国際通貨基金(IMF)の一部加盟国は先週末、自国へのドル流入を抑制するために資本規制など、あらゆる選択肢を残しておくべきだと主張した。経済発展には投資が必要であることを考えると、資本規制は危険なゲームだ。しかし、一方で、このことは、米国のドル政策の失敗と金融上の指導力低下に対し、世界が拒否反応を強めている表れともいえる。
ドルは世界の準備通貨である。同様に、米国の中央銀行である連邦準備理事会(FRB)は、世界の中銀に最も近い存在である。しかしながら、少なくともこの10年、とりわけ2008年終盤から、FRBは、唯一の関心事が米国内経済であるかのように振る舞ってきた。
FRBの容赦ない金融緩和と議会の向こう見ずな支出策を受けて、投資家は、高いリターンと持続的な成長を求め、米国からアジアや南米などへ逃げ出した。IMFの予想によると、2009年7月から2010年6月までの間、トルコへの資金流入は対GDP比で6.9%、南アフリカは6.6%、タイは5%に相当する。
この巨額な投資資金 は、流入国の中央銀行を苦境に陥れている。何も手を打たなければ、資産バブルとインフレを招く可能性がある。ブラジル(インフレ率は6.3%)と中国(5.4%はあくまで公式な数字であり、間違いなく実際はこれを上回る)は、ほかの国と同様、インフレの高進になんとか耐えている。これらの国は、利上げや自国通貨高の放置が可能だが、それは経済成長を鈍化させる危険がある。多くの国は、資金流入を止める手段として、そのような経済上の調整ではなく、資本規制や管理的措置を取っている。
この1年、ブラジルは、株式・債券投資への課税を導入、預金準備率も引き上げた。インドネシアは、国債の保有期間を設定。韓国は、銀行の外貨調達の取引に制限を設けるなどした。ペルーとトルコも対策を取った。それでも、多くの新興国で、通貨は上昇を続け、資金の流入が続いている。
こうしたいきさつを考えると、IMFのドミニク・ストロスカーン専務理事が今月、資本規制は「暫定的な手段」としては必要だと発言し、自由な資本移動に対するIMFの長年のコミットメントに終止符を打ったことは、驚くにあたらない。IMFが最後に同様の行動を取ったのは、1990年代半ばのメキシコ金融危機の時だった。
IMFは先週末、そのような資本規制「手段」の発動時期に関する指針について、参加国の承認を期待していた。しかし、ブラジルのマンテガ財務相は指針の受け入れを拒否。資本規制は、他国の政策の影響に対抗するために必要な「自己防衛」手段であると主張した。もちろん、マンテガ財務相が言う他国とは、米国を念頭に置いたものだ。
これに対してガイトナー財務長官は、新興国を反撃した。彼の反応は、1970年代にジョン・コナリー財務長官が欧州代表団に放った有名なセリフ「ドルは我々の通貨だが、あなた方の問題だ」と基本的に変わらない。
つまり、世界は米国のドル安基準から自国を守り、おそらく最後には自由になろうとし始めている。欧州中央銀行(ECB)は最近、利上げを実施したが、インフレ発生を回避するために追加利上げを行うだろう。中国は、グローバル通貨への第一歩として、人民元建ての貿易の拡大を認めている。最近中国で開かれたBRICs会議で、指導者らは「安定と確実性をもたらす広範な国際準備通貨システム」の必要性を訴えた。彼らが言っているのはドルのことではない。
米国内でさえ、ドルのヘッジとして商品(たとえば原油)や金を買う動きがある。ユタ州は最近、事実上の代替通貨として、金の売買を容易にする措置を取った。こうした動きが果たして賢明な投資かどうかは別として、間違いなく、これは、米政府の経済運営に対する不信感の兆候だ。
オバマ大統領は今週、市民との対話集会で、原油価格の上昇は「投機筋」が理由だと述べた。彼は、ドル安に対するヘッジへと世界を突き動かしたFRBと財務省についても言及すべきだった。バーナンキFRB議長とガイトナー財務長官は、経済を膨張させ、資産価格を押し上げる、前代未聞の金融政策と財政支出策を故意に取ってきた。その代償が、今進行中のドル安と食品・エネルギー価格の上昇、そして米経済に対する信頼の低下というわけだ。