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猫とピストル

  • 萩原健之歌集『猫とピストル』歌葉にて販売中です。

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2007.08.31

ショートストーリー:雨にぬれても

Butch_cassidy_and_the_sundance_kid
何だか久しぶりに雨が降ったような気がするのだけど、勘違いだろうか? ずっと晴れて暑い日が続いていて、こうして雨音を聴いているとなんだかやさしい気持ちになる。きみも猫も寝ている。それにしても、ふたりともひどく寝相が悪いなあ。
お腹が空いたので冷蔵庫を開けたのだけど、チーズがひとかけらしかない。冷たい白ワインがあったので、ひとかけらのチーズをちびちびと齧りながらワインと一緒に流し込む。
とても静かだな。雨音以外聞こえない。猫の白いお腹がゆっくりと途切れることなく動いている、時を刻むように。
そっと手を伸ばしてヴォリュームをしぼったままラジオのスイッチを入れる。B・J・トーマスが歌っている。

雨が頭の上に落ちてくる
ちょうどベッドに収まるには足が長すぎる男みたいに
すべてしっくり行かないみたいだ
雨が頭の上に落ちてくる 落ちつづける

本当にそうだな。きみと猫ときたらベッドを占領しているものな。ぼくの寝床はソファなんだけれど、そう、あのソファは寝床っていうよりも背中を置く場所で、ぼくはいつも脚をぶらぶらさせているよ。しっくりいかないや。
カーテンの隙間から外を見つめる。静かな朝に、霧のように降る細い雨が少しずつだけど、弱まって雲の切れ間に青空が見えてくる。雨がやめばきみと猫は起きるかな?

そのうち幸せの方が俺に挨拶にやって来るだろう

B・J・トーマスが歌っている。

きっと太陽もきみや猫みたいに眠くってしかたないんだな。雨があがればきみも猫もすっきりと起き上がるだろう。幸せも挨拶しにくるだろう。だけどいま、雨は音もたてずシーツを広げたみたいに降っている。
雨があがったらさ。自転車にでも乗って何かまともなものを食べに行こうよ。きみも猫も雨があがるまで寝てていいからさ。

Butch Cassidy and The Sundance Kid

For you

雨の朝のラジオの歌声は珈琲色の懐かしい声

2007.08.30

ショートストーリー:彼女とウクレレ

Melina_mercouri
彼女は皆からみみちゃんと呼ばれているのだけど、勿論、これは本名ではない。みみちゃんというのは耳がいいからで、その耳がいいには二つの意味がある。ひとつめは文字通り耳の形が美しい。だからみみちゃんはいつも長い髪で耳を隠している。耳を出すといろいろと支障があるのだ。
ふたつめの意味はチャーリー・パーカーが若き日のシーラ・ジョーダンに言った「耳がいいね」と同じで、みみちゃんはとても音感がいい。リズム感だっていいのだ。
それで、みみちゃんはいつもウクレレを抱えている。ウクレレの名前はレレ子。べつにふざけているわけではないよ。
レレ子はスタイルがいい。きゅっとくびれている。南の国の生まれなので、小麦色をしている。ふたりはいつも一緒なんだな。そしてみみちゃんはレレ子をぽろぽろ弾きながら歌う。

わたしにキスできるのは月曜日よ、月曜日よ~♪

なんだかずいぶん古い映画の歌だね。みみちゃんは楽器の腕もいいし、レレ子だってみみちゃんに負けないくらい音がいいから、二人が楽器みたいになって歌い奏でると都会の憂鬱な風景もがらりと変わってしまうんだ。ものは試しに窓を開けてごらんよ。青い青い海が拡がっていて、多島海の景色が目に飛び込むから。
港には船が停泊している。港は世界中の港とつながっている。レレ子が生まれた島とも、みみちゃんが育った坂の多い港町ともつながっている。
みみちゃんは長い髪をかきあげる。美しい耳が皆の目に飛び込むと、大抵の人は持っているものを落とす。恰幅のいい紳士は火のついた葉巻を絨毯に落としたし、レストランのボーイは盆を持ったまま、卒倒したし、ステージで難しい顔をしてピアノを弾いていた銀行員みたいな風貌のピアニストも思わず不協和音をガギーンと奏でてしまったのさ。
腕に碇の刺青を入れた船乗りがみみちゃんに言う。「へ~い、みみ~!!みみり~!!みみり~にょ!!」まったく失礼しちゃうわねえ、船乗りさんは。なんなのかしら? みみちゃんは笑う。
みみちゃんはレレ子をぽろぽろ奏でながら歌をうたう。それが、みみちゃんとレレ子の日曜日。Never on Sunday。なんて言ったって日曜日はみみちゃんとレレ子のものなのだからね!!

For you

猫と星を探して夜の廃駅をゆけば輝く言葉たちが舞う

2007.08.29

19世紀から脱出したいのだ日記

Photo
本日は雨。6時起床。やや涼しい。朝食はパンとコーヒーとハムにバナナ。朝食後、掃除をして11時半過ぎに外出。雨はやんでいます。涼しいので楽なのですが、なんかねむいですね。
ぶらぶらと裏駅まで歩き、レストラン「kura」に入り昼食をとりました。
主菜はメダイのポアレ。サラダとスープとライスにコーヒー。折角なのでデザートにアイスクリームを戴きました。ここは結構、穴場かもしれません。ランチタイムに入るとわりとお手ごろな値段で本格的な料理が食べられます。先日は洋梨のタルトを食べたのですがスイーツも結構美味しいです。
昼食後、御成通りの「Ost」に顔を出して店長さんと店員さんと雑談。MFQ(モダン・フォーク・カルテット)の「MOONLIGHT SERENADE」というCDを購入しました。なんかまったりとした夏向きの音楽です。ジャズっぽいビーチボーイズって感じかな。全然、説明になってませんね(笑)
その後、薬局に寄り、薬剤師さんとお話をして帰宅。すこし横になりましたが30分ほどごろごろしてから起き上がり、イタロ・カルヴィーノ(写真)の「魔法の庭」の続きを読みました。
そこでふとカルヴィーノの「新たな千年紀のための六つのメモ」という本のことを思い出したのですが、カルヴィーノは遺稿となったこのメモの中で、来るべき世紀(21世紀)の文学について触れています。六つのメモとなっていますが、五つ書いたところでカルヴィーノは亡くなりました。その五つとは、

「軽さ」「速さ」「正確性」「視覚性」「多様性」

です。つまりこの五つが来るべき文学に必要とされるであろう、と実作者の立場から指摘しているのです。
そんなことを考えているうちに以前所属していたことのある「現代詩フォーラム」に書いた「19世紀は終わらない」という文章のことを思い出してしまいました。
ぼくは現代詩フォーラムに書かれている幾多の詩を読んだうえで、21世紀になったいまでも、19世紀的キーワードである「私有」という概念が終わらずに残っていると指摘し、この四つを挙げました。

「文体の私有 」「内面の私有」「作品の私有」「リアリティの私有 」

そして、その構造をこのようにまとめました。

かけがえのないわたしが(個)かけがえのないわたしを(内面)かけがえのないわたしの言葉で(個の文体)かけがえなく(リアリティ)語る。

これはまあ、とくに詩歌の世界では根強く残っている考えです。とくに短歌の世界ではかなり強固です。作品は作者の内面と密接に結びついていて、そこにこそ真実の文学があるのだ、という主張です。

さてさて、こうした終わらない19世紀的考えとカルヴィーノのメモを比較するとまったくもって、相容れないなあ、と思います。
「個」「内面」「個の文体」による「かけがえないもの」という図式には、「軽さ」も「速さ」も「正確性」も「多様性」もありません。
無論、他人さまがどのような考えで文学作品を書こうが、ぼくが文句を言う筋合いはないのですが、ぼくは言葉は「物質」だと思っています。
だからぼくは物を書くときに、ためらうことなく言葉をパーツとして入れ替えたり差し替えたりします。ぼくは言葉を「私有」しません。言葉をあちこちから持ってきては切ったり貼ったりするのです。
ぼくは作品と呼ばれるもの(短歌にしてもショートストーリーにしても)を書くときに自分の「内面」には全くと言っていいほど関心を持ちません。ぼくが関心を持つのはどこに何の言葉を配置するかということだけです。

とにかく早く19世紀から脱出したい

ぼくは常々そう思っています。そしてぼくの作品のほとんどがそうした手法でもって書かれているのです。いやいや、だから歌人さんとか頭きちゃうんだろうなあ(笑)

For you

夢待ち模様の女の子が手を振っている逆さ睫のきみ

文中に登場した素敵な本とCDたち

魔法の庭 (ちくま文庫 か 25-3)魔法の庭 (ちくま文庫 か 25-3)
価格:¥ 756(税込)
発売日:2007-08
カルヴィーノの文学講義―新たな千年紀のための六つのメモカルヴィーノの文学講義―新たな千年紀のための六つのメモ
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:1999-04
ムーンライト・セレナーデ
価格:¥ 2,548(税込)
発売日:1995-02-25

2007.08.28

ショートストーリー:彼女のイニシャル

Cardinale_1
彼女は昼間からワインを飲みつつ音楽なんて聴いている。Nino RotaがFederico Felliniのフィルムのためにつけた曲たちだ。ワインはもちろんフレスコバルディの白のよく冷やした奴。これでパスタ・エ・ファジョーリがあれば言うことはないんだけどね。
足元では猫がまるまっていて、床に落ちた陽の光がちらちらと輝いている。
平日の昼間からお酒を飲むのは神様が与えた最高の贅沢ですよ。そうは思わないかな?
スープを煮込みながら、ぼくは「お~い」と声を掛ける。だけどうっとりとした表情のままグラスを持って、首なんか傾げている。それからふっと思いついたように言う。
「ねえねえ」
「なんだい?」
「発見しちゃった」
「何を?」
「あのね。イタリア人のなまえっておもしろいの。フェデリコ・フェリーニはF・Fでしょう? マルチェロ・マストロヤンニはM・Mじゃない?」
「うんうん」
「ロベルト・ロッセリーニにベルナルド・ベルトルッチ。全部がそうじゃないけど、頭文字が一緒の人が多いの。なんかおもしろくない?」
「彫刻家のマリノ・マリーニもそうだね」
「おもしろいでしょ?」
「そうだね。何かの本で読んだことがあるんだけれど、この人たちはみんな長男らしいよ。頭韻を踏んでいるんだ。どうもそういう決まりがあるみたいだよ。いまはどうだかわからないけれどね」
ぼくはスープが煮立たないように火を落としながら答える。
すると「へえ~そうなの」と言ってまたワインをちびりとなめる。彼女がそんなふうにしている間に、ぼくはリストランテ・ニーノ風の豆のスープに挑戦して、悪戦苦闘しているのだ。
「じゃあ、女の子の場合は美人かかわいいかどちらかね!」と彼女。
「なんでだい?」とぼく。
「だってマリリン・モンローはM・Mだし、B・Bと言えばブリジット・バルドーだし、C・Cはクラウディア・カルディナーレだもんね!」
「大きく出たな!!」とぼくは笑う。彼女のイニシャルも頭文字が揃っているのだ。
ワインをちびちびなめながら彼女は悪戯っぽく笑う。それはそれでそれなりに当たっているのかもしれない。だからぼくは言う。
「もし、きみが結婚しなければ、ずっと美人でかわいいままかもしれないな」
すると彼女は「ふふん!」と笑う。
「ふふん!」ってなんなんだい? 美人でかわいくてちょっとわがままな女の子よ。鍋の中の豆たちがくすくすと笑っているぜ。
「ふふん!」彼女はまた笑う。そしてそんなにふうにして午後はゆっくりと傾いていく。

Fellini's 8½-Claudia Cardinale and Marcelllo Mastroianni

For you

夜が通り過ぎる街路樹の下を夢の瞳が開かれるとき

2007.08.27

ショートストーリー:小鳥さん

Francoise_dorleac_gallery_4
彼女はベランダにブリキのたらいを出すと水をはり、脚をつけて本を読むことにした。ストッキングを脱いで、つま先を水につけると、あらなんか気持ちいい。部屋にこもってエアコンをつけっぱなしにしているよりもこの方が健康的だなと思う。
あちこちで狂ったようにせみが鳴いている夏の午後のことで、本の中ではメゾンラフィットの夏やウィリアムスバーク橋の夏やオランの夏がこれでもかこれでもかと暑さを競っている。
う~ん、ここも暑いんだけどなあ。
つけっぱなしのラジオからはワルター・ワンダレーの「サマーサンバ」が流れていて、時折ひんやりとした心地よい風が頬を打つ。都会の風だって捨てたものじゃないね。
すると小鳥さんがベランダに舞い降りて、それからきょろきょろと辺りを見回すとちょんと肩の上にとまる。小鳥さんも暑そうだなあ。ふかふかの羽毛のコートを着ているものね。
「ねえねえ、本当に暑いよねえ」と彼女。
小鳥さんは首を傾げる。それから肩の上で二度、三度、ぴょんぴょんと跳ねると答える。
「よいつあもてともてと」
「はっ?」と彼女は聞き返す。すると小鳥さんは言う。「さばてっだんいつあらかだ」
小鳥さん暑くてどうにかなっちゃったのかしら?
「ねえねえ大丈夫?小鳥さんも水につかる?」彼女はそう言うと、手を伸ばして、植木鉢の下に置いてあったお皿にたらいの中の水を入れる。すると小鳥さんは「うとがりあもうど」と言うと、よろこんで水浴びをする。
「いいちもきくごんす、ああ」
「ねえねえ、頭も冷やしたほうがよくない?」彼女はそう言うと、たらいの中の水を小鳥さんにぴやっぴやっとかける。それでも小鳥さんはおかしな答えをする。
「ちもきいいどけいためつ」
「うんうん、わかったよ!」彼女は答える。太陽のせいだな。この暑さのせいね。
やがて小鳥さんはぶるぶると身体を震わして水を切ると、また彼女の肩の上に止まり、二度、三度、ぴょんぴょんと跳ねる。なんだかさっぱりした感じかな?
彼女は、さてさてと言うとたらいから脚を出す。ふやけちゃうわ。
たらいの中の水に太陽が映って揺れている。たらいの中の空もゆらゆらと揺れている。すると小鳥さんは「うとがりあもうど」と言うと、たらいの水に映った空の中に飛び立つ。まるで手品みたいに。
ああ、そうなんだ!
ようやくのこと彼女は気づく。小鳥さんは水に映った空から来たんだ。だから、うとがりあもうど、なのね。どうもありがとう。
彼女は立ち上がると、さてさて、と言い、昼間だけどビールでも飲んじゃおうかなと思う。ねよいいにつべ、なんて独り言を言いながら。

