タイムシフトカード

 タイムシフトカードって何? という人はまずは肩慣らしにこちらの記事を。
 準備オーケーなら、いざ御紹介といこうじゃないか。


《怒りの天使アクローマ》

 初出は、03年2月発売のレギオン。

 7つのキーワード能力を持つアクローマは、単体としての単純戦闘力では間違いなく最強クラスだ。プロテクション(黒)と(赤)の組み合わせはマジック世界にある単体除去の大多数をあまりにも簡単に無力化してしまうし、速攻+警戒+飛行の組み合わせは、場に出た瞬間からパワフルな一撃を可能とする。しかも、先制攻撃とトランプルがあるので、中途半端なブロックなんて秒で蹴散らしてしまう。最強だ。

 ただ、最強には最強であるが故の悩みもある。それは、最強であるがために、コストだって最強クラスだってことだ。{5}{W}{W}{W}、このハイコストを普通に支払うってのはたしかに至難の業だ。しかも、単に支払うだけじゃ駄目で、相手のカウンター呪文を乗り越えて無事に場に着地させなきゃいけない。これはもはや至難の業なんて言葉じゃすまない、神の領域に属する奇跡だ。

 なので、アクローマは強いけど使えないクリーチャーの烙印を押されるところだったが、それを救ったのが、普通にはクリーチャーを召喚しない、反逆の精神を胸に刻み込むリアニメイト軍団だ。

ガディエル・シュライファーの「リアニメイター」
2005年10月プロツアーコロンバス第5位

4 《地底の大河》
4 《汚染された三角州》
6 《沼》
2 《島》
-土地(16)-

4 《怒りの天使アクローマ》
4 《朽ちゆくインプ》
3 《刃の翼ロリックス》


-クリーチャー(11)-
4 《吸血の教示者》
4 《入念な研究》
4 《死体発掘》
3 《強迫》
4 《渦まく知識》
4 《金属モックス》
4 《再活性》
1 《実物提示教育》
1 《不快な夢》
4 《陰謀団式療法》
-呪文(33)-
4 《燻し》
3 《ファイレクシアの抹殺者》
2 《金粉のドレイク》
2 《実物提示教育》
1 《残響する真実》
1 《頭蓋の摘出》
1 《魔力流出》
1 《エネルギー・フィールド》
-サイドボード(15)-

 《ゾンビ化》《蘇生》《戦慄の復活》《死後剛直》。墓地からクリーチャーを引きずり出すカードは既に十分な量が揃っている。再び彼女が大空を支配してもおかしくはないはずだ。


《永劫の輪廻》

 初出は、95年6月発売のアイス・エイジ。

 《永劫の輪廻》は極めて変なエンチャントだ。自分だけ手札を公開してプレイしなきゃいけない露出狂仕様だし、引こうとするカードがクリーチャーだった場合は、引かずにそれを墓地に捨てなきゃいけない。では、なぜそれ程の責め苦に耐えてまで、このエンチャントをセットするのか。それは、場にあるクリーチャーが墓地に置かれると手札に戻るようになるからだ。

 このマニアックな造りに、世のコンボ系デッキビルダーの脳みそは狂喜乱舞。なんとかして凄いことにならないかと、様々な試みが行われた。

 《永劫の輪廻》の肝は、場から墓地に落ちたクリーチャーが即座に手札に戻る部分にある。なので、これに0マナクリーチャーを組み合わせれば、何度でも場に出せるわけだ。では、後はどうやって出したクリーチャーを悪用するか?

 その役目を完全な形で担ってくれたのが、このカードだ。《永劫の輪廻》《ゴブリンの砲撃》を貼り…

 0マナクリーチャー出す → 《ゴブリンの砲撃》に使う → 0マナクリーチャー手札に戻る

 を相手が死ぬまで繰り返すわけだ。

 

トニー・ドブソンの「ココア・ペブルス」
1999年12月プロツアーシカゴ第7位

4 《Badlands》
4 《真鍮の都》
4 《宝石鉱山》
3 《泥炭の沼地》
3 《ファイレクシアの塔》
4 《Scrubland》
-土地(22)-

4 《アカデミーの学長》
2 《ファイレクシアの歩行機械》
4 《Shield Sphere》


-クリーチャー(10)-
1 《沈黙のオーラ》
4 《暗黒の儀式》
4 《Demonic Consultation》
4 《強迫》
3 《永劫の輪廻》
4 《ゴブリンの砲撃》
1 《魔力の櫃》
3 《モックス・ダイアモンド》
4 《ネクロポーテンス》
-呪文(28)-
1 《中断》
3 《沈黙のオーラ》
1 《中心部の防衛》
2 《平和の番人》
4 《紅蓮破》
2 《枯渇》
2 《不毛の大地》
-サイドボード(15)-

