出てくるのは極悪非道の男たちだけ!ヤクザ社会の熾烈な抗争を男たちの人間ドラマとして描き、大ヒットを記録した前作から2年。北野武監督初の続編プロジェクト『アウトレイジ ビヨンド』で映し出されるのは……前作とは異なるアプローチの下剋上劇!今作でも主演・監督・脚本・編集を手がけた北野と、前作の生き残りで関東一の暴力団・山王会の若頭にまでのし上がった男を演じた加瀬亮に、新たな全員悪人の世界を語ってもらった!
──前作以上の豪華キャストが実現しましたが、皆を均等に描くのは難しかったのではないでしょうか?
【北野】 加瀬くん、三浦(友和)さん、中野(英雄)くんなんかは前作からキャラクターが生き残ってるから、今作も出てくれるっていう約束があったんだけど、新たに出演いただいた役者陣には、西田(敏行)さんみたいに「出たい」って言ってくれた人たちもいた(笑)。まずその役者さんたちの写真を脚本に合わせて並べて構図を作ってみると、それがひとつの絵みたいになっているから、キャラクターがかち合うってことがないんだよね。だから、話がいろいろ複雑に絡み合ってもわかりやすくなっている。(高橋)克典くんなんかは、後から「出して欲しい」って言ってきてくれたんで、「じゃあ殺し屋にするか。あ、セリフねえや」って(笑)。本人がそれでも「いい」って言うんで出演してもらえた。主役を張るような役者さんを殺し屋のひとりとしては使えないから、ちょっと目立つようにするとかね。けっこう役割分担はうまく行ってるなって思うね。
──加瀬さん演じる石原は山王会のナンバー2にまでのし上がりましたが、前回と少しキャラが変わった印象があります。
【北野】 古参の幹部に「刑務所に行ったこともねえし、背中に墨も入ってねえし、ケンカもよえーし、ただ金で上がっただけじゃねえか」って言われてるけど、それを石原自身も自覚しているんだよね。だから、いつも恐い顔をして、すぐ部下をぶん殴って、虚勢を張って生きている。「お前らごちゃごちゃ言ってんじゃねえぞ」って古参を脅してるんだけど、本当は怯えているんだよね。
【加瀬】 前回のようにずっと疑いの目で周りを見ているというのとは違って、今回は三浦さん演じる加藤会長に忠誠を誓っていると思うんですね。忠誠を誓って自分の役割を果たそうとしているけれども、その器じゃないのか、思うように行かなくて。そのいら立ちと、監督演じる大友が出所してきてからの後ろめたさや不安で自己崩壊していく。そういうふうに考えていきました。
──前作とは暴力描写も変わったように思いますが、どういう意識で撮影されたのでしょうか?
【北野】 前回あまりにも「暴力がすごい」ってことばっかり言われたんで、じゃあ逆の撮り方をしてやろうと思って、因数分解みたいに死体を囲っちゃったっていうか。普通はaがxyzを殺すのは、ax+ay+azになるんだけど、今回はaが拳銃を持って歩くと、次のシーンではxyzの死体だけ映すみたいなやり方をした。それから、大阪弁と関東弁の暴力。言葉での罵り合いもひとつの暴力描写だなと思って。この『アウトレイジ』シリーズは暴力的だってよく言われるけど、人間社会だからそう見えるだけで、これがシマウマだ、ライオンだ、キリンだっていったら、これほどすばらしい自然描写はないよ(笑)。「全員悪人」じゃなくて「みんな自然で生きている」(笑)。生きるために必死になっているだけなんだから、動物だったらこんなに偉いやつらはいない。でも人間社会だと殺し合いにならないようにルールを守って生きていかなきゃならない。時々そのルールを破っちゃうやつっていうのが悪人と言われる人なわけ。こういう暴力的な世界は現実社会とかけ離れているようなイメージだけど、この映画に出てくるのは、どこの会社でも、どこの国でもある構図なんだよね。クビ寸前の部長、課長がいるところに、新進の課長がガンガン上がってきちゃって、いつの間にかナンバー2になって、「あいつ、ヨイショだけで上がったんじゃねぇのか。我々は海外に行って車を売ってきたのに」って言われるような(笑)。
──加瀬さんも今回いろいろな暴力にさらされたと思いますが、いかがでしたか?
【加瀬】 前作の最後のシーンを撮ったときに、なんかいやな予感はしていたんですよね(笑)。僕に関する暴力シーンのことはあまり言えないんですけど、幹部会を仕切るシーンが印象に残っています。あんなに大勢の大人の前で偉そうにしゃべったことなんかなかったので(笑)。あとはやっぱり監督が花菱会の西田さんたちとやり合うシーンは、すごい迫力でおもしろかったですね。
──加瀬さんは国際経験も豊かですが、北野監督が世界で評価されている理由を現場で感じたことはありますか?
【加瀬】 僕が最初に監督の作品を観たのは『ソナチネ』なんですけど、とにかくそれまでに観たことがない世界観と、その不思議な感触みたいなものにすごく衝撃を受けました。起こっていることは激しいのに、すごく静かな……静なる世界として描かれていて。やっぱりその独特な世界観というのが、北野監督作品のいちばん大きな要素なのだと思っています。現場にいても、監督は自分からすると本当に独特なんです。台本を読んで想像していることよりも、受け取れるものがはるかに多いので、いつも現場に行って驚いていたという感じです。
──最後に、話は変わりますが、世界的な有名監督である北野監督と連絡がとりたいと、『エクスペンダブルズ2』に出演する某ハリウッドスターが言っているらしいんですが……。
【北野】 (メッセージを受け取り名前を聞いて:注)これがアドレス?誰だっけ?このあいだ、ジュード・ロウはテレビ局まで来たよ。「俺を使え」って言い出して、お土産渡したら帰っていったけど(笑)。あと、あのひとも来たな、『アベンジャーズ』のひと。
──サミュエル・L・ジャクソンですか?
【北野】 そうそう。でもオレの映画じゃ、みんな使いようがねえよなあ(笑)。
(文:岡 大/撮り下ろし写真:片山よしお)
注:北野監督へのメッセージを預かる経緯は『テレビブロス』誌(10/10発売)の『エクスペンダブルズ2』記事にて掲載。某ハリウッドスターの名前は、10/10より本ページにて掲載します。
北野武
1947年1月18日生まれ。東京都出身。
1973年、ビートきよしと漫才コンビ・ツービートを結成。俳優としても活躍するほか、自ら手がけた監督作は世界的な高評価を得る。『HANA-BI』(1997年)で第54回ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。『座頭市』(2003年)で第60回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞。2010年、主演・監督を務めた『アウトレイジ』が大ヒットを記録。2012年、自身初の続編となる『アウトレイジ ビヨンド』が公開。
加瀬亮
1974年11月9日生まれ。神奈川県出身。
2000年、映画『五条霊戦記』でスクリーンデビュー。2003年、映画『アンテナ』で初主演を務め注目を浴びる。以降、日本映画界を代表する実力派俳優のひとりとして活躍中。海外の有名映画監督との仕事も数多く経験している。2012年、『劇場版SPEC〜天〜』『Like someone in love』(アッバス・キアロスタミ監督)などに出演。