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真の映画好きにはたまらないランジェラの緻密な演技

トッド・マッカーシー
2009/02/02

●原題:FROST/NIXON/2008年/アメリカ/122分/2009年3月からシャンテ シネほかにて日本公開
●配給:東宝東和

(C) 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
(C) 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
 『フロスト×ニクソン』はピーター・モーガンによる舞台劇を効果的に直球で映画化した作品である。1977年に行われた歴史的テレビ・インタビューを描いているのだが、このインタビューでニクソンはまたしても自分自身を破滅の道へと追いやっている。大統領選挙が行われる年(注:本作品の米公開は2008年)とあって、政治関連作品は他に共和党のブッシュ米大統領を描いた “W.”があるが、この『フロスト×ニクソン』もそれと同様に、登場人物を中傷する目的を持ってはいない。あるいは、限界や弱点を抱える悲劇的な被害者を描いているわけでもない。その悲劇というのは、罪を犯したものと、その男が率いていた国にとっての、ということだ。ニクソンを演じるフランク・ランジェラの緻密な演技は真の映画好きにはたまらないだろう。上の年齢層の獲得は確実だが、40歳以下の観客を惹き付けるには、かなりのマーケティング力が要求されることになる。

本作で独特のニッチを切り開いたモーガン

 舞台での同役でトニー賞を受賞しているランジェラは、一見するとこの第37代米大統領には似ていない。1974年8月9日の屈辱的な退任のあとの時代のニクソンとしては、ランジェラの声はやや物憂げで、しぐさは多少無理があり、面影は地中海あたりの人種に見える。しかし映画全体を通してみると、あらゆる演技で見せる様相が、ひとりの男の性格を非の打ちどころなく観察した結果の描写であるのがわかる。この男は自分が達成したものや知性、権力を積極的に利用したところで、不変の劣等感や自己破壊的行動を決して克服することがなかった。

 これまでにも近代著名人の素顔を描写したドラマである『クィーン』『ラスト・キング・オブ・スコットランド』“The Deal”(注:2005年製作のイギリスのテレビ映画。スティーヴン・フリアーズ監督作。日本未公開)を知性的に描いてきたモーガンは、独特のニッチを切り開いた。自ら脚本を手がけた2006年の舞台劇を基にしたこの作品は、イギリスのテレビ司会者でトーク番組ホストのデイヴィッド・フロスト(マイケル・シーン)がニクソンを4回にわたってインタビューするという変わった状況を描いている。フロストは陽気なエンターテイナーであり、政治界の大物に立ち向かうというよりは、ショービジネス界のスターに対して気さくに冗談を飛ばしていることで知られていた。

生き残りをかけた果し合いに挑む両者

 『クィーン』と同様に、この作品が作られるべき題材であったかどうかを疑問視するむきもあるだろう。たとえ作られるべきであったとしても、これほどまでに権威と内部事情を浮き彫りにするべきだったのか。この作品の場合、重要な出来事はすべて作中に描かれている。オーストラリアのテレビ番組の司会を務めていた大胆で日和見主義なフロストはこのインタビュー実現させるために自費を投じた。主要なネットワークが、ニクソンに大金を支払うという札束ジャーナリズムにそっぽを向いたためだ。スウィフティ・レイザーはニクソンに支払うためにどうしても必要だった60万ドルを獲得する契約を取り付けた。ニクソンはこの歴史的インタビューを自分のリハビリだと考えていた。権力を東海岸へと動かすきっかけになる、という具合に。両方の側での相互理解の点は、これは果し合いであり、どちらか一方が生き残るのだということ。ニクソンはフロストが最後の策略を練って死に物狂いに起死回生を計るまで、悠々とインタビューを支配してゆく。

 効果的で天から啓示を受けたかのような最終章は心理状態や力関係を計算する登場人物の洞察力に溢れ、それまでのすべてを精算したと言えるが、序盤は乾燥気味で単調だ。舞台で取り入れていたような、観客に直接訴えかける話し方を不必要に映画に適用させようとしているせいか、ロン・ハワード(監督)は何人かの登場人物を目撃者スタイルで“インタビュー”したため、映画がどこかぶつ切りになった感がある。半ばドキュメンタリーのようでもある。映画全体を通して過度に先が読める編集スタイルを乱用している手法も気になる。ある場面では予測どおりのタイミングで切り替えが入る。また、速いテンポでシンコペーションを刻むリズムによって、説明がなされると共に直感までもが動かされる。つまり、語り手たちなしでも映画は十分に成り立っただろう。

