前へ 次へ

8 ヒト健康への影響

8.1 生体内運命

吸収・分布
 6 mL/kg又は9 mL/kgを経口でラットに単回投与した場合の血液中の濃度は、投与後1~2時間で最高濃度に達し、12時間後にはほとんど消失する (Wineck et al., 1978)。
ラット皮膚へエチレングリコールを閉塞適用した試験で、1,000 mg/kgまでの投与量では約30%が吸収され (Frantz et al., 1989)、マウスでは80~90%吸収された (Frantz et al., 1991)。
 3人のボランティアより皮膚の提供を受け、in vitroでのエチレングリコールの皮膚透過を調べた試験で、14Cで標識したエチレングリコール8μg/cm2を皮膚に塗布し、24時間後放射能を測定したところ、投与量の18.3%が皮膚を通過し、8.3%が皮膚中にあり、12.5%が皮膚表面に残っていた。3人の皮膚の平均吸収率及び吸収速度は、26.6%及び0.09μg/cm2/時間であった (Driver et al., 1993)。

代謝排泄
エチレングリコールの動物における代謝経路を図 8-1に示す。
エチレングリコールは肝臓及び腎臓でニコチンアミドアデニンジヌクレオチド依存アルコール脱水素酵素の作用でグリコールアルデヒドに酸化される。グリコールアルデヒドは、ミトコンドリアのアルデヒド脱水素酵素及びサイトゾルのアルデヒド酸化酵素でグリコール酸へと酸化される。さらに、グリコール酸酸化酵素、又は乳酸脱水素酵素でグリオキシル酸へと酸化される。グリオキシル酸からシュウ酸への酸化はグリコール酸酸化酵素が行う (Carney, 1994)。
エチレングリコールの全身毒性影響 (代謝性アシドーシス、腎臓障害等)は親化合物よりはむしろ代謝物により生じると考えられているが、種々の代謝物の詳細な役割はわかっていない (Jacobsen and McMartin, 1986)。
グリコール酸塩は代謝性アシドーシスの発生に重要な役割をもたらすと報告されている(Clay and Murphy, 1977; Gabow et al., 1986; Jacobsen et al., 1988)。
エチレングリコールを飲んだヒトの例では、摂取24~48時間後には、尿中や組織中にエチレングリコールを検出できなかった (Wineck et al., 1978)。これは比較的早く体内変化していることを示している。
エチレングリコールの血清中での半減期は子供で2.5時間である (Rothman et al., 1986)。
大人の血清中の半減期は、血液透析中で2.7時間 (Cheng et al., 1987)、処置していない場合は3.0~8.4時間と推定される (Jacobsen et al., 1988; Peterson et al., 1963)。
飲水投与におけるラット及びイヌの血漿中の半減期はそれぞれ1.7時間及び3.4時間であった (Hewlett et al., 1989)。
ラットにエチレングリコールの蒸気又はエアロゾルを鼻部暴露した場合、血漿中の半減期は34~39時間であり、当初の負荷の75~85%は速やかに動物体内に分布する (Marshall and Cheng, 1983)。
ラットに2,000 mg/kg、イヌに1,000~1,360 mg/kgを投与した試験で血清中の半減期は、それぞれ、1.7時間と3.5時間と計算された。ラットに10~1,000 mg/kgを与えた場合の半減期は1.4~2.5時間、CD-1マウスに10~1,000 mg/kg与えた場合は0.3~1.1時間であった (Frantz et al., 1989,1991; Hewlett et al., 1989)
ラットに放射性標識したエチレングリコールを1,000 mg/kgまで経口投与した試験で、放射性炭素の主な排泄路は呼気中のCO2 (42%)であり、尿中は24%、糞中へは3%であった。同様に、マウスの場合は呼気中に55%、尿中に24%、糞中に12%であった (Frantz et al., 1989,1991)。
一方、イヌの場合は経口投与のほぼ50%が尿中に排泄された (Grauer et al., 1984)。
14C-エチレングリコール20、200、1,000、2,000 mg/kgをF344ラットの腹腔内に投与した試験で14Cの血液中の生物学的半減期は約3~5時間であった。20、200 mg/kg投与の場合の約48時間後までの呼気及び尿中への14Cの排出は39%及び35%であった。一方、1,000、2,000 mg/kg投与の場合は呼気及び尿中への排出は26%及び56%となり、尿中への排泄比率が増加した (Marshall, 1982)。
イヌへの静脈内投与時の血漿中の半減期は3~4.4時間であった (Martis et al., 1982)。

エチレングリコール
(CH2OH―CH2OH)
 アルコール脱水素酵素

グリコールアルデヒド
アルデヒド脱水素酵素 (CH2OH―CHO)

  グリコール酸グリオキザール
 (CH2OH―COOH)(CHOCHO)
グリコール酸酸化酵素 又は
乳酸脱水素酵素
グリオキシル酸
(CHO―COOH)

  蟻 酸 シュウ酸グリシン
  (HCOOH)(HOOC―COOH)(NH2-CH2-COOH)

  二酸化炭素シュウ酸カルシウム
  (CO2) (Ca(COO)2)


図 8-1 エチレングリコールの代謝経路図 (Carney, 1994より)


8.2 疫学調査及び事例

テキサス州の化学品製造プラントにて22年以上にわたり26例の腎臓がんの症例対照研究が実施された。エチレングリコール製造履歴群の腎臓がんのオッズ比は1.25 (90%信頼性区間0.29~5.37) であり、その他の多くのリスクファクター (塩素製造工程、軽質炭化水素の製造工程、メタン塩素化工程等) があるにもかかわらず有意な増加を示さなかった (Bond et al., 1985)。
これまでにエチレングリコールが含まれている自動車の不凍液の誤飲や飲料水への混入による多くの死亡例が報告されており、エチレングリコールの経口摂取によるヒトでの急性毒性は実験動物より低濃度で発症し、致死量は1.56g/kg (大人で111g/人) と推定されている。死因は急性の中枢神経系の機能不全及び腎臓障害によるとされている (Amdur et al., 1991; Cavender and Sowinski., 1994; Gosselin et al., 1984)。
エチレングリコールの経口摂取は、その代謝物による重篤な中毒をもたらす。第1段階 (摂取から6~12時間) では、軽い中毒症状からけいれんを生じ、昏睡状態となる。第2段階では、頻脈、血圧の上昇が起こる。この段階を経て、死を免れた者は第3段階のタンパク尿、血尿を伴った腎臓障害が起こる。経口摂取の典型的所見は高アニオンギャップを伴った代謝性アシドーシスであった (Gosselin et al., 1984; Jacobson et al., 1986; Linnanvuo-Laitinen and Huttanen, 1986; Ruth, 1986)。第4段階は中枢神経系への影響で、眼神経合併症も報告されている。死因の大部分は中枢神経抑制か、腎不全であった (Andersen and Adams, 1990; Mallya et al., 1986; Spillane et al., 1991)。 
眼に飛沫が入った事故では、急性の虹彩/毛様体炎が起こった (Sykowsky, 1951)。
ボランティアによる55 ppmの吸入暴露試験で吸入開始1.5分後から喉及び上気道の痛みがあり、79 ppm以上では、痛みが非常に激しく1分以上耐えられなかったとの報告がある (Wills et al., 1974)。

