に復讐を始める。
「ピーター・ストーメア演じる編集長は私を振り回したハリウッドのエグゼクティブがモデルなんだ。モデルの写真を見て『新鮮さがない! 昨日のピザみたいだ!』と言うけど、あのセリフは、そいつがメリル・ストリープについて言った言葉なのさ(笑)」
最近のハリウッドのエグゼクティブの頭にあるのはマーケティングだけで、ろくに昔の名作も観ていないんだとロメロは嘆く。
「でも、人はみんな彼らのように豪邸に住んで、いい車に乗って、いいスーツを着て、いい女を抱く生活に憧れてるんだよ」
特に去年までのアメリカは誰もが一攫千金を夢見て株に殺到したバブル時代だった。
「主人公ヘンリーも、株を始め、立派な家を買い、必死でリッチな生活を目指すが、気がつくとカラッポの人間になっていた。高級車や豪邸では自分の中身を埋めることはできない。アイデンティティは金では買えない。“Bruiser”の白い顔は消費社会におけるアイデンティティの喪失を意味しているんだ」
ロメロは今までもホラーの形を借りて鋭い同時代批評をしてきた。たとえば「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」で娘が母親をメッタ刺しにするシーンは、当時、カウンター・カルチャーで始まった子供たちの反乱を象徴していたし、黒人の主人公が惨殺されるラストは公民権運動を暗示している。
「『ゾンビ』(78)で死んだ後もショッピングモールに群がるゾンビたちは70年代後半の消費社会へのジョークだしね。宣伝に踊らされてハリウッド製の超大作にばかり集まる観客はゾンビと同じなんだよ」
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