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「人生における一瞬一瞬を光と思って生きたいんだよね。光に向かって進んでいると信じたい」

[2010/02/17]

昨年の5月にメンバーが4人から2人となったGood Dog Happy Menが、2年2ヶ月ぶりにフルアルバム『The Light』をリリースした。彼らには珍しく、シンプルなタイトルがけられた今作は、暗闇の中で見つけた光に向かっているような、真っ直ぐでシンプルであり、尚且つ優しく鮮やかな曲が詰まった1枚になっている。今回は、作詞曲をしているVo.&Gt.の門田に、このアルバムへの強い想いを語ってもらった。


―― とうとう出来ましたね。

「出来ましたね」

―― フルアルバムとしては2年2ヶ月ぶりですよね。

「そうだね。去年はリリースラッシュにしようかなって最初に考えてて。バンドが2年もアルバムを出さないって、解散するんじゃないかって思われちゃうからね(笑)」

―― そうですよね(笑)。

「2年はちょっと長いよね(笑)。曲は良い感じに出来てたんだけど、メンバーの脱退があったからね。クリエイティブなところは全然余裕があったから、本当は去年このアルバムを出したかったんだけど、思いのほか時間がかかってしまって」

―― 曲はいつぐらいに作ったんですか?

「古いのは古いね。「倖」は、『Most beautiful in the world』(2ndミニアルバム)を作った直後に出来た曲だし、「singing in the rain」と「自由も孤独もいらなくなって」は、今年の8月に作ったから、バラバラだね」

―― このアルバムは、Good Dog Happy Menの良さも、2人になってからのシンプルさも出てるし、それに加えて優しさだったりあたたかさだったりっていう、感情がすごく出ているなって思ったんです。すごく良いアルバムですね。

「ありがとう。俺も本当に思う。自分でも作った後に『The Light』を客観的に聴いたら、“こいつら、すごい音楽が好きなんだな”って思うCDになったから、良かったなって思った」

―― 5月に『陽だまりを越えて』、8月に『BornAgain』をシングルでリリースしているのに、アルバムの中にシングル曲を入れないっていうのが、らしいなって思いました。

「それには俺の中での理由があって。『陽だまりを越えて』も『Born Again』も、他に2曲入ってるんだけど、その2曲もすごく良いの。『Born Again』は夏の時にもお話したけど、他の2曲をカップリングっていう認識で作ってないから、聴いてほしいんだよね。ここに「陽だまりを越えて」と「Born Again」を入れてしまったら、ここで初めてGood Dog HappyMenと出会った人は、アルバムに入ってるからシングルを聴かなくてもいいかって思っちゃうじゃん」

―― はいはい。今シングルが売れないのって、そういうことですよね。

「そうかもしれないね」

―― シングルが出たらアルバムが出るっていうのをわかってるから、シングルを買わない人が多いんですよね。

「でもそれはね、ミュージシャンが悪いと思うよ。だって、シングルのカップリングに捨て曲を持ってきてるなってことがよくあるからね。そうしたら買わなくなるよね。でも俺たちは、「Born Again」と「この生温くうっとおしい心を」のどっちを(シングル曲に)しようか迷ったからね。『陽だまりを越えて』に入ってる「Song for lover’s」も大好きだから、2枚共聴いてほしいんだよね」

―― いつも曲を作る上で、気をつけてることとか大切にしてることってあります?