8.3 実験動物に対する毒性

8.3.1 急性毒性

エチレングリコールの実験動物に対する急性毒性試験結果を表 8-1に示す (Berezhnoi, 1982; Clark et al., 1979; Flury and Wirth, 1933; Hanzlik et al., 1931; Karel et al., 1947; Kersting and Nielsen, 1966; Koleva, 1976; Latven and Molitor, 1939; Marshall et al., 1979; Mason et al., 1971; Peterson et al., 1963; Smyth et al., 1941)。
急性毒性の経口経路でのLD50は、マウスでは8,350 mg/kgであり、ラットでは、4,000~10,020 mg/kgであった。
毒性症状としては、投与量に相関した中枢神経抑制作用があり、多量投与では、昏睡、麻痺、運動失調を示し死に至る。また、頻脈、頻呼吸、気管支肺炎、肺浮腫、うっ血性心不全、代謝性アシドーシスが起こる。多渇症、多尿症が腎臓障害を伴って同時に起こり、シュウ酸カルシウム結晶が尿中に見られる。病理組織学的にはシュウ酸カルシウム結晶沈着による腎尿細管上皮の変性、間質性水腫、腎皮質の出血性壊死がみられる (Grauer et al., 1984; Rowe and Wolf, 1982; Wineck et al., 1978)。
ネコの急性毒性値が他の動物種に比して低い値を示しているが、ネコはエチレングリコールの代謝が早く、その結果、非常に多量のシュウ酸を生成するため、腎臓毒性が強く現れると考えられている (Andrews and Synder, 1991)。


表 8-1 エチレングリコールの急性毒性試験結果

マウスラットウサギモルモットイヌネコ
経口LD50
(mg/kg)
8,350 4,000-10,020 ND6,6107,3501,650
吸入LC50
(mg/L)
NDNDNDNDND0.5 (25℃飽和)6時間/日×5日で全て生存
経皮LD50
(mg/kg)
NDND10,600 NDNDND
皮下LD50
(mg/kg)
5,0005,300NDNDNDND
筋肉内LD50 (mg/kg)
4,400-5,500 5,500-6,600 NDNDND
腹腔内LD50
(mg/kg)
5,0006,460NDNDNDND
静脈内LD50
(mg/kg)
3,3402,200-2,8004,400-5,000NDNDND

ND; データなし


8.3.2 刺激性及び腐食性

ウサギ、モルモットを用いた皮膚刺激性試験では、エチレングリコールは軽度 (mild)の皮膚刺激性がみられた (Clark et al., 1979; Guillot et al., 1982a,b,c)。
ウサギにおけるエチレングリコール (液体及び蒸気) の眼に対する刺激性試験では永久的な角膜損傷はなく、ごく軽度の結膜への刺激がみられた (Clark et al., 1979; Grant and Schuman, 1993; Guillot et al., 1982a,b,c ; McDonald et al., 1972,1977)。