For you

海辺の季節の娘たちの夏の終わり貝殻の中の潮騒

2007.08.26

ショートストーリー:彼女は注目の的なんだ

Anna_3
彼女は注目の的なんだ。もちろん的に向かって拳銃をぶっぱなす奴もいるのだろうけれど、大抵の男どもはその前に拳銃を落としてしまう。そうそう、花だって首を傾げるし、小鳥だって羽を止めて落ちそうになる。蟻んこだってついつい見上げてしまうのだ。なぜならそれは、とてもかわいいからなんだ。
コーヒーを入れてテーブルに置こうとして、あ~あ~あ~と言ってお気に入りのソーサーを粉々にしてテーブルクロスをコーヒー色に染めて、読みさしの詩集を紙くずにしてしまっても、作者であるアレン・ギーンズバーグは許してくれる。なぜならそれは、彼女がすごくかわいいからなんだ。
約束の時間を守らないし、時々どうしようもないわがままを言うし、知らないうちにぼくの大切な本を売っぱらってしまうし、そのお金を一晩で使ってしまうけれど、なんか怒る気が起きないのは、やはり、彼女がかわいいからだ。
地球が少しばかりやさぐれて斜めになって廻っているのも、カルロス・クライバーがコンサートをキャンセルするのも、一緒に入ったレストランのボーイが彼女の姿を見るなり、トレンチごと高級シャンパンを床にぶちまけたのも、彼女がかわいいからだ。
時折、ぼくの友達にいんちきな名前を教え込み、ナナとかマリアンヌとかヴェロニカ・ドライヤーとかナターシャ・フォン・ブラウンさんはご在宅ですかと電話が掛かってきて大騒ぎになっても、皆、腹を立てたりしないし、マルクスとエンゲルスをずっとひとりの人だと思っていても、皆、彼女のことを怒ったり馬鹿にしたりしないのは、それはやはり彼女がかわいいからなんだ。
世界中が彼女に注目している。太陽は夜になると隠れるし、月は朝になると沈んでしまうけれど、彼女は生きているし、そこにいる。そして歌う。

どうしてかしら
みんな あたしに夢中になるの
でも わけは簡単
こういうことよ
きれいな胸と
紫色に輝く瞳
水兵さんの上着と
おどけたパンティ(とスカートをめくってお尻を見せる!)

いい娘じゃないの
つれない女なのよ
でも男は誰も怒らない
だって あたしは
とてもきれいだから

皆がひゅーひゅーと口笛を鳴らす。うれしくって仕方がないのだ。だって彼女はものすごくかわいいからだ。
彼女はどうってことなそうにしている。それからぼくが拾ってきた不細工な猫を抱き上げると言う。「かわいい、かわいい、すごくかわいい!!」
誰だって猫になりたいと思うだろう?それは、やっぱり彼女がかわいいからなんだ。

追伸:文中の歌は映画「女は女である」の中でアンナ・カリーナが歌う劇中歌の翻訳です。画像を貼ろうと思ったのですが、お子様にはまずいので辞めておきます(笑)
代わりに「女は女である」の別の映像を貼っておきます。
それからインターネットラジオを設置しました。遊んでって下さいませ。

Charles Aznavour: "Tu t'laisses aller"

For you

夜明けの空の下で朝露を拾う娘たちの歌が聞こえる

2007.08.25

ショートストーリー:緑色の瞳の猫のはなし

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何年も前のことなのだけれどちょっとした行き違いがあって本を一冊だけ出したことがある。タイトルは「緑色の瞳」で出版社の担当者が勝手につけたのだけど、まあ、なんとなくいい感じかもしれない。
当然のことながらその本は全く売れず、最初のうちは本屋に置いてあるのを見に行ったり、勝手に並べ替えてみたりしたのだけど、いつしか棚から消えていて、売れたのかと思ったら出版社が倒産してしまった。
緑色の瞳をした猫といちごちゃんという女の子が出てきて、拳銃をぶっぱなして星を落としたり、流れ星を拾いにいったり、雨を集めたりするという馬鹿な話で、よくぞ本にしてくれたといまさらながら思う。だからつぶれちゃったのかな、あの出版社は。
それでその本はぼくの手元にもない。もちろん図書館にもない。古本屋で見たこともない。持っている人にも会ったことがないし、おたよりを頂いたこともない。
まったくかわいそうな本なのだ。
どうしてこんなことを書いているのかと言うと、昨晩、緑色の瞳をした黒猫がアパートメントの前で待ち構えていたのだ。
ものすごいよ。銀杏みたいな瞳の猫。
黒猫の奴はスーツなんて着ていて、おまけに葉巻をくわえていて、拳銃を磨きながらぼくを待っていたのだ。
「覚えているかい?」
「は?」
「きみがいい加減だからずいぶん苦労したんだぜ」
黒猫が言うには、奴はかってぼくが出した本の中の緑色の瞳をした黒猫で、出版社が倒産してしまった後、活字の海で溺れかかったり、ページの森に迷い込んだり、裁断機で尻尾を切られそうになったりといろいろ危険な目にあったらしい。それでも持ち前の機敏を生かして、今じゃ、黒猫界を仕切るまでになったそうだ。ああ、知らなかったよ。ごめん。
「とにかく一緒にきたまえ」
「わかったよ」
それでぼくは黒猫と一緒にマンホールのフタをどっこいしょと開けて、地下へ降りて、奴の案内どおりに歩いていったのだけど、やがて赤いビロード張りの扉が現れて、そいつをギイーっと開けると中は立派なバーになっていた。
バーにはたくさんのテーブルがあり、それぞれの席で猫がくつろいでいて、カウンターにもたくさんの猫が腰を掛けていた。そして奴がピシッとしっぽを振ると、バーの奥のステージの袖から、楽器をもった猫たちが現れてジャズを演奏し、その曲も「cat walk」なんだからいやいやたいしたものだ。
猫のバーテンダーの差し出すカクテルは、デュボネ4/12、ドライジン4/12、ライチリキュール1/12、クランベリージュース3/12をシェイクした「cat」。
「すごいねえ」
「まあまあだね」
黒猫は葉巻をくゆらせながら言う。「正直、きみを恨んだこともある。でもいまじゃ感謝してるさ」
やがてステージの上で女の子が歌いだす。あれはいちごちゃんだ!!
黒猫は髭をひくひくさせると言う。「その通り!!いちごちゃんさ!さあ、今夜はしこたま飲もう!!」
そしてぼくと黒猫といちごちゃんは何年ぶりかの再会を祝って朝まで飲み続けたってわけさ。
それでね。へべれけになるまで飲んで、目を覚ましたら、ぼくは自分の家のベッドに寝ていて、枕元にあのいつか出した「緑色の瞳」という本が置かれていたんだ。
扉には猫の手のスタンプが押され、いちごちゃんのキッスマークがついている世界に一冊しかないぼくの本が。そうなんだ。これは世界に一冊しかない本なんだよ。

For you

夏の夜の夢は文字の森を駆け抜ける黒猫の瞳の中

2007.08.24

ショートストーリー:猫も女の子も闘争せよ

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何事が起きたのかよくわからなかったのだけど、人民帽を頭に乗せ、人民服を着た猫がふらふらと部屋にやってきた。よく見るといつもイタリア製のスーツを着て、ボルサリーノを頭にちょこんと乗せ、葉巻をふかしている洒落者の猫で、向かいのアパートの女の子の飼い猫だった。
名前をマルチェロという。マルチェロ・マストロヤンニの名前を頂戴したのだ。
向かいのアパートの女の子はとてもお洒落で、休日になるとベランダにテーブルと椅子を出して、猫と一緒にイタリアワインを飲んだりする。優雅なものだ。
向かいのアパートの女の子がドアを開けて「マルチェーロ!マルチェーロ!」と叫んでいる。すると伊達者のマルチェロくんはぼくの後ろにさっさっと隠れる。
仕方がないからぼくはアパートのドアを開けて、向かいのアパートの女の子の部屋を見る。どうしたわけか向かいのアパートの女の子も人民服を着て、頭に人民帽なんか乗せている。なんなんだ?なにがあったんだ?
「こんにちは」とぼく。
「こんにちは」と女の子。「うちのマルチェーロを見ませんでしたか?」
「それよりなによりどうしちゃったんですか?その格好は?」
「あたしたち闘争しなくちゃならなくなったんです」
「闘争?」
「そうなんです。最近、引っ越してきた馬鹿な大学教授の息子が猫を禁止にしろと大家さんに掛け合ってるんです。だから闘争しなくちゃならないんです!」
女の子は部屋の片隅でおどおどしている猫のマルチェロくんを目ざとく見つけると、「マルチェーロ!闘争よ!逃走しちゃ駄目!」と言う。そして続ける。

敵が進めば我退き
敵が駐屯すれば我撹乱し
敵が戦闘を避ければ我これを攻め
敵が退けば我進む

「何なんですか、それ?」とぼくは尋ねる。すると女の子は「紅軍のスローガンです。毛沢東です。あたしたちは闘争しなくちゃならなくなったんですから」と言う。
「それで人民服を着ているんですね」
「そうです。まずはファッションからです。さあ、マルチェーロも一緒に!」

観念したのか猫のマルチェロくんはおずおずと姿を現すと人民服のポケットから紙切れを取り出す。あ~。えへん!

が、めば、き、が、すれば、し、が、を、ければ、これを、め、が、けば、む

ぼくはげらげら笑う。マルチェロくんは漢字を全部飛ばしているのだ。女の子は顔を真っ赤にする。ぼくは女の子に言う。
「笑っちゃってごめん、ごめん。昔の話なんだけれど大学時代に右翼っぽい教授がいてね。やはり飼い猫に教育勅語を読まそうとしたら同じふうになっちゃったんだよ。それでその猫の奴がその教授が匙を投げたジェームス・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』の原書を辞書も使わずに読んじゃったんだ」
「ああ~ん、困ったわ」と女の子。「これじゃあ闘争できないわ!」
ぼくは女の子に言う。
「隣の大家さんとぼくは飲み友達だからぼくからなんとか言っておくよ。でも、どうして毛沢東なんだい?チェ・ゲバラの方がかっこいいじゃないか」
すると女の子は答える。「あたし、この服をいちど着てみたかったのよ」
女の子はアンヌ・ヴィアゼムスキーのようにしなやかな身のこなしで、マルチェロくんを抱き上げる。ぼくは女の子に言う。「うん、似合ってるよ」
女の子がぺこりと頭を下げると、腕の中のマルチェロくんはのんきにあくびなんかする。
ファッションはあらゆる闘争よりも力強い。
それにしてもこの四つのスローガン。猫たちは毎日のように実行しているんじゃないかと思うのはぼくだけだろうか?

追伸:写真と動画は映画「中国女」からです。「mao mao」の歌はやっとのこと見つけました。(喜)
アンヌ・ヴィアゼムスキーは主演の女の子です。それから四つのスローガンは実際に抗日戦線中の中国の紅軍で使われていたものです。

mao mao

For you

夏の娘たちのサングラスに映る永遠は深いふかいあお

2007.08.23

ショートストーリー:さびしい女の子

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街角の映画のポスターの中のその女の子はどこか寂しそうな顔をしていた。話しかけても、ただ首を振るだけかそうじゃなければ頷くだけみたいな感じがした。誰も立ち止まらない。ポスターの中の女の子はやはりどこか寂しそうだ。女の子は踊る。時代遅れの古びたダンスホールで踊るのだけど、誰も女の子に気づかない。女の子の周りだけ空気がぽっかり抜けてしまっているみたいな感じで、ぼくはテーブルの上に葉書を置き、万年筆を走らせる。郵便番号は75の何番だったかしらん?ぼくは入院先の病院で書いた小説をその女の子に届けるつもりになる。ぼくの小説を三面記事だと言った文芸評論家はレストラン、ル・ヴァル・ディゼールで撃たれて死んだらしいよ。それにしても女の子はどうしているのかな?
電話が鳴る。ぼくは受話器を取る。彼女だ。
「もしもし?」
「・・・・」
ホテルの電話番号を書いておいたのさ。部屋番号は813。電話線を通しても女の子のさびしさが伝わってくるようだ。映画のポスターの中の女の子とぼくはお互いに受話器を持って電話線でさびしさを分け合っている。
「きみの欲しいものはなに?」とぼくは尋ねる。
「黄色い薔薇とシャンパンが欲しいの」と女の子はすこし震えたような声で言う。
女の子はさびしいなんてけっして言わない。だけど電話線を通じて、さびしいが束になってぼくの耳にそして身体中に伝わってくる。隣の部屋からラジオの音が聞こえる。

あなたを愛しているわ、俺も愛していないよ(Je t'aime moi non plus

ぼくと女の子は黙ったままさびしさを分け合う。ぼくは小説と黄色い薔薇とシャンパンを持って女の子に会いに行くだろう。それでも女の子はきっとさびしいままかもしれない。隣の部屋のラジオが同じフレーズを何度も何度も繰り返している。
ぼくも女の子も受話器を置くことができない。ねえ、さびしい女の子よ、きみは本当にそこにいるのですか?


