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2012年12月13日03時00分

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司法、あなたの目で 最高裁裁判官10人に国民審査

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審査対象となる10氏の主要裁判での憲法判断

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10氏とも判断にかかわった参院選の「一票の格差」をめぐる大法廷判決での意見

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【左上】横田尤孝氏【右上】白木勇氏、【左下】山浦善樹氏

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【左上】須藤正彦氏、【右上】千葉勝美氏、【左下】小貫芳信氏

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【左上】岡部喜代子氏、【右上】大谷剛彦氏、【左下】寺田逸郎氏、【右下】大橋正春氏

 最高裁の裁判官を市民の目でチェックする「国民審査」が16日、衆院選と同時に実施される。15人の裁判官のうち、今回対象となるのは2009年8月の前回審査後に任命された10氏。この3年余りの主な裁判で、各氏が述べてきた意見を紹介する。

■憲法観や信条、個別意見に

 最高裁の判決や決定は「判例」として、全国の地裁・高裁を拘束する大きな影響力を持つ。各裁判官は結論に賛成でも反対でも自らの意見を示せる。中でも憲法に関わる重要な争点を15人全員で審理する大法廷判決での意見は、各裁判官の憲法観や信条が反映されることが多い。

 注目を集めたのは、有権者の「一票の格差」が問われた訴訟だ。最大格差が2.30倍だった前回衆院選について昨年3月の大法廷判決は、各都道府県にまず1議席割り振る「1人別枠方式」に合理性はなく、「違憲状態」と判断した。就任前だった3氏を除く7氏がこれに賛成。うち須藤正彦氏1人が「投票価値の平等は絶対ではないが、政権選択に通じる衆院選では、特に厳格な平等が要求される」と補足意見を述べた。

 参院選は「6倍未満なら合憲」との見方が定着してきたが、今年10月の大法廷判決は初めて、5倍でも「違憲状態」とし、都道府県単位の選挙区割りの見直しを求めた。10氏のうち8氏がこの意見に賛成した。個別意見では、千葉勝美氏が多数意見を補足。さらに厳しい「違憲」と判断した須藤氏、大橋正春氏が反対意見を述べた。

 大法廷の審理こそなかったものの、同じ論点で三つの小法廷が判決を出したのが、東京都の教育現場で「君が代」斉唱時に教諭を起立させる校長の命令の是非が争われた一連の訴訟だ。「思想・良心の自由」が問われ、いずれも命令を「合憲」としたが、減給・停職処分にする際には慎重さを求める判決もあった。

 関与した7氏の中に「違憲」とする意見を述べた裁判官はいなかったが、白木勇氏、寺田逸郎氏を除く5氏が様々な意見を述べた。

 大谷剛彦氏は「不利益処分による強制、それに対する拒否行動があって関係者の対立が深まれば、教育現場は混乱する」と生徒への悪影響を懸念。横田尤孝氏は「式典の阻害行為は放置できないが、重い処分で問題は解決しない」と述べ、命令違反と懲戒処分の「みのりなき応酬」を終わらせるよう関係者に求めた。

 須藤氏は「現場が萎縮すれば、教育の生命が失われかねない。強制や処分は謙抑的であるべきだ」と行政側に自制を求め、岡部喜代子氏も「個人の思想・良心に由来する真剣な不起立であれば、処分が裁量権の乱用にあたる場合もあり得る」と警告した。

 千葉氏は「国旗・国歌への姿勢は、個々人の思想信条に関連する微妙な問題。強制的にではなく、自発的な敬愛の対象となるような環境を整えることが何よりも重要だ」と述べた。

     ◇

■10氏とも判断にかかわった参院選の「一票の格差」をめぐる大法廷判決での意見

《千葉、横田、白木、岡部、大谷、寺田、山浦、小貫の各氏が加わった多数意見=違憲状態》

 衆参両院とも政党に重きを置いた選出方法が採られ、任期の長い参院の役割は大きくなっている。参院の選挙であること自体から、直ちに「投票価値の平等」が後退してよいとは言えない。より適切に民意が反映できるよう、一部の定数増減にとどまらず、都道府県単位の選挙区割りを改めるなど仕組み自体の見直しが必要だ

