「猛烈な強さ」はこのカードには備わっていない。だが、《果敢な先兵》は立派に構築環境でも大活躍した。その秘密は「燻し銀の防御性能」にある。
《果敢な先兵》は、自身でブロックした相手のクリーチャーを戦闘終了時に破壊する最強の楯能力を持っているのだ。もっとも、単にクリーチャーを除去したいだけなら呪文を使った方が100万倍簡単なのだが、当時の環境には、そんな当たり前の理論を当たり前じゃなくするお馬鹿ちゃんなカードがあった。《果敢な勇士リン・シヴィー》だ。
《果敢な勇士リン・シヴィー》は、当時の構築環境に大きな影響を与えたカードの一つで、前代未聞のサーチ能力を持つクリーチャーだ。なにしろ、Xマナを支払うだけで、ライブラリーからXコスト以下のレベル・カードを直接場に出してしまうのだ。アドバンテージという概念の仕組みを初手から小馬鹿にした性能には、全世界のデュエリストが総突っ込み。しかも、ただライブラリーから出すだけじゃなく、墓地にあるレベル・カードをライブラリーに戻したりする手段まで併せ持っているから大変。
3マナ支払って《果敢な先兵》を出す。
何かをブロックした《果敢な先兵》が敵を道連れにしつつ倒れる。
3マナ支払って墓地の《果敢な先兵》がライブラリーに戻る。
繰り返す。
かくして《果敢な勇士リン・シヴィー》と《果敢な先兵》の組み合わせがマジック世界を席巻した。だが、その隆盛は長くは続かなかった。
答えは簡単。レベルが成長を止めたのとは対照的に、別のデッキが成長を続けたからだ。
《ヤヴィマヤの火》+《火炎舌のカヴー》+《ブラストダーム》+《はじける子嚢》
そして、サイドボードに眠るは、種族を根こそぎ破壊する《サーボの命令》…
世界は《果敢な勇士リン・シヴィー》が考えるよりも、何百倍も広かったのだ。