Françoise Dorléac. 21.03.1942 - 26.06.1967

For you

夢が扉を叩く夜の帳かなしみのスープが冷めてしまう

2007.08.22

ショートストーリー:夏に恋する女の子

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何はともあれ暑いのが苦手だ。たぶん冬の真っ只中に生まれたからだと思うのだけど、とにかく気温が摂氏30度を超える日が数日続いたりすると、ぼくは、身も心も溶けかかった雪だるまみたいになってしまう。基本的に地下生活者なのだ。本なんてサミズダートや深夜叢書で充分だ。ともだちだってマチェクがいれば充分だ。ホームシックになんかにかかるわけもない。ああ、暑い。たまらなく暑い。それなのにきみときたらものすごい元気だ。ノースリーブのシャツにホットパンツなんて身につけて髪をアップにして、朝からくるくるとリズムを取って掃除機なんかかけている。ステレオからはコニー・フランシスの歌声がしている。

本を投げ捨てて
学校も終わり
陽気はあついけど
涼しく遊ぼうよ
わたしたちはヴァケイションの最中
楽しいことだらけ

掃除機が迫ってくる。煙草吸うなら窓を開けてね、と言ってせっかくエアコンのせいで涼しくなってきた部屋をぶち壊し、うきうきとしている。猫が飛び回っている。ああ、こいつもあついのが得意なんだな。
「なんでそんなに元気なんだい?」
「夏だからよ」
「ぼくは夏のおかげで元気がないんだけどな」
「だってあたしは夏に恋してるもの。あなたもそうすればいいのよ、簡単だわ!」
きみは夏に恋をしているのか。ぼくは恋敵である夏の野郎をうらむよ。コニー・フランシスは歌い続けるんだ。

ピザ売り場で
ピザをかじって
ラブレターを書いて
砂の上で
ヴァケイションの真っ只中
世界はすべて私たちのものよ

ああ、世界はきみたちのものだよ。さてさて、ときみは言う。お掃除も終わりましたし、サンドウイッチでも持って海にでも行きますか?
砂の上でヴァケイションの真っ只中、世界はすべて夏に恋する女の子ためにあるのだから仕方がない。
ぼくはきみに降参して言う。オプションでいいから冷たいビールをつけてくれないか?それからぼくのためにビーチパラソルを用意してくれないか?
コニー・フランシスは歌い続ける。

ラブレターを書いて
砂の上で
ヴァケイションの真っ只中
世界はすべて私たちのものよ


追伸:写真と動画は映画「ロシュフォールの恋人たち」から。なんか夏ぽいので。

Les demoiselles de Rocherfort


For you

海辺に寝転がりサンドウイッチを頬張ればきみは夏の妖精

2007.08.21

暑くったって本を読むのだ日記

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本日は晴れ。7時起床。ベッドの中で「バロックの森」を聴く。今日はヘンデルが掛かっていた。起きてからも余韻が残っていたので、バッハの「ブランデンブルグ協奏曲」を聴きながら朝食をとる。メニューはパンとコーヒーとハムに冷やしたトマト。
土曜日から薬を半分に減らし始めたのですが、そのせいか、やや眠気を感じ横になる。昼過ぎから数時間はとてもじゃないが昼寝など出来ない暑さになるので、午前中のうちに寝ておくのも悪くないでしょう。
10時過ぎに再び起き上がる。じりじりと気温が上っているのが部屋の中にいてもわかる。昨晩、大家さんから「こういう暑い日は図書館にこもるのがいい」と言われたので、図書館にでも行こうかと考えたのだけど、ブログに迷い猫が来たので(笑)家でごろごろ過ごしてみることにしました。
お昼過ぎ、近所の「MARIA CAFE」でクラブハウスサンドとコーヒーの軽い昼食をとる。ここはビーフシチューがとても美味しいです。店の雰囲気も感じがいいですよ。
それにしてもすごい暑さ。とけそうだ(笑)いったい何日この暑さが続くのだろうかと思う。だってもう8月21日ですよ。暦で言えば秋なのです。ぶらぶらして五ヶ月以上たつんです(笑)

そこで思い出したのが目薬。もう少しでなくなるな。まあ、もう大丈夫だろう。目薬も断薬だ!
なんかスーパーハイテンションな状態で眼科に行ってしまったので先生に合わせる顔がありません。さぞかし怖かっただろうなあ。ごめんなさい。

本格的に暑くなってきたのでエアコンを入れて読書。吉岡実詩集を読む。ちょっと読みたい詩があったのです。こんなの、

「夢の翻訳」<紛失した少年の日の唄>(吉岡実)

金魚が紛失する午後の音譜線を走る
少年は蝋にまみれながらも牧師様の
帽子をこまかくちぎり暖かい卵をさ
かんにぬけ星とぬれた植物の隙間へ
のぼってゆく伯爵夫人の扇をとろう
と手を伸ばしたら山羊の乳液があふ
れだし緑の周囲がまるく縮んだかと
思うとたちまち旅行証明書と平行す
る夏の雲よりもはやく退避駅が映る
女医の水晶の眼鏡へ蛾がおちて間な
くシャボン玉が湧きふりかえる風に
葡萄が灯り首輪のない犬がもうきた

この詩は1941年の「液体」という詩集に収録されている作品です。明らかに北園克衛などのモダニスム詩からの影響を受けていますが、後の吉岡の詩のキーワードになる「卵」や「犬」がすでに出現しています。ですがまあこれは一般に「わからない詩」と言われます。さてさてこれ、どうやって読めばいいかわかりますか?
文字を追っていくだけでもイメージが連鎖的に膨らむのですが、こういう詩には読みの方法があります。ちょっと試してみます。名詞を抜き取るのですね。

金魚、紛失、午後、音譜線、少年、蝋、牧師様、帽子、卵、星、植物、隙間、伯爵夫人、
扇、手、山羊、乳液、緑、周囲、旅行証明書、平行、夏、雲、退避駅、女医、水晶、眼鏡、
蛾、シャボン玉、風、葡萄、首輪、犬

こうして名詞を抽出すると<夏の避暑地にいる多感な少年のイメージ>がより鮮明になりませんか?

<午後、音譜線、少年、牧師様、伯爵夫人、旅行証明書、夏、退避駅、シャボン玉、風>と絞り込んでみるとそれはいっそうはっきりします。これはそうした少年の<紛失した夢の翻訳>なんですね。
まあ、吉岡実が何って言うかわかりませんが(笑)

おもしろいのでこの名詞たちを接合して短歌を書いてみました。

夏の午後の退避駅で待つ少年の紛失した夢の隙間

伯爵夫人の扇から星へ水晶の犬の葡萄色の風

帽子の中の音譜線が牧師様の眼鏡を射る星の植物

午後の金魚がシャボン玉の中を泳ぐ水晶の中の乳液(kitten)

だからなんなんだと言われそうですが、これもまたひとつの読みの方法です。相手に成りきる(笑)

まあ、そんな遊びをして涼しくなってから外出したのですが、ついに来ました減薬のリバウンドが。手足がしびれちゃっています。暑くて眠れそうにないのですが、今晩はこのへんで。

追伸:写真は吉岡実さんです。かっこいいですね。そんなわけでうちのブログ、ぼくを含めて猫が三匹になりました(笑)

For you

夏の娘たちが駆け抜ける亜麻色の髪を季節に残して

文中に登場した素敵な本とCDたち

吉岡実詩集
価格:¥ 1,223(税込)
発売日:1968-09
バッハ/ブランデンブルグ協奏曲<全曲>
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:1997-05-21

2007.08.20

ショートストーリー:黒猫の女王

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彼女は黒く長い髪を腰まで垂らしていて胸元に真っ赤な薔薇の花をつけている。親衛隊と称する黒猫たちは全員揃いのスーツを身につけて、ボルサリーノを被り、ハバナの高級葉巻をポケットに隠し、念入りにピストルを磨く。猫のマークが入ったベレッタM36を。
ちょっとおかしくて笑いそうになってしまうのだが、いくら何でも猫たちに失礼だろう。だいいちどうやって引き金を引くのか?ぼくが煙草をくわえると黒猫がライターを差し出し火をつける。猫にダンヒル。猫にロンソン。猫にカルティエ。これが噂に聞きしカッツェン・パルタイだ。優雅なそぶりで猫の頭を撫でて、黒猫の女王はぼくに言う。
「お酒はいかが?」
「仕事中は飲まない主義なんだ」
「モエ・エ・シャンドンのドン・ペリニョン・レゼルヴ・ド・ラベイがあるんだけど」
「飲む」
「でもお仕事の時は飲まない主義なんでしょう?」
「主義がないのが主義なんだ」
「ユニークな方ね」と黒猫の女王は笑う。それから目をぱちぱちさせるとじっとぼくの顔を見る。そして「頼みというのはカッツェン・パルタイを世界一の親衛隊にすることよ。最高にクールで最強の親衛隊にね!」ぼくは煙草をくゆらすと答える。
「何故、ぼくに頼むんだい?」
「だってあなたはモサドとKGBとCIAとMI5と陸軍中野学校を相手に闘って一回も捕まらず、かすり傷ひとつ負わなかったんでしょう」
「陸軍中野学校とは闘っていないけれどね」
その瞬間、ぼくはもんどりうった。一匹の黒猫がベルトに挟んだナイフを投げつけたのだ。もったいないがぼくはドンペリを猫の顔にぶっかけるとソファの影に身を隠した。今度は食器棚の上にいた黒猫がフリスビーみたいに皿を投げてくる。おい!これはマイセンだぞ!
ガシャン!ガシャン!と音がしてマイセンの皿が粉々になり、ぼくは床のうえを転がりそれを避けて、これももったいないのだがヴェネチアングラスを思い切り壁に投げ、もったいないことにレンブラントの真筆の絵が額ごと猫の頭の上に落ち、猫は食器棚から転げ、ぼくはポケットから銃を出す。
カッツエン・パルタイの連中はかなり訓練されているぞ。奴らはもったいないことに北欧製の高級シャンデリアに捕まると、空挺部隊よろしく、ものすごい速さで床に飛び降りながら拳銃を発射する。
ぼくは狙いを澄ましてシャンデリアの吊り金具を弾く。するともったいないことに北欧製のシャンデリアが床に落ち黒猫もばたばたと床に落ちる。この絨毯はペルシア絨毯だぞ。もったいない。
黒猫の女王はうれしそうに古い蓄音機にレコードを載せる。大音響で「ラ・クンパルシータ」が流れ出し、カルロス・ガルデルが、

もし君が知っていたら/まだ,ぼくの心深く/君のために/愛を秘めていることを/ぼくが君を決して忘れないということを/君の過去に戻りつつ/君がぼくを覚えていると/誰が知っているか

と歌い、その間にも銃声が響き渡り、次々に高級シャンペンの瓶が割れ、黒猫たちがばたばたと倒れる。やがて黒猫の女王は「お見事!!!」と言い、手を叩く。ぼくは立ち上がるとスーツの皺を伸ばし、拳銃を放り投げる。
「最低だよ」
「最低って?」
「最低ってことさ」
黒猫の女王が指を鳴らすと、床に倒れていた黒猫たちが一斉に立ち上がる。黒猫の女王は「最低って?」ともう一度尋ねると、「さっきのシャンペンはもったいないから安い奴なの」と笑い、「さあさあ、皆でドン・ペリニョン・レゼルヴ・ド・ラベイを頂きましょうね」と言う。そんなわけでぼくは黒猫たちのヒーローになってしまったのさ。

追伸:モデルの山口小夜子さん(写真)のご冥福をお祈りします。

For you

陽光が七色に透けて水晶の虹が浮かぶ蜃気楼の日

2007.08.19

ショートストーリー:靴磨きの猫と花売りの女の子のはなし

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街灯の明かりが消えて小鳥が歌をうたいだすと靴磨きの猫は道具を一式抱えてガード下に行きます。小鳥たちが「おはよう!」「おはよう!」と話しかけるので、たぶんきょうはいい天気になりそうです。いつもの場所に陣取ると、猫はちらちらと横を向きます。花売りの女の子はまだ来ていないようです。そうこうしているうちにお得意さんが次々に来ます。いちばん最初に来るのはいつもおしゃれなしまうまのお兄さんです。朝起きると三十分もかけて縞がずれていないか鏡の前で確認するそうです。しまうまのお兄さんはしまうま語新聞の記者で、猫が蹄をぴかぴかに磨くと、うれしそうにこう言います。「腕がいいなあ!蹄に太陽が映っている。マンハッタンの太陽だ!」
よくわからないのですが、昔、マンハッタン支社にいたそうです。マンハッタンって何処なのでしょうか?
それから眼帯をした狼が来ます。見た目はおっかないのですが、悪い方ではありません。カラヤンのおかげで、ベルリンフィルハーモニーの常任指揮者になれなかったそうです。時折、すごい美人の狼のお姉さんを連れてきますが、お姉さんはクルト・ワイルの奥さんと仲がよかったそうです。よくわかりませんが。
詩人のかたつむりさんが来ます。かたつむりさんの場合は殻をきれいに磨いてあげます。かたつむりさんは言います。「割らないように、そっとね」
かたつむりさんの殻の中にはたくさんの詩が詰まっています。それからかたつむりさんは花売りの女の子のところに行きます。靴磨きの猫は花売りの女の子を見るととてもうれしくなり、思わず空に向かって「にゃおーん!!」と叫んでしまいます。かたつむりさんは必ず花を買います。花は存在そのものが詩なんだそうです。よくわかりませんが。
靴磨きの猫はお金を貯めて、いつか花売りの女の子をフルーツパーラーに誘おうと思っています。女の子は猫と目が合うといつもやさしく会釈します。一張羅のスーツをあつらえて、ぴかぴかのブーツを買って、花売りの女の子とデートしたいものです。デートってどういうものだかよくわからないんですけどね。
靴磨きの猫はいつも花売りの女の子のことを気にしています。もし悪い連中がきたら、薔薇の花を胸につけて、盾になって、たとえ銃弾を受けようが、バルコニーから落ちようが、花売りの女の子を守ってあげるつもりでいます。
花売りの女の子が悲しんでいたら、しっぽをくるくるまわして笑わせてあげようと思っていますし、花売りの女の子が困っていたら、猫の手を貸してあげようとも思っています。猫は最近、詩人のかたつむりさんから「愛」という言葉を教わりました。とても大事なものらしいので、仕事が終わるとそれをぴかぴかに磨きます。よくわからないのですけれど心を込めて。

