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脱原発の選択−エネルギー先進国ドイツ(上)戦略/風力拡大、転換の柱に

ドイツ農村部に立地する風力発電機。脱原発に向け、風力が電力供給の柱として期待されている=6日、フェルトハイム村

 東京電力福島第1原発事故をきっかけに、各国のエネルギー政策が問われている。ドイツはことし、2022年までに国内の原子力発電所17基を全て停止することを決め、「脱原発」に大きくかじを切った。欧州経済のけん引国は、風力をはじめとする再生可能エネルギーへの転換をどう進めるのか。公益社団法人ゲーテ・インスティトゥート(ドイツ文化センター)の招待で現地を訪れた東日本大震災の被災地の研究者らに同行し、最新事情を探った。(報道部・小沢邦嘉)

<農村が一翼担う>
 小麦畑が広がる大地に、43基の大型風力発電機が立ち並ぶ。ベルリンから南西約90キロにあるフェルトハイム村。人口わずか145人の農村が、ドイツの「脱原発」の一翼を担おうとしている。
 「原子力は電力供給のブリッジ(つなぎ)役にすぎない。風力こそが重要だ」。地元の発電事業者エナジー・クエラ社のヴェルナー・フローヴィッタさんは力を込める。
 同社が運営する43基の総出力は7万4000キロワットに上る。加えて養豚業が盛んな地域特性を生かし、家畜のふん尿などを発酵させ発電するバイオガス発電施設(出力500キロワット)を併設。その施設には住民も出資する。
 一連の施設で発電された電力は村全体の需要を賄うだけでなく、送電事業者に売電され他地域に供給されている。
 同社は新たに発電能力の拡大にも取り組む。老朽化した風車の出力をさらに大きくする「リパワリング」。手始めに、13年に出力50キロワットの4基を撤去して各3000キロワットの2基を新設する。
 ドイツには数多くの風力発電施設があり、政府は「リパワリング」を脱原発に向けた事業の柱の一つに位置付ける。
 「これまでも税収面などで村に貢献してきた。化石燃料の削減効果は現在でも年間約4万トンに上る」とフローヴィッタさん。今後はそこに「脱原発」に向けた役割が加わることになる。

<洋上にも発電所>
 ドイツの総発電量(2010年)に占める風力や太陽光、水力など再生可能エネルギーの割合は約17%に上る。10年度当初計画で水力の8.7%を含めても9.9%にとどまる日本の倍近い。
 政府はそれを20年に35%、50年に80%まで引き上げ、現在約22%の原子力ばかりか、約42%の石炭にも代わる主力エネルギーに育てる方針だ。
 このため「リパワリング」などと並んで重視するのが「洋上風力」の活用。具体的には、20年までに原発10基に相当する出力計1万メガワット分の発電所を北海などに整備する計画を立てている。
 ドイツ北部のハノーバー大は研究の最先端を担う。水利工事・海岸工学専門の研究所には、人工的に波を発生させる設備があり、安定的に発電するための洋上風力施設の構造研究が続く。10月には風力発電に特化した修士課程を新設し、専門エンジニアの育成にも乗りだした。
世界が動向注視
 ドイツ政府は再生エネルギーの「全量固定価格買い取り制度」の充実なども図り、風力を拡大させ脱原発を実現させる考えを打ち出している。
 再生エネルギー中心の社会実現には、大規模な送配電網の新設や天候に左右されやすい風力発電の安定化など課題が多い。ドイツの動向を世界が注視する。
 ハノーバー大のトーステン・シュルールマン教授は「政府は『海上にわれわれの未来がある』と洋上風力を促進してきた。フクシマの事故後、風力の重要性は一段と高まっており、革新的な技術発展を目指したい」と強調する。


2011年12月22日木曜日

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