8.3.3 感作性 

調査した範囲内では、エチレングリコールの感作性に関する試験報告は得られていない。

8.3.4 反復投与毒性

 a. 経口投与   
エチレングリコールの実験動物に対する反復投与試験結果を表 8-2に示す。
雌雄のB6C3F1マウス (各10匹/群) にエチレングリコールを0、3,200、6,300、12,500、25,000、50,000 ppm含む飼料を13週間与えた試験で、雄の25,000 ppm以上の投与群で腎症及び肝細胞の小葉中心性硝子様変性 (顆粒、又は結晶性の好酸性硝子物質の沈着) がみられた。雌では3,200 ppm以上の投与群で摂餌量が増加したが病理組織学的変化はなかった (U.S.NTP, 1993)。
雌雄のB6C3F1マウス (各10匹/群) にエチレングリコールを0、0.32、0.63、1.25、2.5、5.0% (0、500、1,000、1,900、3,800、7,500 mg/kg/日相当) 含む飼料を13週間与えた試験で、雄は2.5%以上の投与群、雌は5%投与群で腎尿細管上皮細胞の変性、肝臓の小葉中心性の硝子様変性及び線維化がみられた。この試験でのNOAELは、雄で1.25% (1,900 mg/kg/日相当)、雌で2.5% (3,800 mg/kg/日相当) であった (Melnick, 1984)。
雌雄のB6C3F1マウス (各60匹/群) にエチレングリコールを雄には 0、6,250、12,500、25,000 ppm (0、1,500、3,000、6,000mg/kg/日相当)、雌には0、12,500、25,000、50,000 ppm (0、3,000、6,000、12,000 mg/kg/日相当) 含む飼料をそれぞれ103週間与えた試験で、12,500 ppm 以上の投与群で、雄に肝細胞硝子様変性、雌に肺動脈中膜細胞の過形成、雄の25,000 ppm投与群で、ごく少数に尿細管、尿道、膀胱にシュウ酸と思われる結晶、結石がみられた。50,000 ppm投与群で雌に肝細胞硝子様変性が見られた。この試験のNOAELは雄では、肝細胞硝子様変性を指標とした6,250 ppm、また、雌のLOAELは、肺動脈中膜細胞の過形成を指標とした12,500 ppmであった (U.S. NTP, 1993)。
雌雄のCD-1マウス (各80匹/群) にエチレングリコールを0、40、200、1,000 mg/kg/日含む飼料を2年間与えた発がん性試験で、最高投与量の1,000 mg/kg/日まで投与による影響はみられなかった (De Pass et al., 1986a)。
ラットにエチレングリコールの2,200 mg/kg/日を6日間強制経口投与した試験で、腎臓にシュウ酸カルシウム結晶の沈着がみられた (Rajagopal et al., 1977)。
ラットにエチレングリコールを0、0.5、1.0、2.0、4.0 % (0、554、1,108、2,216、4,432 mg/kg/日相当) 含む飼料を10日間与えた試験で、2%以上の投与群で腎臓尿細管拡張、管内にタンパク様物質及びシュウ酸カルシウム結晶沈着、尿細管上皮の変性及び壊死がみられ、4%投与群では体重減少、ヘモグロビン、ヘマトクリット値、赤血球数、白血球数の減少がみられた (Robinson et al., 1990)。
雌雄のWistarラットにエチレングリコール0、2,000 mg/kg/日を4週間強制経口投与した試験で、腎臓障害 (相対重量増加、変色、結晶沈着) 及び尿中シュウ酸カルシウムの増加がみられた (Schladt et al., 1998)。
雌雄のF344ラット (各10匹/群) にエチレングリコールを0、0.32、0.63、1.25、2.5、5.0% (0、200、400、900、1,800、3,500 mg/kg/日相当) 含む飼料を13週間与えた試験で、2.5%以上の投与群で雄では、血中尿素窒素の増加、雌では腎臓相対重量の増加がみられ、5%投与群では、腎臓への影響 (雄:腎臓相対重量増加、腎臓病理組織学的変化、血中尿素窒素の増加、ネフローゼ、雌: 腎臓相対重量増加) のほかに雄では死亡率の増加、脳へのシュウ酸カルシウムと思われる結晶の沈着が認められた。この試験におけるNOAELは腎臓障害を指標とした1.25% (900 mg/kg/日相当) であった (Melnick, 1984)。
雌雄のSDラット (各10匹/群) にエチレングリコールを0、227、554、1,108、2,216 mg/kg/日含む水を90日間与えた試験で、雄の1,108 mg/kg/日以上の投与群で腎臓尿細管の拡張、尿細管上皮の変性、尿細管及び腎盂へのシュウ酸カルシウムの沈着がみられた。 2,216 mg/kg/日の投与群では、雌雄とも死亡及び体重増加の抑制がみられた。この試験におけるNOAELを著者らは、雄では腎臓障害を指標とした554 mg/kg/日、雌では体重増加抑制、死亡を指標とした1,108 mg/kg/日としている (Robinson et al., 1990)。
雌雄のWistarラット (各15匹/群) にエチレングリコールを0、0.05、0.1、0.25、1.0% (雄:0、35、71、180、715 mg/kg/日相当、雌:0、38、85、185、1,128 mg/kg/日相当) 含む飼料を16週間与えた試験で、雄の0.25%投与群で腎臓尿細管に損傷がみられ、1.0%投与群では、雌雄とも、より重度の腎臓障害 (尿細管拡張、タンパク円柱、シュウ酸カルシュウム結晶沈着) がみられた。この試験におけるNOAELは、腎臓障害を指標とし、雄では0.1% (71 mg/kg/日相当)、雌では0.25% (185 mg/kg/日相当) であった (Gaunt et al., 1974)。企業による実施試験のため、アブストラクトのみであり詳細な内容は入手できなかった。
雌雄のF344ラットにエチレングリコールを0、40、200、1,000 mg/kg/日含む飼料を2年間与えた発がん性試験で、200 mg/kg/日以上の投与群の雌雄に尿中シュウ酸塩の結晶の排出、雌に肝臓の脂肪変性及び単核細胞浸潤がみられた。1,000 mg/kg/日投与群での雄は、2年間の試験期間を待たず、475日ですべて死亡した。死因は腎臓でのシュウ酸塩結晶沈着に基づく腎障害であった。雄には、赤血球数、ヘマトクリット値、及びヘモグロビンの減少、血中クレアチニン、及び尿素窒素の増加、尿量の増加、腎臓の絶対及び相対重量の増加、肝臓の絶対及び相対重量の減少、病理組織学的には、腎臓の糸球体の萎縮、尿細管の拡張、尿細管上皮の過形成及び間質の炎症性変化を伴う慢性腎炎が見られた。雌では、腎臓重量の増加、腎臓へのシュウ酸塩の沈着と肝臓の脂肪変性及び単核細胞浸潤がみられた。本評価書では、この試験におけるNOAELを雌雄の腎臓障害に基づく尿中シュウ酸塩の結晶の排出を指標とした40 mg/kg/日と判断した (De Pass et al., 1986a)。
雌雄のSDラット (各16匹/群) にエチレングリコールを0、0.1、0.2、0.5、1.0、4.0% (0、50、100、250、500、2,000 mg/kg/日相当) 含む飼料を2年間与えた試験で、雌雄とも0.5%以上の投与群で腎臓でのシュウ酸カルシウム塩の結晶沈着による腎臓障害がみられた。1.0%以上の投与群で雌雄に体重増加抑制、摂水量の増加、雄に死亡率増加、タンパク尿、腎臓石灰沈着がみられた。4% (2,000 mg/kg/日) の投与群は雄では6か月以内に、雌では18か月以内に死亡している。病理解析、統計的処理がほとんどなされてなく、腎臓の沈着物の解析に主眼が置かれていた (Blood, 1965)。
NZWウサギにエチレングリコールを4 g/日含む水を3か月間与えた試験で、腎臓、肝臓でのシュウ酸カルシウムの結晶沈着、網膜電図検査による網膜の明暗反応活性の減退、網膜神経節細胞及び網膜内層に複屈折結晶の沈着がみられ、これらの網膜の所見は腎臓及び肝臓へのシュウ酸カルシウムの沈着と関連性があると報告されている (Rossa and Weber, 1990)。

b. 吸入暴露
マウス (20匹/群) 及びラット (10匹/群) にエチレングリコールを大気飽和濃度 (平均 391 mg/m3) で8時間/日、5日/週、16週間吸入暴露した試験で、マウスの3/20、ラットの1/10が死亡したが、剖検の結果は暴露に関連する影響はなかった (Wiley et al., 1936)。
この他、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、リスサルを用いエチレングリコール12 mg/m3を90 日間吸入暴露した試験で、いずれの動物に対しても肺に炎症性の変化がみられた (Coon et al, 1970)。

以上のデータから、エチレングリコールの経口による反復投与試験のNOAELは、De Pass ら (1986a) の試験における、雌雄の腎臓障害に基づく尿中シュウ酸塩の結晶の排出を指標とした40 mg/kg/日とする。吸入暴露に関する試験は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、サルについての結果があるがいずれも試験実施年代が古く、且つ十分な病理解析、統計処理がなされていないため、エチレングリコールの吸入暴露に関するNOAELは決定できなかった。


表 8-2 エチレングリコールの反復投与毒性試験結果
動物種・性別・週齢投与
方法
投与
期間
投与量結    果文献
マウス
B6C3F1
雌雄各10匹/群
経口
(混餌)
13週間0、3,200、6,300、12,500、25,000、50,000 ppm (飼料中) 雄 25,000 ppm 以上
 腎症、肝細胞の小葉中心性硝子様変性
雌 3,200 ppm以上
 摂餌量の増加

U.S. NTP, 1993
マウス
B6C3F1
雌雄各10匹/群
経口
(混餌)
13週間0、0.32、0.63、1.25、2.5、5.0%飼料中 (0、500、1,000、1,900、3,800、7,500 mg/kg/日相当)2.5%以上
雄:腎尿細管上皮の細胞変性、肝臓の小葉中心性の硝子様変性及び線維化
5%
雌:腎尿細管上皮の細胞変性、肝臓の小葉中心性の硝子様変性及び線維化
NOAEL
雄:1.25% (1,900 mg/kg/日相当)
雌:2.5% (3,800 mg/kg/日相当)
Melnick, 1984
マウス
B6C3F1
マウス
雌雄各
60匹/群
経口
(混餌)
103週間
0、6,250、12,500、25,000 ppm・飼料中(0、1,500、3,000、6,000 mg/kg/日相当)



