定価:370円(税込)
表紙:木村拓哉
発売日:2013年10月22日
◆“極寒”増税時代を生き抜く「買って楽しく生活防衛」
◆河野洋平・森村誠一対談「憲法9条は戦後日本の“覚悟の表現”だ」
◆「アンパンマン生みの親」やなせたかしさんが遺したもの
追悼 やなせたかしさん
やなせたかしさんが亡くなった。仕事中、ニュースの声にハッとして、しばらく窓辺で夕闇を見つめた。
2006年の『毎日新聞』新年紙面。私はやなせさんに西原理恵子さんとの対談をお願いし、快諾を得て司会を務めた。その温かく飾らない人柄と、詩人ゆえの珠玉の言葉に胸打たれ、記者人生の中の、陽(ひ)だまりのような一日となった。
西原さんは訃報に接し、「たくさん辛(つら)い思いや悲しい経験もされて、でも『愛と勇気だけが友達だ』って、それを作品に昇華されてきた。亡くなってもずっと『尊敬する大先輩』です」と語った。
毎日新聞生活報道部には今も、対談終了後にやなせさんが描いてくださった色紙が飾ってある。アンパンマンの絵とともに、記者たちへのメッセージが書かれた一枚。
〈なんのために生まれて なにをして生きるのか わからないままおわる そんなのはいやだ!〉
胸に刻んで生きようと思う。対談の一部を再掲し、心からの感謝と哀悼の誠を捧げます。
(潟永秀一郎)
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西原 私、自分のこと「すき間商品」って言ってるんです。少年ジャンプで一番になるとか、そういう漫画家は無理だと、勝手に位置を決めてましたから。自信があったら、(バイトで)ミニスカパブにもエロ本にも行ってません。
やなせ 生きていくっていうのは、満員電車に乗るようなものでね。その中で席を見つけるということなんですよ。頑張ってずーっと乗ってると、いつの間にか1人2人と降りていく。「わあっ、あそこ空いた」って(笑)。満員でも、無理矢理乗っちゃうんです。やめたらダメ。降りたら終わり。あきらめさえしなければ、貧乏でも何でも、必ず糧になる。ミニスカパブも、夫と別れるのもね(笑)。後で考えると、やっぱり何かにつながってる。必要なんだ。
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西原 戦争体験は、描かれる漫画にも影響しましたか。
やなせ それはすごい、作品作りの中でありますよ。一番大きいのは「正義というのは信じ難い」ということですね。日本は「中国の民衆を救う」「正義の戦いだ」と言っていたが、戦争が終わったら悪者になっていた。正義は簡単に逆転するんです。フセイン対アメリカでもイスラエル対アラブでも、両方とも「自分の方が正しい」と言っている。勝った方が正義になる。ですから、そんなものは信じ難い。正義の味方なんてものは、信じられないんです。
それともう一つはですね、人生で一番、何がつらいか。「食べられない」ってことなんだよね。だから「正義の味方」だったらね、まず、食べさせること。飢えを助ける。でも戦後ずっと、スーパーマンとかウルトラマンとか、いっぱいヒーローは出てきたけど、みんな飢えている人を助けないんですね。だから「それをやんなくちゃ」という思いがずーっとあって、結局、アンパンマンにつながっていくんです。
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司会 今の子どもたちに望むことは?
やなせ そんな、おこがましいこと。僕は作品を作る時、子どもたちは年齢が違うだけで同じ人間だと、ずっとそう思ってやってきた。だから自分が面白いと思えるものを、一生懸命描いてきた。大事なのは両親と友だちでしょう。その影響って、すごい強いですから。例えば僕が「この本は読んだ方がいい」と言っても、両親がいい本を読んでいなければね。僕も、父親の書棚にある美術書や文学全集を出してた。子どもなりに読んじゃうんだ。面白いところだけ。子どもに読んでほしい本があれば「これは読んではいけない」って言っとくと、勝手に読みますよ(笑)。