方や軽くて向こう見ずで社交好き—もう片方は根暗で腹に一物抱えた不器用な男

 “The Deal”と『クィーン』の両作品でトニー・ブレア役を非常に効果的に演じていたマイケル・シーンは、この無頓着なプレイボーイのフロスト役でも卓越している。フロストは、あらゆる面でニクソンとは正反対だ。方や軽くて向こう見ずで社交好き。もう片方は根暗で腹に一物抱えた不器用な男だ。前半の興味をそそる1場面で、フロストがイギリス人プロデューサーのジョン・バート(マシュー・マックフェイデン)と共にニクソンに初めて会うためにカリフォルニアへ移動しているとき、747機のファーストクラスで魅力的な若い社交界の女性キャロリン・クッシング(レベッカ・ホール)を引っかけるというものがある。ここではこの多弁家が仕事にも娯楽にも才能をいかんなく発揮する様が巧妙に描かれている。

 マイケル・シーンに関する部分でただ1箇所わずかにイライラさせられるのは、彼の容姿だ。中途半端に長くオールバックにまとめられた黒い髪、もみあげ、カーブの強い眉、『シャイニング』のジャック・ニコルソンのようにときどき口をすぼめる表情。ホールの方は、身なりの整った姿がカーリー・サイモンのようだ。

 ニクソンのように口の堅いプロを落とすにはあまりにも準備が足りないと誰もが感じていたため、フロストはこの一大イベントに2人の協力者を頼む。ベテラン・ジャーナリストのボブ・ゼルニック(オリヴァー・プラット)と筋金入りの反ニクソン派、ジェームズ・レストン(サム・ロックウェル)だ。サン・クレメンテにある海沿いの邸宅(主なシーンは実際のニクソン邸カサ・パシフィカで撮影された)で孤独な生活を送っているニクソンは、元海軍大佐ジャック・ブレナン(ケヴィン・ベーコン)のサポートに頼っている。妻のパット(『悪い種子』の子役出身のパティ・マッコーマック)は、混乱の中でぼんやりしているという様子だ。

他愛ないおしゃべりの描写が光る脚本

 前置きの部分はもう少し堂々と描かれてもよかったのだが、舞台裏の詳細は想像されるものよりは興味深い。特にレストンは不足している200万ドルをなんとか獲得しようと全力を尽くしたのだが、実はフロストが「未経験の大仕事」に失敗し、アメリカ人がなんとしても聞きたいと願っているニクソンの「自白」にもっていくことが出来ないのではないかと疑っている。

 映画の中盤あたりから、数回のインタビューが行われるにつれ、極度の緊張感がドラマチックに盛り上がっていく。インタビューはニクソンの自宅ではなく、その近くにある共和党支持者の邸宅で行われ、撮影されている。最初の3回のインタビューで、ニクソンは完全にフロストを自分のペースに巻き込み、長い物語を語って聞かせ、大統領時代の功績を強調していた。さらに、フロストが核心に触れようとすると、必ず脱線してみせた。

 このインタビューの再現は明らかに実際のインタビューからの抜粋だ。彼らがどんな様子だったか、多大なる注意が払われ、演出されている。この作品の脚本が本当に光るのは、インタビューに付随して起こる裏の場面での会話だろう。特に、無防備な状態のフロストに対し、勝手に想像した彼の性生活や習慣をもちかけるニクソンの他愛もないおしゃべり。こういった個人的な話のやり取りが、作品中もっとも説得力のあるエピソードに繋がっていく。最終のインタビュー前夜、酒に酔ったニクソンが夜もふけてからフロストに電話をかけ、長話に付き合わせる。ニクソンは自分たちが両方とも「お高くとまった俗物」たちから見下されているという類似点について謙虚な仲間意識でもって話す。

勝者と敗者が明示された哀愁漂うエンディング

 最後の場面までにはランジェラはすべてを手中に納めているが、ニクソン本人を演じるために消えうせてしまわざるを得なかった。予測できたことだが、哀愁漂うエンディングでは、片方の勝利ともう一方の実質的な敗北が明示されている。

 実在の人物が描かれているが、よく知られている人物とそうでない人物とがある。脇の登場人物たちは一様に効果的だ。ロケーションは、フロストが実際に滞在していたビバリー・ヒルトンのスイートルームを含め、どれも真実味を増大させている。しかし、プロダクション・デザイナーのマイケル・コレンブリスと彼のチーム、そして衣装デザインを手がけたダニエル・オルランディは、深刻な内容の物語の中で、あまり目を引かないようにという配慮から、70年代風の装飾を主張し過ぎない程度に抑えた。

 ハンス・ジマーによる音楽は活力を増大させている。ちょっとした俗っぽい描写のために(米では)Rレーティングが設定され、若い世代がこの作品を観賞する妨げになってしまったのは残念だ。

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