0、12,500、25,000
50,000 ppm・飼料中(0、3,000、6,000、12,000 mg/kg/日相当)

 12,500 ppm以上
  肝細胞硝子様変性
25,000 ppm
  尿細管、尿道、膀胱にシュウ酸結晶沈着

 1,2500 ppm以上
  肺動脈中膜細胞過形成
 50,000 ppm
  肝細胞硝子様変性


NOAEL: 雄6,250 ppm (1,500 mg/kg/日相当)
LOAEL: 雌 12,500 ppm (3,000 mg/kg/日相当)
U.S. NTP,
1993
マウス
CD-1
雌雄各80匹/群
経口
(混餌)
2年間0、40、200、1,000
mg/kg/日
非腫瘍性変化
1,000 mg/kg/日まで
 投与による影響なし

De Pass et al., 1986a
ラット
経口
(強制)
6日間2 mL/kg/日(約2,200 mg/kg/日)







2 mL/kg/日
腎臓のシュウ酸カルシウム沈着に関連する尿中カルシウムの増加、及び燐酸の減少、
骨中のカルシウム、リン酸塩移動に伴う腎毒性症の結果としての低カルシウム血症、高アルカリホスファターゼ血症
Rajagopal et al., 1977
ラット
SD
雌雄各10/群
経口
(混餌)
10日間0、0.5、1.0、2.0、4.0 %(0、554、1,108、2,216、4,432 mg/kg/日相当)







2%以上
腎臓尿細管拡張、管内にタンパク様物質及びシュウ酸カルシウム結晶沈着、尿細管上皮の変性及び壊死
4%
体重減少、ヘモグロビン、ヘマトクリット値、赤血球数、白血球数の減少
Robinson et al., 1990
ラット
Wistar
雌、雄

経口
(強制)
4週間0、2,000 mg/kg/日 2,000 mg/kg/日 (雌、雄)
腎臓相対重量の増加
腎臓への影響 (変色、結晶沈着)
 尿中シュウ酸カルシウム増加
Schladt et al., 1998
ラット
F344/N
雌、雄
各10匹
経口
(混餌)
13週間0、0.32、0.63、1.25、2.5、5.0%飼料中 (0、200、400、900、1,800、3,500 mg/kg/日相当)







2.5%以上
雄: 血中尿素窒素の増加
雌: 腎臓相対重量の増加
5%
雄: 死亡率増加、脳への結晶沈着、腎臓相対重量増加、腎臓病理組織学的変化、血中尿素窒素の増加、ネフローゼ
雌: 腎臓相対重量増加


NOAEL:1.25% (飼料中) (900 mg/kg/日相当)
Melnick, 1984
ラット
SD
雌雄各10匹/群







経口
(飲水)
90日間0、227、554、1,108、2,216 mg/kg/日1,108 mg/kg/日以上
雄:腎臓尿細管の拡張、尿細管上皮の変性、尿細管及び腎盂中のシュウ酸カルシウム沈着
2,216 mg/kg/日
雄、雌:体重増加抑制、死亡


 NOAEL
雄 : 554 mg/kg/日 (腎臓障害)
雌 :1,108 mg/kg/日 (体重増加抑制、死亡)
Robinson et al., 1990
ラット
Wistar
雌、雄
各15匹/群







経口
(混餌)
16週間0、0.05、0.1、0.25、1.0%飼料中
雄 : 0、35、71、180
715 mg/kg/日相当
雌 : 0、38、85、185 1,128 mg/kg/日相当
0.25%以上
雄:腎臓尿細管の損傷


1.0%
雌雄:腎臓障害 (尿細管の拡張、タンパク円柱、シュウ酸カルシュウム結晶沈着)
NOAEL:
雄: 0.1% (71 mg/kg/日相当)
雌: 0.25% (185 mg/kg/日相当)
Gaunt et al., 1974
ラット
F 344
雌雄各130/
経口
(混餌)

2年間0402001,000
mg/kg/
非腫瘍性変化
200 mg/kg/日以上
雌雄:尿中へのシュウ酸塩結晶排出
:肝臓の脂肪変性と単核細胞浸潤

1,000 mg/kg/

 死亡率の増加 (475日までにすべて死亡、死因はシュウ酸塩沈着による腎不全)
 体重増加抑制、摂水量増加、赤血球数・ヘマトクリット値・ヘモグロビンの減少、血中クレアチニン・尿素窒素の増加、尿量増加、腎臓の絶対及び相対重量増加、肝臓の絶対及び相対重量減少、腎臓の糸球体萎縮、尿細管の拡張、尿細管上皮の過形成、慢性腎炎

 腎臓重量増加、腎臓へのシュウ酸塩結晶沈着 
 肝臓の脂肪変性と単核細胞浸潤


NOAEL: 40 mg/kg/ (本評価書の判断)
De Pass et al., 1986a
ラット
SD
雌雄各16匹/群






経口
(混餌)
2年間0、0.1、0.2、0.5、1.0 4.0%
(0、50、100、250、500、2,000 mg/kg/日相等)

0.5% 以上
 腎臓尿細管上皮細胞質内へのシュウ酸カルシウム塩の結晶沈着
1.0%以上
 雄、雌:体重増加抑制、摂水量の増加、
 雄  :死亡率増加、タンパク尿、腎臓石灰沈着
4%
 雌  :18か月ですべて死亡、タンパク尿、腎臓石灰沈着
 雄  :6か月ですべて死亡
Blood, 1965
ウサギ
NZ W
経口
(飲水)
3か月4g/日







腎臓及び肝臓へのシュウ酸カルシウム塩の結晶の沈着
網膜電図検査による網膜の明暗反応活性の減退、網膜神経節細胞及び網膜内層に複屈折結晶の沈着
Rossa & Weber, 1990
マウス
20匹/群
吸入

8時間/日
5日/週
16週間
大気中飽和濃度
平均 391mg/m3
3/20 死亡
病理解剖では暴露に関連する異常所見なし。 
Wiley et al., 1936
ラット
10匹/群
吸入

8時間/日
5日/週
16週間
大気中飽和濃度
平均 391mg/m3
1/10 死亡
病理解剖では暴露に関連する異常所見なし。 
Wiley et al., 1936
ラット
SD & Long Evans
15匹/群
吸入

90日間12 mg/m31/15死亡(死因未記載)
対照に較べ肺に炎症性変化 
2匹:角膜混濁による失明 (暴露開始8日以内に発生)
Coon et al., 1970
モルモット
Princeton
15匹/群
吸入