「曲を作って、結果的に思うことがあって。それは、Good Dogの曲には音楽的な知性とか素養とかを感じるものになってるなって、いつも思ってるの。俺の好きなミュージシャンって、例えばロックのアーティストで好きなアーティストがいても、その人からはジャズ的なフィーリングも感じるし、カントリーのメロディーラインも感じるし、ソウルのパッションも感じる。きっと、この人は色んな音楽が好きなんだろうな、ちゃんと色んな音楽を自分の糧にしているんだろうなっていうミュージシャンに惹かれるのね。やっぱりGood Dogの音楽はそうあるべきだと思ってるし、逆をいえば、そこが知性とユーモアの出所だと思ってるの。だから、聴きやすいものにしようっていうよりは、常に知性やユーモア、パッションがちゃんと介在しているものにしたいなっていうのはありますね」

―― なるほど。

「今音楽って、すごい軽く見られてると思ってるの。でも音楽って本当はすごくパワーのあるものだから、付け合わせでやっちゃいけないし、間に合わせで曲を作っちゃいけないし、誰かを模範にして曲を作っちゃいけない。本当は、そういった覚悟のいることをやってるわけだから、世界に一つしかないことをやろうとしないと、音楽ってやっちゃいけないんだよ。だから俺は、絶対Good Dog Happy Menにしか出来ない、俺にしか作れない曲を作ろうと思ってて。自分で言うのもなんだけど、気持ち悪いくらい音楽が好きなの。その音楽に対する愛が、きっと音楽を崇高なものだと思っているから、それが曲に出てるんじゃないかな。優しい曲を作ろうとは思ってないからね。音楽が好きだし、生半可な気持ちで作ってないからじゃないかな」

―― 12曲の中で一番、Goodの音楽への愛情とか優しさを感じたのが、インスト曲である「二匹の猫の為のエチュード」なんです。ジッポで火をつける音とか紙をめくる音とか、そういう一つひとつの音からレトロ感を感じて。そこで私の浮かんだ情景が、洋画の大人なラヴストーリーだったんです。

「わかる、わかる! 俺ね、自分の部屋にジム・ジャームッシュ監督の白黒映画のポスターを何枚か貼ってて、それをボーッと見ながら曲を作ったから、そういう感覚が音楽にも出てるんだと思うんだよね」

―― 白黒映画っていうのは、まさに私のイメージ通りです。

「でもそれが、そうやって感じられるっていうのは、すごく嬉しい。ちゃんと意図した風景が伝わってるっていうことだから」

―― この曲位置も良いと思うんですよ。

「良いよね! もう、ここしかない。絶対」

―― あと、歌詞で気になったフレーズがあって。それが「just my pain」の「♪誰か 孤独拾いませんでしたか?~」なんです。普通だったら、その孤独を拾って欲しいとか、(孤独を)わかって欲しいっていう言葉になると思うんですよ。なのに、その孤独は僕のだから返してよっていう考えが面白いなって思ったんです。

「そうだね。今は、共有できるものとか分かち合えることっていうことを目的とした音楽を作られてることが多いし、とにかくuniteするっていうことが素晴らしいことだって、特にロックは思われがちなんだけど、でも俺が思うに、大事なことはそんなところじゃなくて、自分であることというか。例えば、スポーツ好きな人と苦手な人がいるでしょ。それと同じで良いと思ってるの、人生なんて。孤独が好きな人がいて良いと思ってる。雨が降ったらみんな傘を差すけど、傘を差さないで歌ってたって良いわけ。それが自由だからさ。その自由を歌いたいのに、みんなが傘を差すからって傘を差そうっていう詞は、ちょっと違うんだよ。その孤独っていうのを、ロックは悪者にしがちなんだけど、皆がみんなそうじゃなくてもいいと思ってる」

―― うんうん。だから、このフレーズは衝撃的でしたね。

「1人でいる時って、やっぱり自分を高めてくれるよ。特に夜がそうで、よく俺は1人で隅田川を見ながらボーっとしてるんだけど(笑)」

―― 隅田川ですか?(笑)。

「そう(笑)。でもね、そういう時間って、すごく自分の中へと意識が向くんだよね。暗いから周りは見えないし、静かでしょ。音も聞こえてこないのが良いんだよね。もしも日常の中に、昼間みんなと騒いでる狂騒の時間しかなかったら、どこで自分の中から抜けられるんだろうって思うよ。ちゃんと1人になる隙間を作って、寂しさを感じる時間を作らないと。その寂しさはネガティブな意味じゃなくてね。ちゃんと1人になることによって、この世界の中で自分と同じ人間はいないんだってことを認識することがプラスなことなんだよ」