For you

夢際で待つ朝の太陽の輝きをきらきらと零れながら

2007.08.17

ショートストーリー:わたしたちの熊のはなし

Om1980
彼女たちは双子。背丈も顔もそっくりで声も瓜二つ。大好きな熊のぬいぐるみはいつも両手をひっぱられて、眠るときもふたりの間できょろきょろ。熊の名はミーチャ。女の子はミーナにニーナ。なかよしなんだ。
「ミーナ!スープを飲むときはミーチャの手を離しておやり」とおばあちゃん。
すると「あたしはニーナ!」「これニーナ!」「違うもんミーナだもん」「やはりミーナじゃないか?」「いいえあたしはニーナなの」「いいえあたしはミーナよ」「これはミーチャよ」
おばあちゃんは騙されない。ミーチャの右手を握っているのがミーナ。左手を握ってるのがニーナなんだから。
ふたりが寝静まると熊のミーチャは散歩に出る。ふたりを起こさないようにそっとベッドから降りて、ぬきあしさしあしで床の上を歩き、建付けの悪いドアを慎重に開けて、夜の空気をすう。すると前からアイスクリーム売りの猫がやってくる。ミーチャはつめたいアイスクリームを買うと夜空に手を伸ばして大熊座のスプーンを拝借する。星のスプーンで食べるアイスクリームは冷たくて美味しい。きーんとしちゃう。
広場に出るとサングラスを掛けたモグラがアセチレン灯をつけて、水鉄砲を売っている。はて、先週はヨーヨーだった、先々週は金魚すくいだった。地に足がつかない奴だ。トンネルの中で暮らしてるっていうのに。
しまうまが「ゴーカートツイスト」を踊り、ネズミたちが「とゅな~いと♪」と歌いながら「ウエストサイドストーリー」を演じ、キリンのバレリーナが瀕死の白鳥を演じている。
すると噴水の中からミーチャを呼ぶ声がする。なんてこったミーナにニーナだぞ!
ふたりは噴水に膝までつかり、傘をさしてくるくる回している。B.J.トーマスの「雨に濡れても」なんかハミングしながら。
ミーナが言う。「あたしはサンダンス・キッドよ!」
ニーナが言う。「あたしはブッチ・キャシディよ」
ふたりは声をそろえて言う。「ミーチャはピンカートン探偵社!!」
真夜中の噴水で撃ち合いがはじまる。撃ち合いといってもお互い手にしているのは、モグラから買った水鉄砲なんだけれどね。
ふたりは言う。「俺たち壁の穴強盗団をなめるなよ!」
ミーチャは思う。この子たちはどこでこんな台詞を覚えたんだろう?
やがて遊びつかれたふたりを担いでミーチャはそろそろと家に戻り、ミーナとニーナをベッドに寝かせてタオルケットを掛けて、いつものようにぬいぐるみのミーチャに戻る。

翌朝、目を覚ましたミーナとニーナはおばあちゃんに言う。「夢の中でね!ミーチャと遊んだのよ!!」おばあちゃんはにっこりと笑うと言う。「おやおや、ふたりは夢まで同じなのかい?」ぬいぐるみのミーチャは動かない。それから女の子たちはミーチャの手を持ってキッチンに駆け込む。

For you

透明な季節を過ぎて瞳から落ちるのは夢の瞬き

2007.08.16

ラスコーリニコフはコートを着ていた日記

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本日は晴れ。7時起床。暑い。いやここ数日の暑さは尋常ではない。最高気温は軽く30℃を超えて、34~35℃などという日が続いている。これだけ暑い日が続く夏はちょっと過去に記憶がありません。どうなっているのでしょうか?
朝食はパンとコーヒーと冷やしトマト。朝から気温がぐんぐんと上昇しているのがわかる感じで、ラジオを聞くと、8時の時点で、横浜の気温は30℃とのこと。こうなるとちょっと出歩く気力が湧きません。そんなわけで朝からクーラーを入れ、冷たい麦茶をちびちびと飲みながらマットレスに寄りかかり読書。イタロ・カルヴィーノの短編集「魔法の庭」を読んだのですが、そのうちなんとなくうとうとしてしまう。暑さのせいで、やや睡眠不足なのかもしれません。
11時過ぎ、思い切って外に出る。刺すような暑さとはこのことだという感じで、あわてて部屋に戻り、ハンチング帽を被りあたまを防護して駅前まで行くも、15分ぐらい歩いただけで汗だくになる。それでもお腹が空き(笑)、鎌倉駅西口のレストラン「KuRa」に入りランチを食べる。メニューは豚フィレ肉のピカタのマデラソース和え、サラダ、スープ、食後にはコーヒー。
ピカタというのは肉の表面にパン粉や香草、卵黄をまぶしたもので、マデラソースというのはポルトガルのマデラワインを使用した甘口のソースです。味としてはややさっぱりめ、暑いので身体が塩分を欲していたからそう感じたのかもしれません。
食事を終えて店の外に出るとますます暑くなり取りあえず帰宅。温度計をみたら36℃ありました。どうなってんだか。
暑気払いにとルイス・ボンファ&マリア・トレードの「Buraziliana」をリピートで掛けながら、ごろごろする。何もする気が起きません。働いている人ごめんなさい(笑)
ごろごろし続け、3時過ぎに気象情報を見たところ、岐阜県の多治見、埼玉県の熊谷で国内最高気温の40.9℃を記録したとのこと。その昔、ドバイの空港に降りて気温40℃というのは体験したことがあるのですが、湿度が違うから体感温度はもっと高いのではないかと思います。
そこで小説「異邦人」の舞台になったアルジェリアの首都アルジェの気温を調べると27℃。涼しいじゃないか。
じゃあ小説「ハイファに戻って」のイスラエルのハイファはというと30℃。ついでにドバイを調べるとさすがに43℃ありますが、湿度は39%です。
アルベール・カミュの小説「異邦人」の主人公、ムルソーは「太陽が眩しいから」という理由でアラビア人を射殺するのですが、湿度が60%前後あり、気温が36℃を超える横浜なら何をやっても許されるかな?そんなわけないね(笑)いずれにしても不条理殺人と猛暑は似合うような気がします。
ここでふとドストエフスキーの「罪と罰」が気になり本棚から引っ張りだしてみました。冒頭はこんな感じです。

七月はじめの酷暑のころのある夕暮れ近く、一人の青年が、小部屋を借りているS横町のある建物の門をふらりと出て、思いまようらしく、のろのろとK橋のほうへ歩きだした。
(「罪と罰」ドストエフスキー:工藤精一朗訳)

舞台はロシアのペテルブルグ。かってのレニングラード、現在のサンクト・ペテルブルグです。
主人公のラスコーリニコフは金貸しの老婆の頭を斧で叩き割って殺すのですが、無論、斧を片手にぶらぶら歩いていたわけではなく、いざ殺人を実行しようとする時に夏外套(夏用のコート)の裏に斧をくくりつけて行きます。ずっと読み落としていたのですが、酷暑の只中に夏用とはいえコートを着ているってやはり危ない人ですよね。
皆さん、夏の盛りにコートを着ている人を見たら気をつけましょう。斧を隠しているかもしれません(笑)いや、何も着てなかったりして(笑)
そこでサンクト・ペテルブルグの今日の天気を調べてみました。晴れです。最高気温は30℃。コートを着るには不自然ですが、最低気温が19℃なんですね。そしてこれも読み落としていたのですが、犯行時刻は夜の8時頃なんです。ですが緯度が高いので外は明るかったと思います。ちょっと微妙なところです。
とにかくラスコーリニコフは夏の盛りにコートを着ていた。ゆえに彼は不条理な殺人者ではなく、あくまでも確信犯なのです。

強迫する陽光のシンバルが殺人者のコートを血まみれにする(kitten)

画像は1969年ソビエト製作の「罪と罰」のラスコーリニコフです。

Вторая встреча Раскольникова со следователем

For you

涙色をした星のしずくが光るそれはきっと夜の落し物


文中に登場した素敵な本とCDたち

魔法の庭 (ちくま文庫 か 25-3)魔法の庭 (ちくま文庫 か 25-3)
価格:¥ 756(税込)
発売日:2007-08
罪と罰 (上巻) (新潮文庫)罪と罰 (上巻) (新潮文庫)
価格:¥ 660(税込)
発売日:1987-06
罪と罰 (下巻)罪と罰 (下巻)
価格:¥ 700(税込)
発売日:1987-06

異邦人異邦人
価格:¥ 420(税込)
発売日:1954-09
太陽の男たち・ハイファに戻って (現代アラブ小説全集)
価格:¥ 2,325(税込)
発売日:1988-12
ブラジリアーナブラジリアーナ
価格:¥ 1,800(税込)
発売日:2007-04-25

2007.08.15

ショートストーリー:アリスのお茶会

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僕は目を覚ますと置き上がり伸びをしたのだけれど、その時、枕元から何かがカサリと音をたてて落ちた。拾ってみるとそれは封書で、開けてみると、お茶会の招待状だった。
差出人は八月のアリス。
猫が迎えに行くので支度を済ませて置いてください、と書かれていて、ふむふむと思ったら、早速、呼び鈴が鳴り、玄関のドアを開けると、スーツに身を固め、ブーツを履いた銀杏色の瞳をした猫が立っていた。
だから、お迎えですか?と尋ねると、お迎えですと、猫は言い、スーツのポケットから鋏を取り出して八月の青空をじょきじょきと切って、まあるい穴を開け、はい、こちらですよ、と言い、穴の中に飛び込んだ。
乱暴だなあ、と思いつつ、中に入ると、赤い絨毯が長々と敷かれていて、猫の後姿を見ながらそろそろと歩いていったのだが、後ろを見るとチョッキを着たウサギがいて、さらに後ろには紙の兵隊が行列を作っていた。
やがて大きな広間にたどり着くと長方形の巨大なテーブルがあって、そこにはじつにたくさんのティーカップが並べられていたのだが、出迎えにきたのは眼帯をした狼で、八月のアリスさまはいまお召し変えの最中です、どうぞ、お掛け下さい、と慇懃な調子で言った。
そこで座り心地のいい椅子に腰を掛けたのだが、なにやら隅の方で、狼と猫が揉めている。耳を澄ますと、誰が紙の兵隊なんて招待しやがったんだ!!と言い合いなんかしている。
隣に座っていたチョッキを着たウサギが耳打ちをした。紙の兵隊たちは普段はおもちゃの棚で大人しくしているんですけどね、八月になるとやたら出歩くようになるんですよ。
やがて小鳥たちが到着し、それから熊も姿をあらわした。
紙の兵隊たちはざくざくと行進すると広間に入り,捧げ筒の格好をするととつぜん歌をうたいだした。

我らが紙の兵隊は!命を捨てて国の為!主の為にいざ尽くさん!しかれど我らその前に!
戦争反対なぜならば!紙に書かれた言葉ゆえ!ペンは剣より強しもの!ゆえにわれらは紙ならん!

ウサギが言った。一年中、毎日欠かさずやればいいのに、八月だけしかやらんのですよ。あんたら人間のせいじゃないの?
まあ、人間のせいだね、とぼくは答えた。こういう連中は人間の世界にうようよいますよ。八月だけの奴らね。
するとウサギは笑って答えた。こう言うとあなたに失礼ですが、どうにも人間さまのやることはよくわかりません。
ぼくは言った。ぼくもさっぱりだよ。
やがて八月のアリスが眼帯をした狼にエスコートされて広間に姿をあらわした。とてもチャーミングな女の子だった。
八月のアリスは言った。ご招待した皆様、きょうは存分にお楽しみ下さい、最高のお菓子とお茶をご用意しました!
猫の給仕がティーポットから温かい紅茶を注ぎ、色とりどりのドルチェのお皿がみるみるうちにテーブルに行き渡った。
やがて小鳥たちが歌をうたい、梟がホーホーとリズムを取り、リスがカリカリと合いの手を入れて、広間はとてもにぎやかになった。
ぼくは八月のアリスに尋ねた。
どうしてぼくを招待されたんですか?
どうしてかしらね? 八月のアリスは謎めいた微笑みを浮かべた。するとまた紙の兵隊たちが騒ぎはじめた。なにやら八月を巡って内輪もめをしているらしい。
眼帯をした狼が舌打ちをして、スーツを着た猫が顔を曇らせた。
あなたならどうなさる?八月のアリスがぼくに尋ねた。だからぼくは答えた。
紙の兵隊を燃やしてはいけません。紙の兵隊を破いてもいけません。もっとも芸術的な方法は・・・。
何かしら?と八月のアリスは言った。
ぼくは立ち上がるとサラダボウルに水を入れて、それを紙の兵隊たちにぶっかけた。すると紙の兵隊はぐにゃぐにゃになって皆、倒れてしまった。
ぼくは八月のアリスに言った。乾けば元に戻ります。さてお茶を楽しみますか!
八月のアリスは言った。あなたを呼んで正解でしたわ!そうじゃなければ広間が火事になるか紙くずだらけになっていたわ!!

再び小鳥たちが歌をうたい、梟がリズムを取り、皆は美味しいドルチェとお茶を楽しみ始めた。
ぼくと八月のアリスと眼帯をした狼とスーツを着た猫は、紙の兵隊をひとりひとり拾い上げるときれいに乾くようにテーブルに並べた。
ぼくは八月のアリスに言った。アリスさん。これからは毎月、紙の兵隊たちを招待して下さいね。八月だけじゃなく。
狼と猫は顔を見合わせたが、八月のアリスはにっこりと笑うと、こう言った。
そうしますわ。ぜひ、そうしますとも!