90日間12 mg/m33/15 死亡(死因未記載)
対照に較べ肺に炎症性変化
Coon et al., 1970
ウサギ
New Zealand albino
雄 3匹/群
吸入

90日間12 mg/m31/3 死亡(死因未記載)
対照に較べ肺に炎症性変化
眼の刺激と浮腫 (暴露開始8日以内に発生)
Coon et al., 1970
リスサル
雄 3匹/群 
吸入

90日間12 mg/m3対照に較べ肺に炎症性変化Coon et al., 1970
イヌ
ビーグル
雄 2匹/群
吸入

90日間12 mg/m3対照に較べ肺に炎症性変化Coon et al., 1970

太字はリスク評価に用いたデータを示す


8.3.5 生殖・発生毒性

エチレングリコールの実験動物に対する生殖・発生毒性試験結果を表 8-3に示す。

a. 生殖毒性
 雌雄のICRマウス (各20匹/群) にエチレングリコールを0、0.25、0.5、1.0% (w/v) (0、410、840、1,640 mg/kg/日相当) 含む水を14週間与えた後、同群の雌雄で交配させた試験で、最高投与量の1.0% 投与群で交配ペアーあたりのF1胎児数の減少、同腹あたりの生存F1胎児数の減少が見られた。またF1に顔面異常、頭蓋サイズの縮小がみられた。0.5 %及び0.25% 投与群では有意差の見られる項目はなかった。この試験におけるNOAEL (生殖・発生毒性) は交配ペアーあたりのF1胎児数の減少、同腹あたりの生存F1胎児数の減少、F1の顔面異常、頭蓋サイズの縮小を指標とした0.5% (840 mg/kg/日相当) であった (Lamb et al., 1985)。
 雌雄のF344ラット (雌20匹/群、雄10匹/群) にエチレングリコールを0、40、200、1,000 mg/kg/日含む飼料を3世代にわたって与えた試験で、最高投与量の1,000 mg/kg/日投与群まで投与による影響はみられなかった (De Pass et al., 1986b)。

b. 発生毒性
雌ICRマウス (50匹/群) にエチレングリコール0、11,090 mg/kg/日 (LD10に相当する量) を妊娠7~14日目に強制経口投与した試験で、対照群に比べ投与群は同腹あたりの生存胎児数の減少、胎児体重の低値、新生児の生後の体重増加抑制、生後3日までの死亡率の増加がみられた (Schuler et al., 1984)。
雌のICRマウス (22~27匹/群) にエチレングリコール0、50、150、500、1,500 mg/kg/日を妊娠6~15日目に強制経口投与し、妊娠18日目に帝王切開した試験で、1,500 mg/kg/日投与群で母動物に体体重の減少と胎児に椎弓・椎弓癒着、肋骨と肋骨の癒着、過剰肋骨がみられた。500 mg/kg/日投与群では胎児に過剰肋骨のみがみられた。著者らはこの500 mg/kg/日における過剰肋骨の発生は、1,500 mg/kg/日でみられる骨格異常の変異の先行指標ととらえ、この試験のNOAELは150 mg/kg/日と報告している (Neeper-Bradley et al., 1995)。
雌のICRマウス (20匹/群) にエチレングリコール0、750、1,500、3,000 mg/kg/日を強制経口で妊娠6~15日目に投与し、妊娠17日目に帝王切開した試験で、1,500 mg/kg/日投与群以上の母動物に体重増加抑制、肝臓絶対重量の減少がみられた。750 mg/kg/日投与群以上で胎児に胎児重量 (同腹 (litter) あたり) の減少、奇形を持つ胎児 (同腹あたり) の増加、骨格奇形を持つ胎児の増加がみられた。3,000 mg/kg/日投与群では外形・内臓・骨格の奇形を持つ胎児の増加がみられた。母動物のNOAELは750 mg/kg/日、胎児の生殖発生毒性のLOAELは750 mg/kg/日である (Price et al., 1985)。
雌のICRマウス (25匹/群) にエチレングリコール0、150、1,000、2,500 mg/m3 (6時間/日)を妊娠6~15日目に、全身吸入暴露した試験で、1,000 mg/m3以上の暴露群で母動物の体重増加抑制及び児の骨格異常 (上腕骨骨化遅延、頬骨弓) が発生した。この試験の母動物及び胎児へのNOAELは150 mg/m3であった (Tyl et al., 1995a)。
ICRマウスにエチレングリコール0、500、1,000、2,500 mg/m3 (6時間/日) を妊娠6~15日目に鼻部吸入暴露した試験で、1,000 mg/m3以上の暴露群で母動物ヘの毒性 (腎臓重量の増加)はあったが児の骨格異常が発生しなかった。2,500 mg/m3暴露群で児の体重減少、口唇癒合、肋骨癒着が発生した。この試験の母動物のNOAELは500 mg/m3及び胎児へのNOAELは1,000 mg/m3であった (Tyl et al., 1995b)。
雌のICR (30匹/群) マウスにエチレングリコール0、404、1,677、3,549 mg/kg/日を妊娠6~15日目に、経皮適用した試験で、最高適用量の3,549 mg/kg/日適用群で母動物にわずかな尿細管障害、体重増加量の亢進、児では頭蓋骨の不完全骨化及び後肢の中間指節骨の未骨化がみられた。しかし、著者はこれらの影響がエチレングリコールの投与によるかは不明であるとし、NOAELは母動物、児とも3,549 mg/kg/日、又はそれに非常に近い値としている (Tyl et al., 1995c)。しかしながら、母動物の尿細管障害、及び児の骨格異常は、エチレングリコール投与の他の試験で発生しており、3,549 mg/kg/日投与における症例は、投与による影響の可能性を否定できず、本評価書ではNOAELを1,677 mg/kg/日と判断した。
 雌のF344ラットにエチレングリコール0、40、200、1,000 mg/kg/日含む飼料を妊娠6~15日目に、与え妊娠21日目に帝王切開した試験で、1,000 mg/kg/日投与群に着床前の死亡と胎児の骨化遅延がみられたが、母動物毒性はなかった (Maronpot et al., 1983)。
 雌のSDラット (22~25匹/群) にエチレングリコール0、150、500、1,000、2,500mg/kg/日を妊娠6~15日目に、強制経口投与し、妊娠21日目に帝王切開した試験で、1,000 mg/kg/日投与群以上で母動物の体重減少、胎児の椎弓の欠損、過剰肋骨がみられた (Neeper-Bradley et al., 1995)。
 雌のラットにエチレングリコール0、253、638、858、1,078、1,595 mg/kg/日を妊娠6~15日目に、強制経口投与した試験で、858 mg/kg/日投与群に胎児の奇形発生があり、1,078 mg/kg/日で明らかに胎児に奇形が発生した (Yin et al., 1986)。
雌のSDラットにエチレングリコール0、1,250、2,500、5,000 mg/kg/日を妊娠6~15日目に強制経口投与し、妊娠17日目に帝王切開した試験で、母動物の1,250 mg/kg/日投与群以上で体重増加抑制、2,500 mg/kg/日以上で腎臓の相対重量増加及び飲水量の増加 、5,000 mg/kg/日投与群で腎臓の相対重量の増加がみられた。胎児には、2,500 mg/kg/日以上の投与群で生存胎児 (同腹 (litter) あたり) の減少、胎児体重 (同腹あたり) の減少、奇形を持つ胎児 (同腹あたり の増加、奇形を持つ同腹の増加、骨格奇形を持つ胎児の増加、5,000 mg/kg/日の投与群で吸収胚 (同腹あたり) の増加、外形・内臓・骨格に奇形を持つ胎児の増加がみられた。母動物のLOAELは、1,250 mg/kg/日、胎児に対する生殖発生毒性のNOAELは1,250 mg/kg/日であった (Price et al., 1985)。
雌のSDラットにエチレングリコール150、1,000、2,500 mg/m3 を6時間/日、妊娠6~15日目に、 全身吸入暴露し、妊娠21日目に帝王切開した試験で、1,000 mg/m3暴露群で児の骨化遅延がみられた。母動物ヘの毒性 (肝臓重量の増加) は2,500 mg/m3暴露群で発生した。この試験の母動物のNOAELは1,000 mg/m3及び胎児のNOAELは150 mg/m3である (Tyl et al., 1995a)。
雌のウサギにエチレングリコール0、100、500、1,000、2,000mg/kg/日を妊娠6~19日目に強制経口投与し、妊娠30日目に帝王切開した試験で、2,000 mg/kg/日の投与群で母動物は死亡があり、腎臓にはシュウ酸塩沈着を持つ障害が発生したが、児には影響はなかった (Tyl et al., 1993)。
以上のデータより、エチレングリコールの生殖毒性は高濃度で発生しており、そのNOAELは、ICRマウスでの14週間飲水投与した試験の 840 mg/kg/日 (Lamb et al., 1985) であった。発生毒性は、マウス、ラット、ウサギにつき試験されているが、マウスにおける最小のNOAELは、
ICRマウスに強制経口で妊娠6~15日目に投与し、妊娠18日目に帝王切開した試験で、過剰肋骨の発生を指標としたNOAELの150 mg/kg/日であった (Neeper-Bradley et al., 1995)。