 何かしらの手段で0マナクリーチャーをマナやダメージに変えられるなら、再びこのカードが暴れ出してもおかしくはないはずだ。


《解呪》

 マジック創世期から長きに渡りアーティファクト&エンチャント対策の基本カードとして活躍してきたのが、タイムシフトカードに選ばれた《解呪》だ。このカードの存在により、白は最もアーティファクトとエンチャントに強い色として君臨してきたわけだが、第七版での再録が見送られたのと、02年10月に登場したオンスロートで全く同じ効果を持つ《帰化》が緑に製作されたことで、その地位は白から緑へと受け渡されることが確定づけられた。

 デッキの根幹を成すカードではないが、非常に多くのデッキにメイン・サイドを問わず投入されている。アーティファクトとエンチャントがこの世から無くなることはないので、今後も広く使われ続けることだろう。

 逆に、アーティファクトやエンチャントを使う側としてみれば、《帰化》《解呪》が同時に存在してしまうわけで、受難の日々を迎えそうだ。

 懐かしいカードなので、デッキリストも懐かしいものを。

ブライアン・ワイズマンの「The Deck」
3 《平地》
4 《島》
4 《Tundra》
2 《Volcanic Island》
4 《真鍮の都》
1 《Library of Alexandria》
3 《露天鉱床》
-土地(21)-

2 《セラの天使》


-クリーチャー(2)-
1 《Black Lotus》
1 《Mox Pearl》
1 《Mox Sapphire》
1 《Mox Jet》
1 《Mox Ruby》
1 《Mox Emerald》
1 《Sol Ring》
2 《破裂の王笏》
1 《ジェイムデー秘本》
1 《Mirror Universe》
4 《解呪》
2 《Moat》
4 《剣を鍬に》
1 《Amnesia》
1 《Ancestral Recall》
1 《Braingeyser》
2 《対抗呪文/Counterspell》
4 《Mana Drain》
1 《Timetwister》
1 《Time Walk》
1 《回想》
1 《Demonic Tutor》
2 《赤霊破》
1 《Regrowth》
-呪文(37)-
1 《象牙の塔》
1 《フェルドンの杖》
1 《破裂の王笏》
1 《ジェイムデー秘本》
2 《赤の防御円》
2 《血染めの月》
1 《Moat》
1 《火の玉》
2 《赤霊破》
2 《神への捧げ物》
1 《トーモッドの墓所》
-サイドボード(15)-

 《解呪》《帰化》。はたしてどちらがマジョリティとなるのだろうか?


《サルタリーの僧侶》

 《サルタリーの僧侶》が登場したテンペストブロックは、圧倒的にシャドーが強い環境だった。白には、プロテクション(赤)を持つ《サルタリーの僧侶》とプロテクション(黒)を持つ《サルタリーの修道士》という2マナでパワー2のツートップ。そして、黒にも《ダウスィーの怪物》やタイムシフトカードに選ばれている《ダウスィーの殺害者》が。

 なにしろ、シャドーを持たないクリーチャーはシャドーをブロックできないのだ。いくらマナを貯めてサイズのでかいクリーチャーを召喚しようと、攻撃を止めようがなく確実にシャドーによるダメージが蓄積していくわけで、優れたシャドーを有するウイニーデッキの強さは圧倒的なものがあった。

 ただし、全く対応策が無いかといえば、そうでもない。現環境には、《サルタリーの僧侶》が過去出会ったことのない天敵も幾つか存在する。例えば、たった1マナで攻撃クリーチャーを除去する《糾弾》や、同じく1マナで2マナカードを撃墜する《呪文嵌め》、それにプロテクション(赤)をモノともせぬ《病に倒れたルサルカ》なんてのもそれにあたる。