低い声で語れBy kitten

For you

夢使いの女の子のてのひらの虹をばら撒けば八月の朝

2007.08.14

ショートストーリー:夜の台所のお姫さまのはなし

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何だか暑くってちっとも眠れやしないので、フライパンの上のポアレみたいに寝返りばかりうっている。とけいのはりの音がちくたくちくたくいっていて、地球は回っているのだけど、ちょっとずれているのは、この暑さのせいでやさぐれているからかもしれない。
喉が渇いたな。つめたい水が飲みたいな。起き上がるのが面倒くさいな。でも喉がかわいたな。ビールはあったかなあ?いやいや氷とジンはあったかなあ?
そろそろと起き上がりはだしのままキッチンに行くと誰かいる。裾の長い白いワンピースを着た女の子がマイロマンスのメロディーを口ずさみながらコーヒーを入れている。ここはぼくの家だぞ。おまけにぼくんちの猫を膝に載せている。どこの女の子だ?
キッチンはコーヒーの香りいっぱいで、ぼくは女の子に尋ねる。
「きみは誰?」
「あたし?」
「うん、あなた」
「あたしはカリタ姫よ。妹のメリタ姫はミルクを買いに行ってるわ。いいこと?コーヒー豆は絶対に切らさないでね」
ずいぶんいばってるなあ。ここはぼくんちなのに。その猫だってぼくんちのだぞ。
それにしてもコーヒーの香りいっぱいだ。ぼくがいれてもしょぼいのしか出来ないのにカリタ姫がいれるコーヒーはすばらしく濃厚な色合いで、香りもすばらしい。
ぼく「コーヒーを一杯下さいな。豆は切らさないからさ」
カリタ姫「眠れなくなっても知らないわよ」
ぼく「どうせ暑くて眠れないんだ」
すると暗がりの中から紙袋を胸に抱えた女の子がもうひとり現れる。あららカリタ姫にそっくりだぞ。
「お姉さま。この方は?」
「ああ、メリタ帰って来たのね。ミルクを切らしたここのご主人よ」
「はじめまして!」
どうにも妹の方が性格がいいらしい。ぼくは言う。「コーヒーを飲みましょうよ」ふたりは口を揃えて言う。「眠れなくなるわよ!!」
「だって君たちだって同じじゃないか」
ふたりは顔を見合わせる。鏡みたいだ。そしてふたりして言う。
「あたしたちは一晩中起きていなければいけないのよ。」
「どうして?」
「どうしてって夜中のキッチンを守るのがあたしたちの仕事だもの」
カリタ姫とメリタ姫は手際よくミルクを温めるとグラスにそそぎ、ラム酒をちょびっと入れるとぼくに差し出して言う。「これを飲んでおやすみなさい」
ぼくはグラスのホットラムミルクを飲む。すると急に眠くなって、眠くなって、ぼくは眠くなって、眠くなって・・・眠くなって・・・。

猫がずどんと胸の上に飛び乗ってぼくは目を覚ます。あわてて台所に行くともうふたりの姿はなくて、窓から朝日が差し込んでいる。夢だったのかな?カリタ姫にメリタ姫。
ぼくんちの猫がテーブルに飛び乗ってふにゃーと鳴くので、振り向くと、そこにはいれたての美味しそうなコーヒーが置いてある。ぼくは夜中の台所のお姫さまに感謝すると眠気覚ましのコーヒーを飲むことにした。

For you

街路樹の葉を透かして音がする陶然とする夏の傾き

2007.08.13

ショートストーリー:猫がたくさん降ってくる

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彼女は朝おきて鏡を見ると「うわっ!!」と叫んだ。すでに起きていて、コーヒーを飲みながら煙草をくゆらしていたぼくは「どしたのさ?」と尋ねると、「ひどいことになってる」と言い、見ると、左目が真っ赤に充血しているのだった。
こういうときには、すぐめぐすり。ホウ酸あらいはすすぎがやっかいなので、めぐすり。
なんて誰かさんの詩を諳んじると、眼医者に行ってくるわ!と言い、足早に家を出て行ったのだが、なかなか戻って来なくて、お昼近くになって薬の袋をたんまりと抱え、おまけに左目を女海賊よろしく眼帯で覆って帰って来たのだった。
「どうだった?」
「どうもこうもないわ」
はなしによればエディ・コンスタンチーヌによく似た眼科医は「こりゃ、ひどい!!いったいあなたは何をしたんですか?角膜に傷が入ってますよ。」と叫び、「ほんとうに何をしたのですか?」と尋ねたそうだ。
思い当たるふしと言えば昨日の夢の中でたくさんの猫が降ってきたこと。それを医者に言うとエディ・コンスタンチーヌ野郎はげらげら笑い「あんたも冗談が好きですね」と言ったそうだ。冗談じゃないわよ。
ふむふむとぼくは思う。彼女はいつもベッドで眠る。ぼくはベッドの下の床の寝袋で眠る。寝袋の横で猫が眠る。猫の横で5匹の子猫がねむる。猫なんて降ってなかったし、合わせて6匹の猫はいまは窓際で一斉にまるくなっている。
猫、猫、猫、猫、猫、猫!!!!!!
たくさんの猫が降ってくる。もしかするとぼくが彼女に内緒で夜中に飲んだラム酒を失敬した猫たちが酔っ払ってダンスを踊ったのかもしれない。でも、ぼくは黙っている。
そして言う。
「昨晩の流星群だよ。あれが原因さ!」
「流星群?」
「ペルセウス座流星群さ」
「何の関係があるの?」
「うん、あれは猫の瞳さ!空から猫がたくさん降ってきたのさ」
彼女はくすくすと笑うと、今度、眼医者に行くときは付き添ってよね!と言った。

For you

街は静かに噴水を聴いている午睡のとき夢の時間のなか

2007.08.12

ショートストーリー:真夜中のフレール・ジャック

Nara_193
彼女は夜中の台所をはだしで歩いていて、手にはラム酒の入ったミルクのグラスを持っている。電気はついていなくて、テーブルの上のノートパソコンだけがほのかな青白い光を放っている。髪に手をやり、それからグラスにすこし口をつけて、パソコンのデジタル時計を見つめる。2時59分。もうすぐだな。ハンドルネーム、Frere Jacques氏。
グラスをテーブルの上に置いて、マウスを手にして、闇の中で世界へ向かってアクセスする。Frere Jacques氏のブログは毎晩、午前3時ちょうどに更新される。暗闇の中で、静かに、無言のまま、文字を見つめる。

「夜のパリ」

三本のマッチ 一本一本点ける 夜のなか
 一本目は きみの顔全体を見るため
  二本目は きみの眼を見るため
 最後の一本は きみの口を見るため
そして真っ暗闇は それをみんな思い返すため
   きみを腕に抱き締めながら。

ぼくはパソコンを閉じる。午前3時の仕事は終わったから。世界中が眠っているぞ。Frere Jacquesの時間はお終いだな。
夜の彼方で、一本の電話線の向こうで、女の子がグラスを片手にそれを読んでいることなんてぼくは知らない。彼女はパソコンに向かって呟く。おやすみなさいジャック兄さん。
ぼくはもう夢の中なのさ。

追伸:文中の詩「夜のパリ」はジャック・プレヴェールの作品です。

追伸の追伸:ブログに猫温度計をつけました。遊んでってください(笑)

For you

季節の窓を開けて小鳥たちが空をいく天国が降ってくる日

2007.08.11

彼のコードネームは“抒情詩”だった日記

Young_kunze
本日は晴れ。7時起床。暑い。今日もベッドの中で「バロックの森」を聴いていました。朝食はパンとコーヒーとハム。ラジオのニュースによれば最高気温が34℃になるとかいっていました。たまらないなあ。
朝食後、調べ物をするが成果が挙がらず。しかしながら外に出るのもためらわれたので、掃除をする。ぽたぽたと汗が出てくる。汗を拭いもう一度、調べ物をするも資料が見つからないので図書館に行くことにして11時過ぎに外出。う~ん、すごい暑さだ。
取りあえず何か食べなければと思い街をふらふら歩き、小町通りから少しばかり横に入ったレストラン「まちぇぇる」に入りパスタセットを食べる。
メニューはボロニア風スパゲッティに季節のサラダにアイスコーヒー。
非常に家庭的なお店で、味のほうもお高いイタリアンというよりも家庭的な味です。店のおばさんに話を聞いたところドレッシングからなにからすべて手造りとのこと。
おばさんの笑顔も素敵でした。雰囲気がいい店というのはいいですね。とても美味しかったです。
その後、炎天下の中を歩き扇ヶ谷の古書店「四季書林」に寄る。ご主人から今日はあまり出歩かない方がいいと言われました。それでも図書館に行き、調べ物をして、御成通りの「Ost」に寄り、アレン・ギンズバーグの詩集「白いかたびら」を購入し、やはりこの暑さの中、歩き回るのは身体によくないと思い15時前に帰宅しました。
それで冷たい紅茶を飲み、「QUARTETO EM CY」の「ヴィニシウス エン シー」を聴きながら調べ物を整理。いったい朝から何を調べていたのかと言えば、詩人のライナー・クンツェ(写真)についてです。

ライナー・クンツェは1933年生まれの東ドイツの詩人なのですが、1962年に詩人としてデビューしてからずっと東ドイツの国家保安省(シュタージ)に監視されていました。作品の発表と刊行はつねに妨害を受け、やがてクンツェは、1976年に東ドイツの若者の不毛な青春を描いた作品を西ドイツで発表し作家同盟を除名されます。そして彼は翌年に西ドイツへの移住を余儀なくされました。
時代が変わり、1990年に東西ドイツが統合するのですが、その後、これまで明かされていなかった東ドイツ国家保安省(シュタージ)の監視活動の内容が続々と明るみにされます。シュタージには、400万人分もの東ドイツ国民に関する秘密調査ファイルが保管されていて、その中にはクンツェに関するファイルもありました。クンツェのコードネームは「抒情詩('Lyrik)」で、そのファイルは、全12巻、3491ページにもおよぶ膨大なものだったそうです。映画のような話ですが実話です。
それでこのエピソードは少しばかり知ってはいたのですが、クンツェの詩がどんなものか読んだことが無かったので調べていたわけです。閑人は好奇心が旺盛なのです(笑)
クンツェの詩を紹介しますね。

「告示」(ライナー・クンツェ)

1.
第七学年の男子生徒Dは
過失により眼鏡と濃い頭髪とを持って
レーニンの肖像に

公然と

余りにも
危険な方面に接近し
かくして労働者階級の敵、帝国主義者の
手先となり果てる ところであった。それも
校庭の真ん中で

訓戒処分は調査票に書き込まれ
こののち取り消されることはないであろう
この生徒の生きている限り

2.
何故
生きている限りなのかって

レーニンはもう助けてくれないからねえ

「現在」(ライナー・クンツェ)

錠を差し鍵を掛けて何を隠しているのかって?

陰謀の計画なんかじゃないし、残念ながら
ポルノグラフィーでもない

昔のことなんだよ

そいつを知ろうとすると、時に
未来を無くしてしまいかねないのでね

これがコードネーム「抒情詩('Lyrik)」の詩です。さようならレーニン!!

Vladimir Lenin

For you

僕のまばたきのくせを笑う目薬少女は夏とともに消える

文中に登場した素敵な本とCDとライナー・クンツェの本たち

暗号名「抒情詩」―東ドイツ国家保安機関秘密工作ファイル
価格:¥ 1,835(税込)
発売日:1992-05
素晴らしい歳月
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:1982-01
ライナー・クンツェ 人と作品
価格:¥ 2,243(税込)
発売日:1989-11
あるようなないような話
価格:¥ 1,155(税込)
発売日:1975-07
白いかたびら―アレン・ギンズバーグ詩集
価格:¥ 2,447(税込)
発売日:1991-11
ヴィニシウス・エン・シー
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2001-06-30

2007.08.10

夏の日にバルバラを聴いた日記

Medium_280853_2
本日は晴れ。7時起床。暑い。ラジオでは最高気温が34℃になると言っていますが、ここのところこんな日が毎日続いています。朝食はパンとコーヒーとつめたいトマト。冷やしたトマトがとても美味しいですね。何か身体がきれいになるような気がします。
部屋の掃除をして、10時半過ぎに外出。外は尋常じゃない暑さです。それでも駅前まで出たのですが、ちょっと歩いただけで汗がだくだく出てくるので、本屋に逃げ込みました。迷惑な客なので汗が引くまで、立ち読み。11時半頃に本屋を出て、御成道りのカフェ&バー「UNIVIBE」で昼食。キーマカレーを食べました。店の女の子話によれば11種類のスパイスが入っているそうですが、ローリエの香りが効いていて、なかなか美味しかったです。あたまのてっぺんからいっきに汗が吹き出しましたが(笑)
昼食後、外に出るも外は陽炎が立つくらいの暑さで歩いているうちに頭がくらくらして、こめかみがずきんずきんしてきたので、コンビニやCD屋や本屋で涼みながらいったん帰宅してクーラーを入れて部屋を冷たくしてシャワーを浴びました。ああ、ビールが飲みたい(笑)
暑気払いに涼しげな音楽(ボサ・ノヴァとかハワイアン)でも聴こうと思ったのですが、なんとなくバルバラ(写真)のCDを手に取ってしまいました。
バルバラという人はフランスの歌手でもう亡くなっているのですが、神秘的な魅力を持った歌手としてフランスではいまでも高く評価されています。ショートカットにした髪に黒い衣装、ユダヤ系だったのでナチスに迫害されて不幸な少女時代を送ったという過去があります。そしてその歌詞にも少なからずそうした体験が影響しているようです。
まったく不親切なことに歌詞に対訳がついていないうえに、ネットで探しても翻訳が見つかりません。ビールの変わりに麦茶を飲みながらちょっと翻訳してみました。

「ナントに雨が降る」

ナントに雨が降る わたしを放って欲しい
ナントの空はわたしの心を悲しくさせる
ちょうど一年前の朝
ナントの街はどんよりとしていて、わたしが駅から出た時
今まで来たことのなかった街は わたしには見知らぬ街
報せが来なければ 旅行などしなかったでしょう
"マダム、グランジュ・オー・ルー通り25番地へ お越し下さい
急いで。希望などありません。彼は最期にあなたに会いたいといいました”

ここまで翻訳したのですが、合っているかどうか自信ありません。あとの部分を拾って読むと、父親の危篤の報せを聞いてナント(フランスの都市の名前)に駆けつけるのですが、間に合わなかったという歌です。

別れの言葉も"愛しているよ"もいわないで
海に続く道にある 石の庭に横たわって 安らかに眠ることを祈ります 
わたしは彼を薔薇の花の下に横たえました。お父さん、わたしのお父さん

というフレーズも出てきます。それをかなり力の漲った声で歌います。シャンソンというとなんとなく柔かなイメージがあるのですが、バルバラの場合はちょっと雰囲気が違います。どこか命を振り絞って歌っているという感じがするのです。そうですねえ。日本人で言えば、中島みゆきみたいな感じでしょうか?
映像を貼っておきますので確かめてみて下さい。