表 8-3 エチレングリコールの生殖・発生毒性試験結果
動物種・性別・週齢投与
方法
投与期間投与量結    果文献
マウス
ICR雌雄
各20匹/群







経口(飲水)14週間0、0.25、0.5、1.0 %(0、410、840、1.640
mg/kg/日相当)
1%
交配ペアーあたりのF1胎児数減少、同腹あたりの生存F1胎児数減少、F1の顔面、頭蓋異常


NOAEL(生殖・発生毒性):0.5% (840 mg/kg/日相当)

Lamb et al., 1985



ラット
F344
雌20匹/群
雄10匹/群

経口
(混餌)
3世代投与
(F1、F2の雌20匹、雄10匹をランダムに選択し、生後約100日で交配
0、40、200、1,000 mg/kg/日各投与量のF2の親とF3の児各5匹を剖検


投与による影響なし
De pass et al., 1986b
マウス
ICR雌
50匹/群
経口
(強制)
妊娠7-14日0、11,090
mg/kg/日
(約LD10)

11,090 mg/kg/日
胎児:同腹あたりの生存胎児数減少、胎児体重低値、胎児の体重増加抑制、胎児の誕生3日までの生存率減少 
Schuler et al., 1984
マウス
ICR雌
22-27匹/群







経口
(強制)
妊娠6-15日0、50、150、500、1,500 mg/kg/日妊娠18日目に帝王切開
500 mg/kg/日以上 
胎児:過剰肋骨
1,500 mg/kg/日
母動物:体重減少
  胎児:椎弓・椎弓癒着、肋骨・肋骨癒着、過剰肋骨
    
 NOAEL: 母動物 500 mg/kg/日
胎児 150 mg/kg/日
Neeper-Bradley et al., 1995
マウス
ICR雌
20匹/群
経口
(強制)
妊娠6-15日

0、750、1,500
3,000 mg/kg/日
妊娠17日目に帝王切開
母動物
 1,500 mg/kg/日以上
  体重増加抑制、肝臓絶対重量の減少
胎児
 750 mg/kg/日以上
  胎児重量(同腹(litter)あたり)の減少
  奇形を持つ胎児 (同腹あたり)の増加
  骨格奇形を持つ胎児の増加
 3,000 mg/kg/日
  外形・内臓・骨格の奇形を持つ胎児の増加
母動物NOAEL: 750 mg/kg/日
胎児LOAEL:750 mg/kg/日
Price et al., 1985
マウス
ICR雌
25匹/群



吸入
(全身)
妊娠6-15日
6時間/日
0、150、1,000、2,500 mg/m31,000 mg/m3 以上
母動物:体重増加抑制
胎児 :骨格異常 (上腕骨骨化遅延、頬骨弓)の発生


NOAEL:母動物 胎児 150 mg/m3
Tyl et al.,
1995a
マウス
ICR雌
吸入
(鼻部)





妊娠6-15日
6時間/日
0、500、1,000、2,500 mg/m31,000 mg/m3以上
母動物:腎臓重量増加
2,500 mg/m3
胎児:体重減少、口唇融合、骨格異常 (肋骨癒着)
NOAEL:母動物500 mg/m3
胎児1,000 mg/m3
Tyl et al.,
1995b
マウス
ICR雌
30匹/群
経皮投与妊娠6-15日

0、404、1,677、3,549 mg/kg/日3,549 mg/kg/日
母動物:わずかな尿細管障害
     体重増加亢進  
胎児 :頭蓋骨の不完全骨化
    後肢中間指節骨の未骨化
 (著者:これらの影響が投与による影響か不明)
 著者によるNOAEL:母動物、児ともに3,549 mg/kg/日


 NOAEL:母動物、胎児1,677 mg/kg/日 (本評価書の判断)
Tyle, 1995c
ラット
F344雌
20匹/群







経口
(混餌)
妊娠6-15日0、40、200、
1,000 mg/kg/日
対照
妊娠11日目
ヒドロキシウレア500 mg/kg/日投与

妊娠21日目に帝王切開
 1,000 mg/kg/日
着床前の死増加
  胎児骨格の形成の遅れ


母動物毒性なし


NOAEL:200 mg/kg/日
Maronpot et al., 1983
ラット
SD雌
22-25匹/群
経口
(強制)
妊娠6-15日0、150、500、1,000、2,500
mg/kg/日
妊娠21日目に帝王切開
1,000 mg/kg/日以上
 母動物:体重減少
 胎児:椎弓の欠損、過剰肋骨