《千葉氏の補足意見=違憲状態》

 国民一人一人が国政に関わる度合いは、住んでいる都道府県などに関わらず、全国で均等に扱われるべきだ。多角的に十分検討して仕組みを見直すべきだ

《須藤氏の反対意見=違憲》

 格差は2倍前後が許容範囲。著しい不平等状態が慢性的に続いており、次回選挙でも見るべき取り組みがなければ、選挙無効とせざるを得ない

《大橋氏の反対意見=違憲》

 国会は抜本改革せず、国民にその理由も説明していない。常識的な2倍以内という基準を重視すべきだ。無効判決に備え、欠員補充方法の検討を

■第一小法廷

 山口県光市の母子殺害事件で第一小法廷は今年2月、犯行時に18歳1カ月だった元少年について「冷酷、残虐で非人間的な犯行。反省もうかがえず、遺族の被害感情も厳しい」と述べ、死刑とせざるをえないと結論づけた。退官した裁判官1人が反対したが、白木氏は多数意見にくみした。横田氏は検察官当時に事件に関わったため、審理から外れた。

 同じ2月には、裁判員裁判の無罪判決を裁判官だけの高裁で覆すことがどこまで許されるかが争われた事件の判決もあった。「事実認定がよほど不合理でない限り、一審を尊重すべきだ」との初判断を示し、逆転有罪とした高裁判決を破棄。「一審と同じ立場で審理するのではなく、一審の判断に誤りがないかをチェックする」という控訴審本来の役割を明確にした。

 横田氏と白木氏が関与した。白木氏はかつて高裁の裁判長を務めていたが、「従来の手法を改める必要がある」と指摘。「裁判員の様々な視点や感覚を反映させることが予定されている。ある程度の幅を持った事実認定、量刑が許されるべきだ」と述べた。

 3月に就任した山浦善樹氏は目立った個別意見を述べていないが、裁判長として、定年後に従業員を再雇用しなかった会社の対応に誤りがあったとする判決を11月に言い渡した。

     ◇

 よこた・ともゆき 法務省矯正局長、広島高検検事長、最高検次長検事などを経て10年1月に就任。68歳

     ◇

 しらき・ゆう 最高裁刑事局長、東京地裁所長、広島、東京両高裁長官などを経て10年1月に就任。67歳

     ◇

 やまうら・よしき 銀行員から弁護士に。筑波大法科大学院教授などを経て今年3月に就任。66歳

■第二小法廷

 第二小法廷で注目されたのは、地方自治をめぐる今年4月の判決だ。住民訴訟で公金支出の違法性が認められ、自治体が首長に賠償を請求すべきなのに、議会が議決で「帳消し」にしたことが有効かが争われた。

 「基本的には議会の裁量権に委ねられており、乱用がなければ議決は適法」との判断に千葉氏、須藤氏が賛同した。裁判長だった千葉氏は「単なる党派的、温情的な判断で処理することなく、慎重な対応が求められることを肝に銘じるべきだ」と釘を刺したが、住民からは「首長と議会のなれ合いを許すのは納得できない」との声も出た。

 昨年2月には、消費者金融「武富士」の経営者親族に対する約1330億円の追徴課税を取り消す判決に、須藤氏、千葉氏が加わった。

 休日に政党機関紙を配った国家公務員に刑罰を科すことの是非が問われた事件では今月7日、元社会保険庁職員を無罪、元厚生労働省課長補佐を罰金とする判決を千葉氏が裁判長となって言い渡した。刑罰の対象を狭め、一律禁止とされてきた政治活動を一部容認した。小貫芳信氏は2人を起訴した検察の出身だが、元社会保険庁職員を無罪とする結論に賛成した。

     ◇

 すどう・まさひこ 東京弁護士会副会長、司法研修所教官などを経て09年12月に就任。69歳

     ◇

 ちば・かつみ 最高裁民事・行政局長、首席調査官、仙台高裁長官などを経て09年12月に就任。66歳

     ◇

 おぬき・よしのぶ 法務省矯正局長、名古屋、東京両高検検事長などを経て今年4月に就任。64歳

■第三小法廷

 ネット上で横行する音楽や映像の違法ダウンロード。その際に使われるファイル共有ソフト「ウィニー」の開発者を著作権法違反幇助(ほうじょ)の罪に問えるかが争われた事件で、第三小法廷は昨年12月、開発者を無罪とする決定を出した。

 開発者が違法行為をしないよう呼びかけていた点などから、「著作権侵害を手助けしようという故意はなかった」との結論に岡部氏、寺田氏が賛成。大谷氏は「広範囲で著作権侵害が起きると認識しながら提供を続けた」と述べ、有罪とする反対意見を述べた。