 また、同じくタイムシフトカードとして蘇った《鋸刃の矢》なんてのも、タフネスの低い《サルタリーの僧侶》にとっては厄介極まりない宿敵となりそうだ。

カイル・ローズの「ホワイト・ライトニング」
1999年アメリカ選手権優勝

20 《平地》
-土地(20)-

4 《長弓兵》
2 《マスティコア》
4 《ルーンの母》
4 《サルタリーの歩兵》
4 《サルタリーの僧侶》
4 《魂の管理人》
4 《コーの戦士》


-クリーチャー(26)-
4 《十字軍》
2 《栄光の頌歌》
4 《解呪》
4 《要撃》
-呪文(14)-
2 《沈静》
1 《ハルマゲドン》
1 《消去》
3 《野戦外科医》
3 《謙虚》
1 《平地》
2 《崇拝》
2 《神の怒り》
-サイドボード(15)-

 《サルタリーの僧侶》の強さもさることながら、このデッキ最大の武器はルールの穴をついたテクニックにある。ルール改訂が行われる前は、相手のターン終了ステップに《要撃》で出したトークンは自分のターン終了ステップまで生き残っていた。そのため、《十字軍》と組み合わせると突如として襲いかかる3/3トークンを3体も作り出せてしまったのだ。

 こういったルールの穴を見つけ出すのも、新たなセットが出た時に味わえる楽しみの一つ。


《果敢な先兵》

 「猛烈な強さ」はこのカードには備わっていない。だが、《果敢な先兵》は立派に構築環境でも大活躍した。その秘密は「燻し銀の防御性能」にある。

 《果敢な先兵》は、自身でブロックした相手のクリーチャーを戦闘終了時に破壊する最強の楯能力を持っているのだ。もっとも、単にクリーチャーを除去したいだけなら呪文を使った方が100万倍簡単なのだが、当時の環境には、そんな当たり前の理論を当たり前じゃなくするお馬鹿ちゃんなカードがあった。《果敢な勇士リン・シヴィー》だ。

 《果敢な勇士リン・シヴィー》は、当時の構築環境に大きな影響を与えたカードの一つで、前代未聞のサーチ能力を持つクリーチャーだ。なにしろ、Xマナを支払うだけで、ライブラリーからXコスト以下のレベル・カードを直接場に出してしまうのだ。アドバンテージという概念の仕組みを初手から小馬鹿にした性能には、全世界のデュエリストが総突っ込み。しかも、ただライブラリーから出すだけじゃなく、墓地にあるレベル・カードをライブラリーに戻したりする手段まで併せ持っているから大変。

 3マナ支払って《果敢な先兵》を出す。

 何かをブロックした《果敢な先兵》が敵を道連れにしつつ倒れる。

 3マナ支払って墓地の《果敢な先兵》がライブラリーに戻る。

 繰り返す。

 かくして《果敢な勇士リン・シヴィー》《果敢な先兵》の組み合わせがマジック世界を席巻した。だが、その隆盛は長くは続かなかった。

 答えは簡単。レベルが成長を止めたのとは対照的に、別のデッキが成長を続けたからだ。

 《ヤヴィマヤの火》《火炎舌のカヴー》《ブラストダーム》《はじける子嚢》
 そして、サイドボードに眠るは、種族を根こそぎ破壊する《サーボの命令》

 世界は《果敢な勇士リン・シヴィー》が考えるよりも、何百倍も広かったのだ。

カイ・ブッディの「レベル」
2000年12月プロツアーシカゴ優勝

16 《平地》
4 《低木林地》
4 《リシャーダの港》
2 《黄塵地帯》
-土地(26)-

4 《レイモス教の兵長》
4 《果敢な勇士リン・シヴィー》
3 《不動の守備兵》
3 《長弓兵》
2 《果敢な隼》
2 《果敢な先兵》
2 《レイモス教の空の元帥》
1 《熱風の滑空者》
1 《反逆者の密告人》


-クリーチャー(22)-
4 《キマイラ像》
4 《パララクスの波》
4 《増進+衰退》
-呪文(12)-
4 《ハルマゲドン》
3 《浄化の印章》
3 《神の怒り》
3 《獅子将マギータ》
1 《果敢な先兵》
1 《光をもたらす者》
-サイドボード(15)-

ちなみに、このプロツアーシカゴでは、なんと二日目進出者の35.3%がレベルを使用していた。



真木 孝一郎 (まき・こういちろう)

 古くから日本マジック界で活躍する強豪で、グランプリベスト8入賞、The Finals優勝といった数々の戦歴で知られている。

  現在は業界を代表する『ご意見番』としての執筆活動に精力的で、マジック『ハンドブック』シリーズも手がけている。

ホビージャパン社より刊行!

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