【オピニオン】米国と中国、「発展途上国」はどちらかという疑問 - WSJ日本版 - jp.WSJ.com
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【オピニオン】米国と中国、「発展途上国」はどちらかという疑問


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ロバート・ハーボールド

 最近、企業の取締役会への出席と顧客と政府の訪問のため、ロサンゼルスから中国の上海と北京まで飛行機で行く機会があった。日程を終え、米中について考えをめぐらせた時、どちらが先進国でどちらが発展途上国なのかよく分からなくなってしまった。

AFP/Getty Images

北京-上海間を結ぶ新高速鉄道は、現在5000マイルの中国の高速鉄道網のなかでも輝かしい業績だ

<インフラについて>

 正直に認めよう。ロサンゼルスは老朽化している。空港は手狭で汚く、扱う旅客や貨物の量に比して小さすぎる。しかも修理が必要な状態、ときている。対照的に、北京や上海の空港は真新しく、清潔で信じられないほど広大だ。丁寧で感じの良いスタッフも大勢いる。昨今のグローバルビジネスには欠かせない大量の航空交通量の処理が可能な、極めて優秀な設計となっている。

 空港に行くためにロス近郊の幹線道路を走っていても、その荒廃した状態には愕然とする。もちろん、修理できないのはカリフォルニア州が破産状態にあるためだということは分かっている。しかし、上海・北京といった中国主要都市のインフラは明らかに最新式で相対的に新しい。

 渋滞は北京・上海もロスと同じだ。米国では年間1100万台の車が販売されるのに対し、中国では1800万台。中国は今、その車が走る巨大な需要に追い付くため、道路を盛んに建設している。北京-上海間(約800マイル=1280km)を5時間弱で結ぶ完成したばかりの高速鉄道は、総延長が5000マイルの中国高速鉄道網の輝かしい功績だ。同鉄道網は、2020年には1万マイルに延長される。当然、老朽化のアムトラックとは雲泥の差がある。

<政府のリーダーシップについて>

 この違いには驚くべきものがある。我々が出席したすべての会合――企業顧客4件と中国政府の異なる4つの部門の代表との会合で、彼らは、プレゼンの冒頭で新5カ年計画について触れた。今年3月に発表された第12次5カ年計画のことだ。我々は、それぞれのグループの話を聞き、新5カ年計画では以下の3つに重点が置かれていることが分かった。

1) 国家の革新を進める

2) 中国による環境負荷を大幅に改善させる

3) 地方から都市部に流れ込む大量の人々のために引き続き雇用を創出する

 米国で議会と大統領が、中国がいつもやっているように、ひとつの5カ年計画に合意して実際に行動に移すことなど、考えられるだろうか。

 5カ年計画の各項目で中国が掲げる目標の具体性は見事なものだ。たとえば、中国は、2016年までに二酸化炭素の排出量を17%削減する計画だ。その間、中国のハイテク産業が同国経済に占める割合は、現在の3%から15%に拡大する見込みだ。

<政府財政について>

 この話題は、正直言って気恥ずかしい。中国は、細心の注意を払って経済を運営しており、かつ数兆ドルの余剰資金を抱えている。一方、米国は、ここ何年もまずい財政運営が続いており、ギリシャのような惨事の危険に国をさらしている。

<人権と言論の自由について>

 この分野について、中国には課題が山積しているというのがアメリカ人の見方だ。これに対し、若者・市民をポルノや反政府意見から遮断しないアメリカ人は馬鹿げている、というのが中国人の見方だ。

<テクノロジーとイノベーションについて>

 技術革新で世界的な競争力を目指す中国の決意について知ってもらうには、我々が訪れた2つの施設について紹介するのがよいだろう。そのひとつが中国科学院の一部門である生物物理研究所だ。同研究所は過去10年、中国政府から極めて多大な投資を受け入れてきた。現在、この研究所では、3000人以上の才能ある科学者達がタンパク質科学や脳科学、認知科学などの分野で世界レベルの研究を行っている。

 我々は、中国科学院の別部門である上海高等研究院も訪れた。この巨大な科学技術パークは建設中で、現在、4棟の建物で構成されているが、約3分の1平方マイル(約26万坪)の広大な敷地に60棟以上が建てられる見込みだ。スタッフは、博士号を持つ優秀な研究者で占められている。彼らの目指すところは、「事業関連の新技術の開発でパイオニアになる」とかなり明白だ。

 中国科学院によって運営されるすべての研究所は、大幅な規模拡大を予定しており、「百千万人材プロジェクト」と呼ばれる新たなプログラムが人材配置の追い風となる。これは、現在海外に居住している教育を受けた中国国民の獲得に向けた、政府の努力の一環である。政府が求めるのは、技術力が世界レベルにある、主に博士号を持つ海外の大学・科学研究所で働く人々だ。新5カ年計画には、毎年、こういった中国への帰国人材を2000人採用することが目標に掲げられている。

<理由と対策>

 以上のことから、私がなぜ「どちらが先進国でどちらが発展途上国なのか」という根本的な疑問を呈したのか、読者にわかってもらえると思う。次の疑問は、「なぜこうした状況が起きているのか。米国は何をすべきか」である。

 正直に認めよう――我々は敗北しつつある。米政府は大幅な改善を実現できそうにないからだ。問題が発生すれば、すぐに対立状態に陥り、メディアによって、対立はますます深刻化する(メディアは注目を集めたり、視聴者を増やしたりするため、極端な意見が必要だ)。一方、独裁的な中国の指導部は、迅速に事を成す(今は、独裁者の方が非常に効率的なようだ)。

 では、どんな対策を打てばよいのか。ワシントンの政治家と米国の有権者は、自らが敗北しつつあることに即座に気づく必要がある。そして、米国を軌道に戻すための大改革を行わなければならない。つまり、予算と給付負担の問題を解決し、積極的な5カ年の債務削減計画を実行し、選び抜かれた計画の承認に着手するのだ。

 さあ米国よ、目覚めるのだ!

(ハーボールド氏は、マイクロソフトの元最高執行責任者。現在は、ハーボールド・グループのマネジング・ディレクターを務める。著書に『What’s Holding You Back? Ten Bold Steps That Define Gutsy Leaders』がある。)

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