NOAEL:母動物:500 mg/kg/日
胎児 :500 mg/kg/日
Neeper-Bradley et al., 1995
ラット

経口
(強制)
妊娠6-15日0、253、638、858、1,078、1,595 mg/kg/日858 mg/kg/日:胎児の奇形発生
1,078 mg/kg/日:明らかに胎児に奇形
発生
母動物毒性に関する記載なし。


NOAEL:胎児 638 mg/kg/日
Yin et al., 1986
ラット
SD雌
20匹/群
経口
(強制)
妊娠6-15日0、1,250、2,500
5,000 mg/kg/日
妊娠17日目剖検
母動物
 1,250 mg/kg/日以上
  体重増加抑制
 2,500 mg/kg/日以上
  腎臓の相対重量増加、飲水量の増加
 5,000 mg/kg/日
  腎臓の相対重量の増加
胎児
 2,500 mg/kg/日以上
  生存胎児(同腹(litter)あたり)の減少
  胎児体重(同腹あたり)の減少
奇形を持つ胎児 (同腹あたり) の増加
  奇形を持つ同腹の増加
  骨格奇形を持つ胎児の増加
 5,000 mg/kg/日
  吸収胚 (同腹あたり) の増加
  外形・内臓・骨格に奇形を持つ胎児の増加
母動物 LOAEL:1,250 mg/kg/日
胎児 NOAEL:1,250 mg/kg/日
Price et al, 1985
ラット
SD雌
25匹/群
吸入
(全身)
妊娠6-15日
6時間/日
0、150、1,000、2,500 mg/m3妊娠21日目開腹,
 1,000 mg/m3
  胎児:骨化遅延
2,500 mg/m3
母動物:肝臓重量増加、摂餌量、摂水量増加、体重増加
 
 NOAEL:母動物 1,000 mg/m3
胎児 150 mg/m3
Tyl et al.,
1995a
ウサギ
N Z W


経口
(強制)
妊娠6-19日
妊娠30日目に剖検
0、100、500、1,000、2,000
mg/kg/日
2,000 mg/kg/日
母動物:42%死亡 3匹早産、1匹流産
    シュウ酸塩沈着を含む腎臓障害
胎児:各投与量とも影響なし
NOAEL: 母動物:1,000 mg/kg/日
胎児:2,000 mg/kg/日以上
Tyl et al., 1993



8.3.6 遺伝毒性

エチレングリコールの遺伝毒性試験結果を表 8-4、遺伝毒性試験結果 (まとめ) を表 8-5に示す
バクテリアを用いたin vitro復帰変異試験では、S9添加の有無に関わらず陰性であった (Clark et al., 1979; JETOC, 1996; McCann et al., 1975; Pfeiffer and Dunkelberg, 1980; Zeiger et al., 1987)。 イースト酵母に対して突然変異及び異数性を誘発せず (Griffiths, 1979,1981)、酵母(Saccharomyces Pombe) を用いた遺伝子突然変異試験も陰性であった(Abbondandolo et al., 1980)。 マウスリンパ腫L51784Y細胞を用いた前進突然変異試験もS9添加の有無に関わらず陰性であった(McGregor et al., 1991)。この試験系で陽性の結果も報告されているが、このデータは細胞毒性と関連したものとされている (Brown et al., 1980)。チャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞 による染色体異常試験及び姉妹染色分体交換試験はS9添加の有無に関わらず、いずれも陰性であった (U.S.NTP, 1993)。ラット肝細胞 (Storer et al., 1996) 及び大腸菌 (McCarroll et al., 1981; von der Hude et al., 1988) のDNA損傷試験も陰性であった。in vivo遺伝毒性試験においては、F344ラット (F2雄) に155日間、1,000 mg/kgまで投与した試験で優性致死試験は陰性であった (De Pass et al., 1986b)。雄Swissマウスにエチレングリコール638mg/kgを腹腔内に2日間投与し、骨髄細胞の染色体異常を見た試験は陰性であった(Conan et al., 1979)。
Barilyakらは、雄ラットにエチレングリコール1,200 mg/kgを単回強制経口投与し、50時間後骨髄細胞を取り出して染色体異常が認められたと報告している。また雄ラットの後期精子細胞形成期に120 mg/kg及び1,200 mg/kgを経口投与した試験で優性致死が起こったことを報告している (Barilyak and Kozachuk, 1985)。しかしながら、これらの試験はエチレングリコールの純度についての記載がないこと、対照の値が通常より低いこと、また、一次データの記載がない等の理由で信頼性が乏しいとしている (U.S. NTP, 1993)。
ショウジョウバエを用いた染色体異常試験では染色体異常を誘発しなかった (Bhattacharya, 1949)。
Swissマウスに1,250 mg/kg以上強制経口 (又は腹腔内投与) した場合、赤血球の小核がわずかに増加したが、用量依存性はない (Conan et al., 1979)。

以上の試験データから、エチレングリコールは遺伝毒性を示さないと判断する。


 表 8-4 エチレングリコールの遺伝毒性試験結果
試験方法使用細胞種・動物種結果1)
-S9 +S9
文献
in vitro復帰変異試験

バクテリア
(ネズミチフス菌、大腸菌)
- -Clark et al., 1979; JETOC, 1996; McCann et al., 1975; Pfeiffer & Dunkelberg, 1980; Zeiger et al., 1987
遺伝子突然変異酵母- -Griffiths, 1979,1981、Abbondandolo et al., 1980
前進突然変異試験マウスリンパ腫L51784- -McGregor et al., 1991
マウスリンパ腫L51784+Brown et al., 1980
染色体異常試験CHO細胞- -U.S.NTP, 1993
姉妹染色分体交換試験CHO細胞- -U.S.NTP, 1993
DNA損傷性試験ラット肝細胞-Storer et al., 1996
大腸菌-McCarroll et al., 1981; von der Hude et al., 1988
in vivo優性致死試験F344ラット経口投与De Pass et al., 1986b
雄ラット後期精子細胞形成期に経口投与Barilyak and Kozachuk, 1985
染色体異常マウスに腹腔内投与後の骨髄細胞Conan et al., 1979
ラットに経口投与後の骨髄細胞 Barilyak and Kozachuk, 1985
ショウジョウバエBhattacharya, 1949
小核試験マウス、経口又は腹腔内投与Conan et al., 1979
1)-: 陰性; +: 陽性
2)CHO細胞: チャイニーズハムスター卵巣細胞




表 8-5 エチレングリコールの遺伝毒性試験結果 (まとめ)