ところでぼくは以前、ナントに行ったことがあります。フランスの西部にある古い街です。石造りの家が連なっていてこじんまりとした印象の街でした。バルバラの伝記は日本にはないので、この歌詞が事実かどうか確認する術はないのですが、夜のナントの石畳の上をあてどなく歩き回ったことを思い出しました。
父親の危篤の報を受け取ったわたしは恐らくぼくが歩いた駅から街の中心部へ向かう道を駆けていったのでしょうね。降りしきる雨の中を。

Barbara - Ma Plus Belle Histoire d'Amour

やはり中島みゆきを連想してしまうなあ。

For you

耳を澄ませば太陽の欠片が降りそそぐ水の中のナイフに

文中に登場したバルバラのCD

黒いワシ~ベスト・オブ・バルバラ黒いワシ~ベスト・オブ・バルバラ
価格:¥ 1,835(税込)
発売日:2000-07-26

2007.08.09

夏の午後に「花嫁」を読み比べる日記

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本日は晴れ。7時起床。異様に暑いので手元の温度計をみたところ室温が28℃もありました。そのわりにはよく眠れたようです。夏の朝ということでナラ・レオンの「des anos depois」を掛けながら朝食。朝っぱらからスライ&ファミリーストーンズの「暴動」とか聴く気はおきないですね。年のせいかな(笑)
クロワッサンとコーヒーとチーズにヨーグルトと食べる。それからパソコンを開いてメールを確かめた後、フォトアルバムを作るために写真を収集しました。まだ完全に出来ていないのですが、「GIRLS!GIRLS!」という女の子の写真を集めたものと「文学者の肖像」という作家や詩人の写真を集めたものと「JAZZMAN&SINGER;」というアルバムを作りました。ほとんどオタクですね(笑)よかったら見ていって下さい。

11時過ぎに外出。藤沢に行く。駅ビルの「高田屋」で、海鮮丼とせいろそばの定食を食べる。高田屋って結構あちこちにある蕎麦屋みたいですが、卸金と生わさびがつくところにこだわりを感じます。ねりわさびと違って本わさびって香りが甘い感じなんですよね。
蕎麦を食べ終えて藤沢の街に出るも、ものすごく暑い。歩いているうちに頭がくらくらしてきたので「タハラレコード」に入る。すると9月いっぱいで店じまいをするとのことでクリアランスセールをしている。店のお兄さんと雑談したところCD業界はかなり危機に瀕しているそうです。ふたりして「う~ん、確かにAmazonとかって便利だけど、店の棚を見るよろこびってあるよねえ~」と唸ってしまいました。
その後、外にでるも頭がちりちりする位暑いので、喫茶店に逃げ込み、読書。アイスコーヒーを飲みながら、リュックに放り込んでおいた「福間健二詩集」を読みました。
福間健二さんの詩って軽いのか重いのかわからない変な魅力があります。
たとえば、

『八十年代の花嫁』(福間健二)

ショートカットで夏に入り
そのまま
自転車に乗って
花嫁になったきみは
もう本を読まない
知りたいことがあれば
出かけていって
人の目を見て帰ってくる

だれを落胆させているのだろう
泣きべそをかいて
屋根にのぼった
少女時代の話をするとき
きみの「わたし」は
癒された傷口に
「女である」という宣告を
受け入れた
明るい主語になる

(後略)

この詩、すごく好きなんですが、重い言葉はひとつもないし、難解な言葉もないです。でも、とくに「明るい主語になる」という部分にすごく引っかかりがあるんですね。それから重要なのは「女である」だと思います。ここを「男である」にすると、とてもつまらなくなります。
ぼくは男なんで、「女である」という宣告ってピンと来ないのですが、「少女時代の話をするとき」というフレーズとタイトルの「八十年代の花嫁」を合わせて考えると、花嫁になった「きみ」は「女である」という宣告を受け入れたという意味になるのでしょうね。語感はとてもソフトなんですが、いろいろと考えてしまう詩です。
気になったので帰宅後、「平出隆詩集」を開いて『花嫁』という詩を読んでみたのですが、あきらかに視線というか立ち位置が違います。平出隆さんの「花嫁」はこんなの、

『花嫁』Ⅰ(平出隆)

ぼくの花嫁は花嫁衣裳
あるいは
荒縄で編まれた袋のなかで
日付のない夜の唄を槌うつ
具体的にはくしゃみをする

ぼくの花嫁は花束を持たぬ
愛すれば暴発する拳銃をむしろ握る
墓石のあける朝
あした襲撃する花曇りの青の宇宙を
ぼくの花嫁は背泳ぎする

(後略)

平出隆さんのこの詩も好きなんですが、この二つを比べるとわかるのは平出さんの「ぼく」は独身者で、福間さんの詩で「きみ」に呼びかけている話者はそうではないということです。
平出さんの詩の「花嫁」は独身者である「ぼく」が夢想する「花嫁」で、福間さんの「花嫁」は共に生活をする「きみ」であるということです。
それで恐らく現代詩の流れから考えると平出さんの「花嫁」の方が主流なのではないかと思います。
だから福間さんは「花嫁」の前に「八十年代の」をつけたのではないでしょうか?

女性の皆さん、あなたは、どちらの「花嫁」になりたいですか?

追記:日本の現代詩(戦後詩)は基本的に男性中心の思考原理で成立してきたように感じます。そうした構図が崩れてきたのが80年代だと思います。女性詩というものがそれまでの男性中心の思考で発展してきた現代詩に新たな地平を拓いたわけです。そうしたことをふまえてこの二つの詩を読み比べると一層、興味深く感じられます。

For you

夏の娘たちが麦わら帽を手に瞬きするみづいろの夢

文中に登場した素敵な本とCDたち

福間健二詩集
価格:¥ 1,223(税込)
発売日:1999-04
平出隆詩集
価格:¥ 1,223(税込)
発売日:1990-05
美しきボサ・ノヴァのミューズ美しきボサ・ノヴァのミューズ
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2006-05-17
暴動(紙ジャケット仕様)暴動(紙ジャケット仕様)
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2007-05-02

2007.08.08

文学と政治の関わりについて考えてみた日記

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本日は晴れ。7時起床。相変わらず暑い。昨晩、遅くまで考えごとをしていたのでやや寝不足気味です。それでもなんとかパンとコーヒーとヨーグルトという朝食を摂りました。ただ、薬を服用したら眠気に拍車がかかり、二度寝をしました。夜更かしはいかんなあ。
9時過ぎに起き上がり、冷たい水で顔を洗いソニー・ロリンズの「THERE WILL NEBER BE ANOTHR YOU」を大音響で掛けながら洗濯をする。洗濯はいい。世界中のあらゆるものを洗濯したい。アメリカの大統領の頭の中もボリビアの子供たちの汚れた靴も黒人の横顔みたいに悲しげなアフリカ大陸も洗濯したい。ついでに自分の頭も洗濯したい(笑)
11時過ぎ、洗濯のおかげですっかり元気を取り戻し(笑)外出。外は燃えるような暑さです。ぶらぶらと街中を散策して、12時半過ぎにイタリア家庭料理の店「L’ENTRATA」で昼食。まずは前菜5種(冷やしたナス、オムレツ、トマトとモッアレラチーズ、鳥肉のペーストにサラダ)。メインは赤イカとパプリカの生姜風味パスタ。
この店はわりとあっさりとした味付けです。ちょっと物足りない感じだったので、デザートにシェフ特製のかぼちゃのプリンの生クリーム添えを頼んだらこれが大正解。最近、食べたプリンの中では一番美味しかったです。最後にエスプレッソを頂きました。
その後、本屋へ行きミチコベイベーと雑談してから、御成通りの「Ost」へ行き、店長さんと雑談。なんか雑談ばかりしている今日この頃です。それから由比ガ浜通りの古書店「公文堂」に行き、ここでも雑談しましたが(笑)講談社文庫の「マザーグース」(谷川俊太郎訳)全4巻を購入しました。揃いで600円です。どうでもいいのですが、ぼくは鎌倉駅近辺の古本屋さんとはほとんど知り合いになりました。

あまりの暑さに耐えかねて3時過ぎにいったん帰宅。クーラーを入れて、ゴダールの「中国女」のDVDを鑑賞していたら、昨晩の考えごとがまた再び頭の中を過ぎりました。
いったい何を考えていたかというと、知り合いの短歌の人が、イラク戦争の真っ只中に「こんな時に短歌なんて書いていていいのだろうか?」と言っていたことです。
ぼくがなんとなく観ていた「中国女」という映画は1968年のパリ五月革命の前夜にマオイストの青年たちが共同生活をおこなうという映画で、内容はあからさまに帝国主義批判を含んでいます。
そんなわけで、「政治と文学」とか「戦争と文学」などという昨晩考えていたことを思い出してしまったわけです。
ぼくはその「こんな時に短歌なんて書いていていいのだろうか?」と言った人に「どうでもいいじゃん」と答えているのですが(笑)相手の方は「どうでもよくない!!」と言い、ちょっとした激しい言葉のやりとりがあったのです。
その方は短歌を通じて何か政治的メッセージなり、なんなりを発信しようと考えていたようなのですが、ぼくは「湾岸戦争」の時に日本の小説家、批評家が出した「湾岸戦争に反対する署名」が何の効力も持たなかったと反論しました。ちなみに湾岸戦争の時に歌人の加藤治郎さんはこんな作品を書いています。

にぎやかに釜飯の鳥ゑゑゑゑゑゑゑゑゑひどい戦争だった(加藤治郎)

これは油まみれになった鳥のことを指していて、「ゑ」は鳥の形を連想させます。
また歌人の大辻隆弘さんは同時多発テロの後に、

紐育空爆之図の壮快よ、われらかく長くながく待ちゐき(大辻隆弘)

という作品を発表しています。この歌に関してはあれこれの批判(反日左翼だとか、教員である大辻さんが日教組だとかいう)を目にしたことがあるのですが、大辻さんの歌でビルが倒壊するわけでもないし、テロリストが目覚めるわけもないし、たとえ大辻さんが仮に指摘されているように反日左翼日教組だとしても、この歌で、共産主義が蘇るわけも日本政府が転覆することもないでしょう。それに加藤さんの歌で中東に平和が訪れることもないでしょうし、戦争による環境破壊が無くなることもないでしょう。なぜなら、

これは書かれたものだからです。

同じようにぼくがゴダールの「中国女」を観て、真似をして人民服を着たり、アンヌ・ヴィアゼムスキー(写真)のような女の子とつきあってみたいと思うことはあるかもしれませんが(笑)ぼくが毛沢東主義者になるということはありえません。
ぼくに「こんな時に短歌なんて書いていていいのだろうか?」と言った人は何をどうしたかったのでしょうか?
ぼくはきっといまでも「どうでもいいじゃん」と答えると思います。それは無責任な言葉でなく、作家はただ作品を書けばそれでいいという意味でです。
かってソビエトで国家反逆罪に問われた小説家シニャフスキーは裁判の席でこう問われました。
「あなたはなぜ国家に反逆したのですか?」
シニャフスキーはこう答えました。
「わたしはただ小説を書いただけです」

こんな時に短歌なんて書いていていいのだとぼくは思います。ロブ=グリエの言葉を借りるのなら「作家にとって、唯一の可能なアンガージュマンは文学である。」(新しい小説のために)からです。
ぼくは非政治的人間で、作品のほとんどが非政治的です。ですが非政治的なものが権力の都合で政治的になることがあるとも思います。その時に普段道り作品を書けばいいのです。ただ書き続ければいいのだとぼくは思います。

映画:「中国女」

For you

街中の噴水に手を振れば虹色の瞳に朝が零れる

文中に登場した素敵な本とCDと映画たち

マザー・グース (1)マザー・グース (1)
価格:¥ 390(税込)
発売日:1981-07
マザー・グース (2)マザー・グース (2)
価格:¥ 390(税込)
発売日:1981-08
マザー・グース (3)マザー・グース (3)
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マザー・グース 4 (4)マザー・グース 4 (4)
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発売日:1981-10
新しい小説のために (1967年)新しい小説のために (1967年)
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発売日:1967
ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユーゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2005-02-23

中国女 完全版中国女 完全版
価格:¥ 4,935(税込)
発売日:2002-07-20

2007.08.07

マザーグースはすごいぞ日記

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本日は晴れ。寝過ごしてしまい8時に起床。暑い。6時くらいに起きて洗濯(ひそかな愉しみ)をする予定だったのですが、取りあえず冷やしトマトを食べミネラルウォーターを飲み、すぐに外出しました。眼科の予約が入れてある日なのです。
外に出ると昨日よりは若干涼しい感じ。ぶらぶら歩いて病院へ行きました。
診察の結果、角膜の傷は完全に塞がったそうです。しかしながら多少、濁りが残ってしまいました。
これはまあ取れないそうなのですが、視力には影響ないし、見た目にもわかりません。場合によってはかなり大変なことになっていたそうなので、この位で済んで助かりました。先生ありがとうございます。感謝です。サンキューです。百万回の投げキッスです(笑)
眼科の先生がきれいな方なので、ちょっと名残り惜しい気もしますが、(おいおい)まあ、よかったですね。
すでに右耳半分が駄目なので、さらに片目不自由になったらたまりません。左足だって冬になったらやや引きずるのですからね。もうボロボロですよ(笑)
薬局へ行き、タドコロ薬剤師さんと雑談。なんかあちこちの病院と薬局で雑談ばかりしています。閑なんですね(笑)
朝食を食べ損ねたので駅前の「BECK`S」でBLTサンドを食べる。まだ11時前なので、洗濯をしに帰ろうかどうか迷ったのですが、ちょっと電車に乗って出かけてみることにしました。
それで、なんとはなしに横浜へ出て、「HMV」を見たり本屋を見て歩いているうちにお昼になり、ジョイナス地下の中華料理屋「過門香」でランチを食べる。鱧の揚げものと焼き茄子の野菜香味ソースがけ、点心二品(普通のシウマイと海老シウマイ)とザーサイと中華コーンスープにごはんを頂きました。お皿をじゃかじゃか並べるのって大好きです。(あくまでも自分が片付けないという前提ですが)
それにしても鱧って言うと何か関西のイメージで、谷崎潤一郎を連想します。「吉兆」から毎日のように弁当を取り寄せていたそうです。奴も食いしん坊だな(笑)日本文学界一の食いしん坊はまあ吉田健一なんですけどね。

それで電車の中で先日、購入した「世界童謡集」(西条八十、水谷まさる訳)をずっと読んでいたのですが、これがとても面白い。特に「マザーグース」がすごく面白い。この本には主に西欧の童謡が収録されているのですが、「マザーグース」というのは主にイギリス伝承の童謡です。イギリスの詩ってつまらないのが多いのですが、童謡は面白いです。たとえばこんなの。

「鍛冶屋の犬」

ばう わう わう!
おまえはどこの犬?
鍛冶屋のトムの犬
ばう わう わう!