 福岡市で3人の子が犠牲になった飲酒運転事故の裁判では、危険運転致死傷罪が成立するかが争点に。一審は業務上過失致死傷罪を適用して懲役7年6カ月としたが、二審が危険運転と認めて懲役20年とし、第三小法廷も昨年10月に支持した。岡部、大谷、寺田の3氏が賛成した。

 賃貸住宅から退去する際に借り手が返してもらう敷金をめぐる訴訟では昨年7月、家主側が一定額を差し引く「敷引(しきびき)特約」は消費者契約法に違反せず有効だとする判決を出した。1カ月の家賃の約3.5倍にあたる差引額も「高額過ぎるとは言えない」との判断に大谷氏、寺田氏が賛成。岡部氏は「高額で、契約書に敷引の性質が明記されていないので無効だ」と反対した。

     ◇

 おかべ・きよこ 東京家裁判事、弁護士、慶応大法科大学院教授などを経て10年4月に就任。63歳

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 おおたに・たけひこ 最高裁経理局長、同事務総長、大阪高裁長官などを経て10年6月に就任。65歳

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 てらだ・いつろう 法務省民事局長、さいたま地裁所長、広島高裁長官などを経て10年12月に就任。64歳

     ◇

 おおはし・まさはる 司法研修所教官、日本弁護士連合会常務理事などを経て今年2月に就任。65歳

     ◇

 〈最高裁裁判官の国民審査〉 衆院選の際に実施することが憲法で定められている。辞めさせるべきだと思う裁判官がいれば、投票用紙に「×」を書く。×以外を記載すると無効になる。×票が有効票の過半数に達すると免職になるが、免職となった裁判官はいない。

     ◇

■ここが知りたい!最高裁裁判官

●どのように選ばれるの?

 内閣が任命する。職業裁判官6人、弁護士4人、検察官2人、官僚2人、法学者1人の「枠」が固定化している。重要な憲法判断を15人全員で審理する大法廷の過半数を、常に裁判官と検察官、官僚の出身者で占めている形だ。

 職業裁判官枠は高裁長官、弁護士枠は弁護士会の要職経験者、検察官枠は高検検事長、官僚枠は外務省や厚生労働省の出身者からというのが近年の傾向だ。選考過程は明らかにされていないが、法律家出身者の後任は最高裁が推薦し、官僚出身者の後任は内閣が人選するのが慣例。

●仕事は大変なの?

 昨年1年間に最高裁が処理した案件は、民事、行政、刑事を合わせて約1万500件。法廷で結論を言い渡す「判決」は約150件のみ。大半は「上告理由がない」「上告を棄却する」などと簡単に述べた書面を当事者に送り、訴えを退ける「決定」だ。

 週休2日として1年間で実働250日なら、1日平均42件。これを5人ずつの三つの小法廷で分担する。実際には、地高裁などの裁判官が務める「調査官」が記録を読み込み、関係する判例や論文を調べて参考資料として提供したり、結論の方向性の案を示したりして補佐する。

 調査官のトップ「首席調査官」は高裁長官の一歩手前のポストで、最高裁裁判官の候補者でもある。今回の審査対象の千葉勝美氏もその経験者だ。

●どこで仕事をするの?

 東京都千代田区隼町の最高裁庁舎内で、皇居に面した個室が各裁判官に与えられている。各室にトイレや洗面所があり、広さは70平方メートル。

●報酬はどれくらいなの?

 1カ月の額面は長官が205万円、他の14人は149万5千円。ただし、今年4月からは長官は30%、それ以外の裁判官は20%減額されている。憲法で「報酬は在任中、減額されない」と定められているが、財政難で公務員全体の給与減が続いているためだ。

●審査はなぜ全員じゃないの?

 憲法の規定で、任命後初の衆院選時に審査を受けると、その後は10年経過ごとに審査を受ける。戦後の一時期を除き、10年以上務めて2度審査を受けた裁判官はいない。60歳をすぎて就任し、70歳で定年となるためだ。今回は、前回審査を受けた竹崎博允(ひろのぶ)長官ら5人が対象外だ。須藤裁判官は今回の審査直後の今月26日に定年を迎える。

     ◇

 朝日新聞デジタル(http://t.asahi.com/9101)に各氏のアンケート結果を掲載中。最高裁HP(http://www.courts.go.jp/saikosai/about/saibankan/index.html)も各氏の情報を紹介している。

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 この特集は青池学が担当しました。

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