―― はい、それすごくわかります。私がよく思うのは、1人の時間がないと、寝てるから疲れが取れているだろうって思ってても、実際は取れてないんですよね。ずっと人と接していると、少なからず気を遣ってるから疲れてるんですよ。そういう知らぬまのストレスの積み重ねもあると思うんですよね。

「うんうん、そうだね。あとね、弱くなる。人といる時間ばっかりになると弱くなる。そういう1人の時間に自分と向き合うっていうのは、音楽を作る原動力になってるかな。っていうのは、その時間に色々閃くんだ。「just my pain」はまさにそうだね」

―― 収録されてる12曲の中で、一番思い入れが強い曲はどれですか?

「「慰霊堂清掃奉仕(Happy Birthday!)」かな。すごい好きな曲で。何で好きなのかはよくわからないんだけど(笑)。……タイトルが好きなのかな?」

―― あはははは! 面白いタイトルですよね。

「今回パッと見た感じ、タイトルが面白いものが多いんだけど、それは自分の中で、タイトルが面白いとどんな曲なんだろうって思わせるっていうのが重要なポイントなんだよね」

―― なるほど。“慰霊堂清掃奉仕”と“Happy Birthday”って結びつかないですよ(笑)。

「そうだね(笑)。この詞は、死のうと思ってる子がいて、(その子の)周りにろくな大人がいないから、大人になっても、今以上にどんどんつまらなくなっていくんだろうな。そんなんだったら、17歳でも人生を終わらせた方が良いかもしれないって思ってる子がいてさ。その子に対しての歌なんだけれども、死のうと思っている子を誘って、慰霊堂っていう死んだ人たちが眠っているような場所に掃除をしに行こうよって言うのは、なんかロマンチックだなって思ったんだよね」

―― すごい発想ですね。

「「Music From Twilight」が、そこに繋がる廃墟感みたいなのがあって」

―― はいはい、なるほど!

「昔ね、ボーイスカウトで清掃しによく行ってたのよ。関東大震災で亡くなった人たちの慰霊堂がうちの近くにあるんだけど、1年に1回夏の暑い日に慰霊堂の清掃奉仕をするっていう習慣があって。そこは鳥の糞がすごいんだ。だから本当にイヤで、1年で一番気が重い日だったの。だけど、俺はそれをサボったことがないの。みんなひどいんだよ、病欠したり、旅行へ行ったって嘘ついたり(笑)」

―― (笑)。まぁでも、普通はイヤですよね。

「イヤだよね。夏に鳥の糞まみれになるのってイヤじゃん。それをね、慰霊堂の前を歩きながら思い出して、“そういえば、昔よく行ったな”って思ったら、これはすごい素敵なタイトルになるなって思って。で、そのまま家に帰ったらもう詞が出来てた。その慰霊堂奉仕はね、今言ったような死をイメージさせる死生感が曲の中にあるんだけれども、“死”っていうものをイメージした時に、曲調とか自分の中にある音楽のジャンルの中から、死だったらこのジャンルだろうなっていうのがあって。いつも空だったらこのジャンルだろうなとか、夜だったらこのジャンルだろうなっていうのがあるんだけど、慰霊堂奉仕は90年代初頭のイギリスのギターポップみたいな曲にしようと思ったのね。90年代初頭のイギリスのギターポップっていうのは、どこかしらに死を彷彿させるような曲や詞が多いのよ。爽やかな歌を歌ってるんだけど、歌ってることはちょっと毒があったり気持ち悪かったりするの。コンプレックスに打ちひしがれた男の子の曲だったりね。だから、“慰霊堂清掃奉仕”っていう言葉が浮かんで、詞の世界観が浮かんだら、自分の引き出しにあるイギリスのギターポップを持ってくるっていうプロセスがあった。それが、すごく上手くいったなっていう感じがあったな」

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