出版

「出版不況は嘘」「出版統計には限界がある」の嘘と限界

出版統計には限界がある
- 林智彦(朝日新聞社デジタル本部

あまり知られていないのですが、出版統計は、国内を流通するすべての出版物の売り上げを集計しているわけではありません。よく引き合いにだされる出版統計に『出版指標年報』(全国出版協会・出版科学研究所)、『出版年鑑』(出版ニュース社)があります。どちらも、ベースとなっている(※追記2あり→末尾)のは、大手取次の「トーハン」のデータです。そこから業界全体の数値を推計した数字が、発表されているのです。

つまり、取次を経ない販売金額は、そこには含まれていません。中でも、「出版社による直販」「アマゾン直接取引」の2つが要注意です(※末尾に追記)。

link : 売り上げも書店数も減少続く 「出版不況」の現状は? – THE PAGE

擁護もこう苦しいと、本当に苦しい時期なのだなと感じます。
以下、上記記事の疑問点など。


まず「出版社による直販」は、ほとんど無視して良いデータです。
なにせ、元々「統計から漏れているデータ」です。元々無視されていたわけです。
仮に近年、増加傾向にあるとしても、現状を覆せるほどではないと思われます。

また、「アマゾン直接取引(e託)」
この数字は、統計から漏れていようが漏れていまいが、国内出版には不利なデータです。
これは取次を排除した取引です。取次には辛いばかりです。
そしてe託が増えれば増えるほど、アマゾンが勢力を増しますから、どのみち国内出版は疲弊していきます。

あと最後に、記事内では「電子書籍販売も統計に入っていない」と言っています。
これも、あまり意味の無い擁護に思えます。
現状「電子書籍市場≒アマゾン」であり、その市場が膨らめば膨らむほど、やはり国内出版は苦しくなります。


限界なのは、出版統計ではなく、やはり日本の出版のほうではないでしょうか。
少なくとも目を逸らすことが得策だとは思いません。
そして既存のビジネスモデルが崩壊しかけていることは事実です。




「出版不況」は本当か?–書籍まわりのニュースは嘘が多すぎる


ちなみに筆者の方は、↑の記事を書いていた方で、今さら引っ込むこともできないのかもしれません。





現実的な出版動向を知りたいなら、「出版状況クロニクル」を強くオススメします。

角川リストラ 急速な凋落の原因は

ドワンゴと統合後、早くもリストラに走る

「急激なグループ再編に振り回されてきた。営業や編集の現場も疲弊している」(ある現役社員)と、社内のモチベーションは低下。一つの会社になりながら、給与を含む雇用体系については、それぞれの社員がいまだ旧会社のままという、いびつな状態にあるからだ。現在でも労働組合は複数存在する。

link : KADOKAWA、希望退職300人募集の不安 – 東洋経済ONLINE

上記は、ITメディアのものより一歩踏み込んだ記事だと思われます。



9子会社吸収合併後、平均年収1000万→641万

記事内の641万円という平均年収は、9子会社吸収合併後の数字です。
9子会社というのは、角川書店、アスキーメディアワークス、角川マガジンズ、メディアファクトリー、エンターブレイン、中経出版、富士見書房、角川学芸出版、角川プロダクションを指します。
統廃合前は1000万を超えていたので、角川本部の人件費は甚大であると思われます。

元9子会社のほうは、契約社員が非常に多いようです。
50過ぎのベテラン編集者でも、実は契約社員というケースもあります。
今回は正社員に限ったリストラ発表ですが、今後(もしくは現在進行形で)予想されているレーベル統合などが行われれば、管理部門以外の「人減らし」の必要性も出てくるはずです。




株価低迷、「艦これ」急ブレーキ

リストラ発表後も、角川ドワンゴの株価は、持ち直していません。
様々な要因があると予想されますが、「計画未開示」という現状が、強い不安材料になっているのではないでしょうか。

また、角川一大コンテンツ「艦これ」が急ブレーキをかけ始めており、アニメや出版物のクオリティの低さに、ファンからの呆れの声が強まっています。
加えてソーシャルゲームである本元の艦これは、DMMのほうに利益が集まる仕組みであり、「艦これ、角川はほとんど儲かっていない」と角川歴彦会長がコメントしています。
実際に「艦これ」「艦隊これくしょん」の商標は、DMMが所持しています。
そして角川とDMMは、「城姫クエスト」と「御城コレクション」という別々の競合コンテンツを手掛け始めたため、「仲違いしたか」と推測する声もあります。




 角川系ライトノベルの売上、激減

角川の寡占かつ強みでもあった「ライトノベル」も、最大手である電撃文庫のステマ炎上事件が起きて以来、出版不況も相まって、急速に勢力を衰えさせています。

非角川系のGA文庫、ガガガ文庫などが売上を伸ばしているのに対し、角川系は電撃文庫を筆頭に、MF文庫、富士見ファンタジア文庫、ファミ通文庫などが売上を大きく減らしています。

未だ角川系ライトノベルの寡占は揺るぎないものがありますが、レーベル統合が現実化すれば、さらなる売上減少が予想されます。
どちらにせよ、角川の赤字原因は書籍事業の低迷だと言われており、抜本的な解決策を打ち出す必要があります。