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講談社から皆様へ

『僕はパパを殺すことに決めた』
「調査委員会報告書」ならびに「講談社の見解」発表にあたって

2008年4月9日
株式会社 講談社

 2007年10月14日、弊社刊行の『僕はパパを殺すことに決めた』出版に関わったとして、精神科医の崎濱盛三医師が秘密漏示罪で奈良地検に逮捕されるという、前代未聞の事態が起こりました。これは、断じて許すことのできない検察の暴挙であり、公権力の不当な行使によって、メディアおよび情報提供者を萎縮させることを狙ったいわゆる国策捜査以外のなにものでもありません。一方で、弊社は本来あってはならない報道・出版に対する公権力の介入を招いてしまった責任を痛感しております。また、不当な捜査によるものとはいえ、崎濱医師はじめ多くの方々に多大なご迷惑をおかけしてしまいました。あらためてお詫び申し上げます。

 4月14日、奈良地裁において崎濱医師の裁判が始まります。この裁判では、崎濱医師逮捕の不当性が明白になり、無罪判決が勝ち取れるものと、確信しております。そのために、弊社はできうるかぎりの協力をしてまいります。

 この本が昨年5月に刊行されて以降、さまざまなご批判・ご意見をいただいてまいりました。公権力の側からは、発売直後に長勢甚遠法相(当時)の遺憾談話が発せられ、7月には「今後このような人権侵害行為をすることのないように」との勧告が、東京法務局長からなされたりしております。

 そして、9月14日、奈良地検によって、崎濱医師の自宅と勤務先、著者草薙厚子さんの自宅および所属事務所が家宅捜索され、きわめて不当な捜査が始まりました。

 強制捜査がスタートした9月14日からの約1週間は、検察からの任意での事情聴取の求めに応じ、複数の弊社社員が検察庁に出頭を続けました。しかしながら、「長時間の、しかもきわめて威圧的な取調べ」が続いたため再三抗議いたしました。にもかかわらず全く事態が好転しなかったばかりか、悪質な虚偽情報のリークが繰り返されました。そのため、9月22日からは聴取を拒否しております。この前後には家宅捜索間近の情報も流れ、社として強制捜査を覚悟した時期もありました。

 ところが、検察は、著者草薙厚子さんを被疑者として執拗に取り調べるとともに、聴取に応じ逃亡・証拠湮滅のおそれのない崎濱医師を逮捕、さらに京大教授に対するまったくの「誤認捜査」(自宅・研究室を家宅捜索)まで行いました。捜査全体が、常軌を逸した形で終始展開されたわけです。11月2日に、崎濱医師が起訴されるという、あってはならない形で捜査は終結しました。検察の暴挙によって惹起されたこの事態は、私たちにとっては過去に例をみない痛恨事でありました。

 本作りの段階でおかしたミスによって、検察に踏み込むすきを与え、多くの方々に筆舌に尽くし難いご迷惑をおかけしてしまったことを、今後も私たちはけっして忘れてはならないと考えております。あまりに苦いこの教訓の中から、私たちの重大ミスはなぜ起こったのか、二度とこのようなミスを起こさないためにどのような対策が必要なのか、そしてなにより今後の出版活動はどうあるべきなのか、私たち自身が真剣に考え続けなければなりません。

 そのような反省のもと、昨年12月、奥平康弘委員長以下5人の有識者の方々にお願いし、 第三者機関である「調査委員会」をスタートしていただいたのです。率直かつ厳しいご意見・ご批判をいただき、今後の出版活動に生かしていく、それこそが最大の眼目です。

 このたび、「最終報告」を調査委員会からいただきました。この問題にかかわった多数の社内外の関係者へのヒアリングと、それに基づく討議を精力的に行っていただいた調査委員の方々に厚く御礼申し上げます。

 去る10月17日に発表した社の見解においても、「権力の介入を引き起こしてしまった社会的責任を痛感して」いると述べています。多くの有識者の方々が、「検察はメディアおよび情報提供者を『萎縮』させるために今回の不当捜査を行った」と指摘しています。

 であるからこそ、今回の事態を招いてしまった私たちが「萎縮」してはならない、この苦い教訓を生かして真摯な出版活動を行っていくことこそが、私たちの最大の責務であると考えます。

 調査委員会からは、本作りの過程での諸問題について、数々の厳しいご指摘をいただいております。

 社の見解の中で、これらに対する私たちの反省や今後の対策を述べておりますが、これにとどまらず、今後も日常の出版活動の中で、編集者一人一人が、常に自問自答していかねばなりません。

 調査委員会のご指摘の中にある「少年審判の非公開」や「プライバシー侵害と公益性との比較衡量」に関する点などについては、社会全体にさまざまな意見があります。ご指摘は重く受け止めますが、私たち出版社の責務は多様な意見を読者に問うていくことにあります。時には異なる意見も総合的にとらえ、今後の出版活動に生かしていきたいと存じます。

 なにとぞご理解いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

>>調査委員会報告書  >>講談社の見解


2008年12月10日

 なお、著者・草薙厚子氏の見解は、下記ファイルをご覧ください。

>>著者の見解


2009年4月15日

>>判決にあたっての見解