ええ~と、これだけです(笑)多分、原文には音韻的なリズムがあるのだと思います。他にはこんなの、

「てんとう虫」

てんとう虫よ てんとう虫よ。
飛んでお家にお帰りな
お家は火事だよ丸焼けだ。
子供はみんな逃げ出して
残ったアンは菓子鍋の
下へのこのこ這いこんだ

何のメタファーでしょうか(笑)家が火事で丸焼けなのに歌をうたっていていいのでしょうか?いいんです。「マザーグース」はペローの童話並に残酷な部分があります。グリム童話の赤ずきんちゃんは最後に救出されますが、ペローの赤ずきんちゃんは狼に食べられておしまいです。それも服を脱いで狼の待つベッドに入るというあからさまな性的暗示もあります。「マザーグース」って鵞鳥母さんって意味だからペローの童話の副題の鵞鳥のおばさんと関係ありますね。英米文学科の方教えてください。ぼくはロシアなんで(笑)
さてさて上のようなものばかりかと思えばこんなのもあります。ちょっと長いのですが。

「駒鳥の死」

だれが駒鳥を殺したの?
「そりゃわたしが」と雀がいった。
「わたしの弓と矢でもって
その駒鳥を殺したよ」

だれが死骸を見つけたの?
「そりゃわたしが」と蠅がいった。
「わたしの小さい眼でもって
その死骸をば見つけたよ」

だれが経帷子縫ってやるの?
「そりゃわたしが」と甲虫がいった。
「わたしの糸と縫い針で
経帷子を縫ってやろう」

だれが墓穴を掘ってやるの?
「そりゃわたしが」と梟がいった。
「わたしの鋤と鍬でもって
その墓穴を掘ってやろう」

だれが葬式をだしてやるの?
「そりゃわたしが」と鳩がいった。
「まことにかわいそでならぬゆえ
わたしが葬式をだしてやろう」

だれが坊さんになってやるの?
「そりゃわたしが」と烏がいった。
「小さいお経の本を読んで
わたしが坊さんになってやろう」

だれが墓穴に運んでいくの?
「そりゃわたしが」と鷹がいった。
「夜運ぶのでないのなら
わたしが墓穴に運んでやろう」

だれが鐘をば鳴らしてやるの?
「そりゃわたしが」と牡牛がいった。
「ひっぱることができるから
わたしが鐘を鳴らしてやろう」

お空の鳥はみんなして
溜息ついて泣いたとさ。
このかわいそな駒鳥の
葬式鐘を聞いた時。

これはすごいですね。ちょっと尋常じゃない感じがします。読んでいる途中に気づいたのですが谷川俊太郎が「ジョン・レノンへの悲歌」という詩の中で、この童謡のかえうたをやってますね。興味ある方は読み比べてみて下さい。角川文庫の「朝のかたち」に収録されています。

まあ、そんなことをやっていたら家に帰るのが遅くなってしまいました。これから素麺を茹でます。
画像は深いつながりはないのですが、へんな感覚つながりということで(笑)ヘルマン・セリエントという人の絵です。

追記:8月8日:原典を確認したところ上の「駒鳥の死」は抄訳であることがわかりました。念のため書き添えておきます。

For you

猫の瞳の色がかわる時のやうに夢があなた色にそまる

文中に登場した素敵な本たち

世界童謡集
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:1992-01
朝のかたち―谷川俊太郎詩集 2
価格:¥ 571(税込)
発売日:1985-08

2007.08.06

戦い続けた詩人について考えた日記

Borispasternak85
本日は晴れ。6時30分起床。暑い。相変わらずベッドの中で「バロックの森」を聴いていました。目覚めには最高ですね。梅雨明け十日という言葉がありますが、まさにそんな安定した陽気で、暑いなら暑いで落ち着くと病気の症状は緩和されるみたいです。
朝食はパンとコーヒーとサラダ。その後、点眼。目はどうなんでしょうね?こればかりは自分ではわかりません。

「QUARTETO EM CY」の「ケレーラス・ド・ブラジル」を聴きながらコーヒーをおかわり。夏場は南の国の音楽が合うな。ブルースとかもいいけど。
10時半過ぎ外出。用事があり銀行に行く。手続きを済ませ、街中をぶらぶらする。海へ向かう女の子たちがすらりとした脚を伸ばして歩いている。健康的だなあ。なにかと抑圧が多かった世代としてはちょっとうらやましい限りです。
12時過ぎに「紅虎餃子飯店」で昼食。茄子と豚肉の辛味炒めを頂く。小菜とスープとごはんつきで、スープとごはんはおかわり自由。ここの中華は外れがないですね。すでにここでも顔を覚えられています(笑)
食後、古本屋へ行き「世界童謡集」を購入して、喫茶店でぱらぱらめくる。マザーグースってとてもおもしろいですね。
14時過ぎにあまりにも暑いので一旦帰宅。最近、ようやく昼寝をしなくても大丈夫になったので(恐らく夜の睡眠が充分になったのだろう)ボリス・バステルバーク(写真)の詩集を読み返す。数えてみたら全部で5冊ありました。
それにしてもパステルナークの人生は戦いの連続だったような気がします。特に40代から亡くなるまでの間、友を失い権力者と戦い、晩年は「ドクトル・ジバコ」によってノーベル文学賞を取るも反ソ的とされて作家同盟を除名をされノーベル賞を辞退。その二年後に亡くなります。
年譜を見ると1930年、40歳の時、ライバルでもあったマヤコフスキーが自殺します。(他殺説もあります)その時、パステルナークはこんな詩を書いています。

「詩人の死」

信じられなかった、ガセネタさ、―そう思ってみたが、
二人、三人、そしてみんなから知ったのだ。中断したいのちの締切りの、
その日一列に並んでいたのは
役人や商人の妻たちの家々、
中庭、木々、そしてそのうえにとまった
ミヤマガラスたち、
(中略)
きみは頬をクッションにおしつけて、
眠っていた― 一目散にくるぶしの限り
ふたたびまた全速力で
青春伝説の序列に突っ込みながら。

(後略)

マヤコフスキーの葬儀に参列したパステルナークは参列者の顔も見えないくらい興奮して、マヤコフスキーの遺体に直進し、その胸にすがりついて、泣いたというエピソードが残っています。
1934年には友人の詩人、マンデリシュタームが逮捕。パステルナークは危険を顧みずにスターリンに電話で直談判をしますが、スターリンの独裁体制は次第に強まり、1936年にはバーベリ、ピリニャークが粛清。翌年には赤軍の大粛清があり、この時もパステルナークはトゥハチェフスキー弾劾作家のサインを断固として拒否しています。
そしてその翌年の1938年にはパステルナークを庇護していたブハーリンが逮捕銃殺。
1941年6月にドイツ軍がソビエトに侵攻を開始し、若き日に手紙を通して恋愛に近い感情を抱き、生活の援助をしていた詩人、マリーナ・ツヴェターエワが自殺します。
戦後も当局に監視され、恋人が逮捕され、そして晩年の「ジバコ」の事件とその半生は権力との戦いと友の弔いだったようです。
最後の詩集「晴れようとき」にはこんな詩があります。

「たましい」

わたしのたましいは泣き女である
おまえはわたしのまわりの人々すべての運命を泣き
生きながら責め殺された彼らの
眠る墓地となった

(後略)

この詩句はパステルナークの人生を要約しているかのようです。ロシア革命、スターリンの独裁政治、第二次大戦(大祖国戦争)、ジダーノフ批判といった執拗なまでの権力からの足かせに屈することなく詩を書き続け、生き延びたのはソビエトにおいてはパステルナークしか見当たりません。他の多くの人々は粛清、自殺、転向しています。

それにしても何故、詩人は権力と戦わねばならなかったのでしょうか?

それは詩人が預言者だからです。権力者は常に優れた詩人を恐れます。詩人とはそう、戦う人間なのです。

若き日のパステルナークの貴重な映像

For you

小鳥たちが帰還する季節のかなたに立つ夏雲のゆくへ


文中に登場した素敵な本とCDたち

世界童謡集
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発売日:1992-01
ドクトル・ジバゴ〈上巻〉
価格:¥ 612(税込)
発売日:1989-04
ドクトル・ジバゴ〈下巻〉
価格:¥ 652(税込)
発売日:1989-04
第二誕生 1930‐1931第二誕生 1930‐1931
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2006-07
晴れよう時 1956‐1959―ボリース・パステルナーク詩集晴れよう時 1956‐1959―ボリース・パステルナーク詩集
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2004-03
ケレーラス・ド・ブラジル
価格:¥ 2,625(税込)
発売日:1995-10-22

2007.08.05

マリリンはアルディがきらい日記

Francoise_hardy_002_2
本日は晴れ。7時起床。暑い。手許の温度計を見ると室温が28℃。カーテンを開けると青空ですが、予報では天気が不安定だそうです。朝食はパンとコーヒーと冷たいトマト。BGMは「QUARTETO EM CY」の「ペドロ・ペドレイト」を掛ける。それからクーラーを入れて部屋の隅に寄りかかり、タカノ綾の「TOKYO SPACE DIARY」をぱらぱら捲る。
日曜日ですね。なんかもうどうでもいいのですが(笑)
10時過ぎに外出。街をぶらぶら歩くものの汗がどっと吹き出てくる。これは相当な気温に違いない。ペットボトルのお茶を買ってリュックに括り付けました。
11時半過ぎ、早目のお昼を食べることにして鎌倉駅西口の喫茶店「RONDINO」に入り、スパゲッティを食べる。以前にも書きましたがここのスパゲッティは本当にシンプルな喫茶店のナポリタンです。パスタにケチャップが絡んでいて、挽肉の欠片とマッシュルームの欠片がほんのちょっとだけ入っていて、パスタ自体もフライパンの焦げ目が少々ついているという感じなのですが、このシンプルさがたまりません。
コーヒーつきで650円というのも魅力です。
店を出ると強烈な太陽の日差し。涼しいところはないかと本屋に飛び込みました。そこで少々休んでいると(迷惑な客です)とマリリンから電話。大船で会わないかとの誘い。日曜日なのだね。
それで大船まで出て、ファミリーレストランに入る、ぼくはコーヒーを頼んだのですが、マリリンはビールとソーセージを頼む。いやいや目の前でひえひえのビールを飲まれるとちょっとたまらないなあ。するとマリリン。
「冷たくておいしい!!!うらやましいでしょ!!!」
無視することにして(笑)煙草をばかすか吸うと、「もう!!煙草ばっか吸って!」と文句を言い、「煙草吸わない時ないの?」と言う。人の目の前でうまそうにビールを飲みやがって。この野郎!!
だから、
「そうだね。鮨屋にいる時と歯を磨いている時は吸わないなあ。」と言い、(実際、ぼくはへービースモーカーではありません、念のため)
「だからリュウ・アーチャーとは友達になれないね。コーヒーと葉巻を友にするフィリップ・マーロウとなら相棒が組めそうだけどね」と言ってやりました。
マリリン「そういえばさ。ブログに動画が貼ってあったけどさあ、まあ、詩人や小説家やジャズの演奏はいいんだけど、なんでフランソワーズ・アルディ(写真)の映像が貼ってあるの?」
「いいじゃない」
「だってフランソワーズ・アルディってなんか性格悪そうじゃない?」
「いいじゃないか!!」
「フランソワーズ・アルディ好きなの?フランス・ギャルの方がかわいいじゃん」
「ああいう、なんか性格が悪そうだけど、知的な感じの美人が好きなんだよ。ぼくの勝手だろ?」
「趣味悪~い」
「趣味が悪くて悪かったなあ。アルディとぼくは同じ山羊座なんだよ。それに誰も指摘しないけれど名曲『さよならを教えて』の歌の入り出しは実は宇多田ヒカルの『Automatic 』とよく似てるんだぜ」
「あたしとアルディだったら、どっちがタイプ?」
「アルディに決まってるだろう!」
マリリンちゃん怒りました。いやいやビールをぶっかけられるかと思いました(笑)マリリンは童顔なのです。ぷくっとしててかわいいんだけどね。(安藤裕子に似てます)
そんなわけで機嫌直しに勘定を持ってやり、4時過ぎに別れました。ごめんちゃい。マリリンちゃん!!
帰宅後、『さよならを教えて』の歌詞を読んでみる。こんなの。

『さよならを教えて』フランソワーズ・アルディ

どんな言い訳であっても
私は不幸になりたくないの
あなたは私にもう少し教えてくれないといけないわ
何とお別れを言うか

私の心は火打ち石
すぐに火がついてしまう
でもあなたの心は耐熱ガラス
恋の炎に侵されない
困っちゃった
もうさよならなんて言えない

「Comment te dire adieu」

いやあ。困っちゃうのはぼくの方です(笑)あんなにクールな表情でこんな歌うたわれるとやはり、困っちゃいます。でも女性から見たらなんか嫌な女なんだろうなあ。
この歌がヒットした時、フランソワーズ・アルディは18歳だったのですが、けっこう歳をとってからも相変わらずクールな表情で歌い続けています。困っちゃった。もうさよならなんて言えない(笑)←誰にだよ!と自分に突っ込みを入れる(笑)

For you

果実のいろを小鳥たちは透かしている羽根をやすめ瞑目して

文中に登場した素敵な本とCDたち

Tokyo Space DairyTokyo Space Dairy
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2006-04
ペドロ・ペドレイロ(紙ジャケット仕様)ペドロ・ペドレイロ(紙ジャケット仕様)
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さよならを教えて  (CCCD)さよならを教えて (CCCD)
価格:¥ 2,548(税込)
発売日:2003-09-26