DNA損傷性 突然変異性 染色体異常 その他
バクテリア ND ND
カビ/酵母/植物 ND ND ND
昆虫 ND ND ND
培養細胞 +/- ND
ほ乳動物(in vivo) ND (+) / - ND

+: 陽性、(+) : 弱い陽性、-: 陰性、ND: データなし 


8.3.7 発がん性

エチレングリコールの実験動物に対する発がん性試験結果を表 8-6に示す。
B6C3F1マウスにエチレングリコールを雄に0、6,250、12,500、25,000 ppm (0、1,500、3,000、6,000 mg/kg/日相当)、雌に0、12,500、25,500、50,000 ppm ( 0、3,000、6,000、12,000 mg/kg/日相当) の用量で103週間混餌投与した試験で、投与に関連した腫瘍の発生はみられなかった (U.S. NTP, 1993)。
ICRマウス及びF344ラットにエチレングリコール40、200、1000 mg/kg/日を2年間混餌投与した試験で、投与に関連した腫瘍の発生はみられなかった。しかし、雄ラットの1,000 mg/kg/日投与群はすべて157日以内に死亡か瀕死状態になったため、安楽死され2年間の投与はなされてなく、ラットに対しての設定濃度が高すぎたと考えられる (De Pass et al., 1986a)。
通常、NTPが実施する発がん性試験は、B6C3F1マウスとF344ラットのセットで行われるがラットに関しては、U.S. NTPはそれ以前に実施された混餌、2年間の発がん性試験 (De Pass et al., 1986a) が十分信頼できると判断し、マウスだけで実施されている。 
 マウス、ラットを用いた皮下投与による発がん性試験では、いずれも投与に関連した腫瘍の発生はみられない ( Dunkelbelg, 1987; Mason et al., 1971)。

 以上のデータから、エチレングリコールの、ラット、マウスを用いた経口、皮下投与発がん性試験で、投与に関連した腫瘍の発生はみられなかった。
 
国際機関等での発がん性評価を表 8-7に示す。
国際機関等での評価は、ACGIH (2005) がA4 (ヒトに対して発がん性が分類できない物質) と評価している。IARCではエチレングリコールの発がん性を評価していない。


表 8-6 エチレングリコールの発がん性試験結果
動物種・性別・週齢投与
方法
投与期間投与量結    果文献
マウス
B6C3F1
雌雄
60匹/群
経口
(混餌)
103週間雄: 0、6,250、12,500、25,000 ppm ( 0、1,500、3,000、6,000 mg/kg/日相当)
雌 0、12,500、25,500、50,000 ppm (0、3,000、6,000、
12,000 mg/kg/日相当)
発がん性なしU.S. NTP, 1993
マウス
ICR雌雄
80匹/群
経口(混餌)2年間40、200、1,000 mg/kg/日

発がん性なしDe Pass et al., 1986a
ラット
F344雌雄
130匹/群
経口(混餌)2年間40、200、1,000 mg/kg/日

発がん性なしDe Pass et al., 1986a
マウス
NMRI
雌100/群
対照200/群
皮下106週0、3、10、30 mg/single dose
マウスあたりの平均総投与量が2,110.5 mgに達するまで
発がん性なしDunkelberg, 1987
ラット
F344
雌雄各10~40/群
皮下52週
投与終了後観察期間6か月
0、30、100、300、1,000 mg/kg 2回/週 発がん性なしMason et al., 1971




表 8-7 国際機関等での発がん性評価  
機関 / 出典分類分類基準
IARC (2005)発がん性について評価されていない。
ACGIH (2005)A4ヒトに対して発がん性が分類できない物質
日本産業衛生学会 (2005)発がん性について評価されていない。
U.S. EPA (2005)発がん性について評価されていない。
U.S. NTP (2005)発がん性について評価されていない。


8.4 ヒト健康への影響 (まとめ)

エチレングリコールはヒト及び動物で多量摂取されると中枢神経系に影響を及ぼす。ヒトの致死量は、誤飲や飲料水への混入による死亡例から1.56g/kg (大人で111g/人) と推定された。動物試験では軽度の皮膚刺激性が認められた。目への刺激は永久的な角膜損傷はなく、わずかな角膜への刺激であった。ヒト、ボランティアによる蒸気吸入暴露試験では55 ppmで喉、及び上気道ヘ刺激があり、79 ppm以上では痛みが激しく耐えられなかったとの報告がある。動物試験及びヒトの事例で感作性を示すという報告はなかった。
 エチレングリコールのラットの急性毒性値 (経口LD50) は4,000~10,020 mg/kgであった。
反復投与試験は経口でマウス、ラット、ウサギにつき実施されていた。その最小のNOAELはラットによる2年間投与による雌雄の腎臓障害に基づく尿中シュウ酸塩の結晶の排出を指標とした40 mg/kg/日であった。吸入による反復暴露試験は、NOAELを決定できる試験はなかった。
生殖毒性は、高濃度投与でみられた。そのNOAELは、マウスにエチレングリコールを含む水を14週間与えた試験のF1胎児数、生存胎児数の減少及び頭蓋異常を指標とした840 mg/kg/日であった。発生毒性は、マウスにおける最小のNOAELは、ICRマウスに妊娠6~15日目に強制経口投与した場合の椎弓及び肋骨の異常を指標とした150 mg/kg/日であった。
バクテリアを用いたin vitro復帰変異試験では、S9添加の有無に関わらず陰性であった。イースト酵母に対して突然変異及び異数性を誘発しなかった。酵母 (Saccharomyces pombe) を用いた遺伝子突然変異試験も陰性であった。マウスリンパ腫L51784Y細胞を用いた前進変異試験でもS9添加の有無に関わらず陰性であった。CHO細胞による染色体異常試験及び姉妹染色分体交換試験はS9添加の有無に関わらず、いずれも陰性であった。ラット肝細胞、及び大腸菌のDNA損傷試験も陰性であった。in vivo遺伝毒性試験においては、F344ラット (F2雄) に155日間、1,000 mg/kgまで投与した試験で陰性であった。雄Swissマウスに638 mg/kgを腹腔内に2日間投与し、骨髄細胞の染色体異常を見た試験は陰性であった。マウスに経口又は腹腔ない投与で、赤血球の小核がわずかに増加したが、用量依存性はなかった。これらの結果から、エチレングリコールは遺伝毒性を有さないと判断される。
 発がん性に関する試験は、経口投与、皮下投与で実施されていた。これらの試験は、いずれも投与に関連した腫瘍の発生はなかった。また、発がん性疫学調査として、エチレングリコールと腎臓がんの症例対照研究では相関はみられなかったと報告されているが、対照人数が少なく判断材料にはならなかった。国際機関等での発がん性の評価はACGIH (2002) のみがA4 (ヒトに対して発がん性が分類できない物質) と評価していた。IARCではエチレングリコールの発がん性を評価していない。



前へ 次へ