2007.08.04

イタリアの夏は暑かったのか日記

1963_03catherinespaak
本日は晴れ。6時30分起床。暑い。ようやく夏本番だなと感じる。朝食はパンとコーヒーと野菜サラダと冷やしたトマト。冷たいトマトが美味しいです。まずは掃除。部屋というのは暮らしているだけで汚くなります。床を丹念に磨き掃除機を掛けると、汗がふつふつ出てくるので温度計を見たら室内が28℃ありました。
外の方が涼しいんじゃないかな?
それからブログに動画を貼り付けるためにしばらくパソコンに向かったのですが、パソコンの前に座っているとやけに早く時間が過ぎてしまうので、適当なところで切り上げました。閑な方は動画を楽しんでいって下さい。
10時半過ぎに外出。髪がずいぶん伸びてぼさぼさだったので美容院に行きました。美容師さんが「わ~。クセっ毛だからくるくるですねえ」と言う。中身もくるくるです(笑)
夏向きにやや短くカットして貰う。すると美容師さんに「kittenさんって華奢だし、髪を伸ばすと女の子みたいねえ」と言われる。いやいやこの歳でそれはないだろう(笑)
実はもう、うん十年も前、やはり髪を結構長くしてパリのサンジェルマン・デュプレを歩いていたら、突然、男に抱きつかれてカフェに引きづり込まれそうになったことがあります。オリエントな美少女にもでも見えたのでしょうか?(笑)
それとも島田雅彦の小説「夢使い」に出てくるラファエルみたいにオリエンタルな美少年にしか興味がなかったのでしょうか?なんか自分がかって美少年だったと主張しているみたいですね(笑)いや美少年だったんです(笑)

12時過ぎ、小町道り脇の「Trattoria Limetta」で昼食。10種の前菜と渡りがにのトマトクリームパスタを頂く。かにのパスタというのは味わいが実に濃厚で、口の中いっぱいに海が拡がるような感じがします。トマトソースにほどよく濃厚なかにの味が馴染んで実に美味しかったですよ。前菜も日替わりなので楽しめます。主にアンティ・パストとかカルパツチョと呼ばれるものがガラスの平皿に綺麗に盛り付けられています。日本人ってこういうのをやらせると上手かもしれませんね。
またしてもブラジル音楽専門店の「Claro」に寄る。先日買ったハダメス・ニャタリのCDが素晴らしかったので、他にないか聴いたところ入手困難とのこと。かわりにアナログレコードを聴かせてくれたのですが、やはりレコードはCDとは違った音のぬくもりがあります。
その後、またしても(笑)御成通りの「Ost」さんに顔を出す。暑い中、店の前にCDを並べてセールをやっている。ブルーノ・ムナーリの「ナンセンスの機械」の洋書を購入しました。これは絵本です。鳩時計とウサギと虫取り網とピストルを利用してスパークリングワインを開ける機械なんていうへんてこなものが載っていて実に楽しいです。ブルーノ・ムナーリって本当におもしろい人だな。
あまりに暑いので一度、帰宅。冷たい紅茶を飲みながら中山うりちゃんの「DoReMiFa」を聴いてまったりする。この子はアコーディオンを弾きながら歌をうたうというまず普通の人にはできないことをやっています。トランペットも吹くようです。
まったりしながら「鏡の国のアリス」を再読していると玄関マットのセールスマンのキリーロフ氏(仮名)からまた電話。いきなり「ホットパンツってずるくないか?」と言う。「遠めに見て超ミニスカートかと思ったらがっかりってことがこの夏すでに5回もあった」
ぼく「いちいち数えてるのかよ?(笑)」
キリーロフ「覚えているだけだ!」
ホットパンツというと映画「太陽の下の18歳」のカトリーヌ・スパーク(写真)だよな、というと、お前は骨董品かと言われる。
ぼくは女性のファッションには詳しくないのだ。それにスカートって寒いよな。
高校の時、学園祭で女装をした時に機能的でないなあ~と思った記憶があります。何故か女子生徒たち(下級生から上級生まで)に囲まれてやたらめったら写真を撮られたのですが、あれは今ごろどうなってるのだろうか?捨ててください(笑)

電話を切り「FELLINI & ROTA」というCDを掛けながらチェザーレ・パヴェーゼの「美しい夏」を読む。美しい夏になればいいな。美しい国なんてどうでもいいけど。書き出しはこんな感じ。

あのころはいつもお祭りだった。家を出て通りを横切れば、もう夢中になれたし、何もかも美しくて、とくに夜はそうだったから、死ぬほど疲れて帰ってきてもまだ何か起こらないかしら、火事にでもならないかしら、家に赤ん坊でも生まれないかしらと願っていた。
(「チェザーレ・パヴェーゼ「美しい夏」訳:河島英昭」

美しい夏だ。でもこの作品は1940年に書かれている。ムッソリーニ政権の下でひそかに。1940年のパリのアプサントは苦かったが、1940年のイタリアの夏は暑かったのだろうか?

For you

夏の朝のみづいろの空に手を伸ばせば零れ落ちるひかりのいろ

文中に登場した素敵な本とCDと映画たち

夢使い―レンタルチャイルドの新二都物語夢使い―レンタルチャイルドの新二都物語
価格:¥ 730(税込)
発売日:1995-05
鏡の国のアリス (新潮文庫)
価格:¥ 540(税込)
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美しい夏 (岩波文庫)美しい夏 (岩波文庫)
価格:¥ 588(税込)
発売日:2006-10
Munari's Machines/Le Macchine Di MunariMunari's Machines/Le Macchine Di Munari
価格:¥ 3,115(税込)
発売日:2002-03-15
DoReMiFaDoReMiFa
価格:¥ 2,548(税込)
発売日:2007-05-23
太陽の下の18歳太陽の下の18歳
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2000-07-20
道~ノスタルジア・フェリーニ&ロータ
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2002-05-22

2007.08.03

ショートストーリー:LAZY BONES

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彼女は朝はやくから起きて大音響で掃除機なんか掛けている。洗濯機もぐるぐる回っていて、ケトルがけたたましい音をたて、さらにはステレオの中でエルビス・プレスリーが、兎の一匹も捕まえられない奴はおれの友達じゃない!と叫んでいる。ああ、眠い。もう少し寝かせてくれよ。毛布にくるまって枕にぴったりと耳を当てる。眠くてたまらないんだ。革命が起きようが、地球が今日でなくなります、という回覧板が来ようが、ものすごく眠いんだ。
するとフライパンを手にした彼女がしずしずとやって来て、エルビスの「Hound Dog」に合わせてスパゲッティターナーでフライパンをガンガン叩く。起きるもんか。ぼくは毛布に潜り込む。すると辺りが急に静かになる。それから彼女の歌声。


朝は遅くまで ゆっくり彼は寝ます 
仕事は憂うつ 寝床が天国 

午後は昼寝です 食事の時が来ても 
なんにも見えぬ 食べずに眠る

釣りに 行けば 釣りのことは 天に祈り
世はすべて 神の胸にまかせまつり

いつも月給の稼ぎもないくせに
泰然自若ホントーに わしゃ負けたです

毛布からちらっと見ると彼女は部屋の隅にしゃがんで猫に向かって歌い続ける。ああ、わかったよ。起きるよ。起きるってばさ。ぼくはベッドからそろそろ出る。彼女は「おきまかせまつり?」とへんな日本語を言うと、ねえ、ねえと言い、「1866年2月13日にアメリカでジェシー・ジェイムズが世界初の銀行強盗に成功したんだって!ねえねえ、銀行強盗だって!!」
ぼくは指でピストルの形をつくると「手を上げろ!!」と言う。「今すぐにコーヒーを持ってこないとその綺麗な顔に穴が開いちまうぜ!!」
すると彼女はくすくすと笑いながらキッチンに行く。しっぽを立てた猫を従えてね!

註:文中の歌は「LAZY BONES」。古いアメリカのジャズナンバーです。吉田日出子さんが「上海バンスキング」の中で歌っています。

For you

夏のしまうまが走る青空に浮かぶしろいくもを追いかけて

2007.08.01

短歌を書いたり散歩をしたり日記

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本日は晴れ。7時起床。最近なんか暑いので6時くらいに目覚めてしまい寝そべりながらFMの「バロックの森」を聴いています。以前は「あさのバロック」という名前で日野直子さんがパーソナリティーをしていましたね。何はともあれ目覚めの気分がよくなる番組です。(ちなみにぼくはほとんどテレビを見ません)
朝食はコーヒーとクロワッサンとスクランブルエッグ。オムレツを作ろうと思ったのですが、発作的にかき混ぜてしまいました(笑)
その後、ソニー・ロリンズを大音響でかけて洗濯。洗濯機が廻る。洗濯物も廻る。地球も廻る。月も廻る。スプートニックも廻る。
洗濯とはじつに奥が深いのです(笑)
掃除をして、冷たいお茶を飲んで11時過ぎに外出。若宮大路のスリーエフの前まで行ったら人だかりが出来ているので、おばちゃんに「何かあったんですか?」と尋ねると、壇かづらでドラマの撮影をしているとのこと。目を凝らしたら藤原紀香さんが歩いていました。
その後、小町通りの「Dolce far niente」で昼食。店名は「なにもしないでのんびり過す」という意味だそうです。まさにぼくにぴったりじゃないか(笑)
サラダと海老とズッキーニのトマトソースパスタを食べ、食後にエスプレッソを飲む。ここのパスタとエスプレッソは美味いです。あとお店の雰囲気がすごくいい。風通しがいい感じですね。お店の方も爽やかです。
小町通りをぶらぶら歩きブラジル音楽専門店の「Claro」にまたしてもお邪魔する。ほとんどのCDが試聴できるのがうれしいです。大型店にはできないこうしたサービスというのが常連客を摑んでいくと思います。そこでナラ・レオンのCDを幾枚か聴かせて貰ったのですが、途中、なんとなく気になるCDが目に飛び込み、それも聴かせて貰いました。
直感というのは案外当たるもので、そのなんとなく気になったそのCDがすごくよい。ハダメス・ニャタリというブラジルの作曲家の「Meu Amigo」というCDなのですが、この方、アントニオ・カルロス・ジョビンを見出した人だそうです。
サウンド的にはサンバでもボサ・ノヴァでもなく、どことなくアストル・ピアソラとニノ・ロータの映画音楽(特にフェリーニのサウンドトラック)を連想させますが、ちょっと今までに聴いたことのない種類の音楽でした。う~ん、世界は広い。
一服して、その後、御成通りの「Ost」へ行く。店長さんと雑談。「現代アメリカ黒人女性詩集」を買いましたが、知っている人はアリス・ウォーカーだけです。
ちなみにブルーノ・ムナーリの「ナンセンスの機械」の洋書があってやけに気になりました。ちなみに「Ost」もCDを扱っていて試聴が出来ます。これからはやっぱりこういう店ですね。特に鎌倉みたいな街だと。

それで今日はすこし真面目に短歌を書こうと思って3時半頃に帰宅しました。それが「夢の中の姉妹たち」↓↓という20首の連作です。写真はダイアン・アーバスの有名な写真を拝借しましたが、最初に「アリス」「アンジュ」という名前が浮かび、書いているうちに「アリス」の連想から「不思議の国のアリス」がイメージとして浮かび、三月兎やドジスン教授(ルイス・キャロルの本名です)が登場しました。
「この子の首をちょんぎっておしまい!」というフレーズも「不思議の国のアリス」から頂戴しました。
作品中に登場する、ガジ・ベリ・ビンバというのはダダの詩のフレーズです。いわゆる音声詩と呼ばれるものなのですが、三月兎は気が触れているので、いいかな?と思って使いました。他にも色々あるのですが、探して下さい(笑)
ぼくの予定はすぐにころころ変わるのですが「アリスとアンジュの夢物語」という連作にしたいと思っています。ちなみに写真は本物のアリス。アリス・プレザンス・リデルです。

「ルイス・キャロルを探す方法」(吉岡実)より

ドジソン家の姉妹ルイザ マーガレット ヘンリエッタ
緑陰へ走りこむ馬 読書をつづける盛装の三人 見よ寝
巻のなかは巻貝三個

For you

夜と夢が出会う時刻に猫の瞳から落ちる星の瞬き

文中に登場した素敵な本とCDたち

不思議の国のアリス
価格:¥ 500(税込)
発売日:1994-03
現代アメリカ黒人女性詩集
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:1999-02
続・吉岡実詩集 (現代詩文庫)
価格:¥ 1,223(税込)
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メウ・アミーゴ・アントニオ・カルロス・ジョビンメウ・アミーゴ・アントニオ・カルロス・ジョビン
価格:¥ 2,625(税込)
発売日:2007-05-23

夢の中の姉妹たち

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夢の中の女の子たちが走り回る深夜の公園の中

鏡の中のゆびとゆびが弾く誰も知らない楽器の音色

ブランコに腰を掛けて噴水の竪琴に耳を澄ます

アンジュ&アリスの図書館は深夜しか開いておりません。

地図を示す手がだれかの頬を打ったことはありませんか?

アリス&アンジュのハミングに揺れるブランコの木目模様

詩人さんの竪琴は二人がかりでも運べないのすたるじあ

三月兎が草を食べる走る食べるお茶会はどうですか?

この子の首をちょんぎっておしまい!!ゆめのなかのしろいうさぎ!!

夢の中の姉妹たちは囁く今夜何処かで会いませんか?

ボート遊びは噴水の中よ、傘を差すアリス&アンジュたち

ドジスン教授のお姫様の夢の中へしのびあしで滑りこむ

女の子たちはいつも夢の夢の夢の夢の中を走り回る

三月兎のティーポットへそっと目薬を入れれば明日は晴れ

詩人さん聞きたいのです?兎も詩人になれるのかしら?

図書館の文字たちがきらきらと輝いて宙を舞っています。

兎さんはガジ・ベリ・ビンバと人参を詩人の如く食べるのです。

アリス&アンジュが跳ね回るウサギのダンスは満月の下

この子の首をちょんぎっておしまい!!トランプをめくれば夜

夢の中のアリス&アンジュよ星が落ちて明日は晴れますか?


短歌:アリスとアンジュの夢物語(1)

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