片足残して、片足伸ばす

 

by デヴィン・ロー
Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru
2007年2月9日


 やあ! 「次元の混乱」の開発チーム・リーダー、デヴィン・ローだよ! 今回は次元の混乱の開発上のテクニックについて、アーロンが目を離してる今のうちに喋っちゃおうと思ってるんだ。開発チームはみんな、カラー・パイの役割をもう一つ定義するってのがそう簡単じゃないってことは判ってたんだ。でも、なんとか新しい骨組みと規則を作ったんだけど、プレイヤーのみんなにそうだと思ってもらえないとウケないのは当然だよね。じゃあ、どうすれば白の《対抗呪文》や青の手札破壊を受け入れてもらえるかなぁ、と考えて……僕らは一つの技を見つけたんだ。

 古いメカニックを新しい色でもアリだと思ってもらえるようにするには、その色に存在する何かを混ぜて、その呪文にその色っぽい部分を残すようにすればいいんだ、とね。

 開発チームはこの方法を気に入って、その方針をさらに発展させていったんだ。その結果、片足をマジックの旧来のカラー・パイに残したまま、もう一方の足を次元の混乱のカラー・パイに入れた、両方の世界で最高のカード群ができたのさ。まず、白の《対抗呪文》と青の手札破壊にこの法則がどう使われてるのかを説明してから、他の色ではどうなってるのかを駆け足で解説してくからね。


新しいものと、古いもの

 僕らは次元の混乱について慎重に慎重に計画を進めていったんだ。大きなメカニックの色を変える時は、必ず3枚以上のカードが必要だ、とかね。

 緑の飛行? 3枚ある。

 黒のタッパー? これも3枚。

 赤のバウンス? これも3枚だ。

 この3枚ルールで、メカニックが移動していることを確認できるし、どの色でも何でもできるようにしようなんて無茶なことをしてるんじゃないってことも判るはずだからね。

 さて、デザイン・チームが打ち消しを白にすると言ってきたので、僕らは3枚以上のカードを作ることに決めたんだ。単に打ち消し呪文を3枚無作為に選んだだけだったら、例えば白の《巻き直し》、白の《呪文乗っ取り》、白の《禁制》ができることになってたかもしれない。けど、もしこんなのが次元の混乱のパックから出てきたら、いくらなんでも受け入れてもらえなかったと思う。なぜかというと、そいつらはただの打ち消し呪文ってだけじゃなく、白っぽくない打ち消し呪文なんだ。

 《巻き直し》は土地を4枚アンタップする──白くないね。

 《呪文乗っ取り》は相手の呪文を奪い取って──白くない。

 《禁制》は小さい呪文を止めるわけで──これも白くない。

 じゃあ、何なら白っぽいと思うんだろう?


《不愉快の拒絶》

 《対抗呪文》は、そのまま次元の混乱の白に入れるにはちょっと強烈過ぎる。全然白くないし。そこで《不愉快の拒絶》。これなら「僕のクリーチャーを守って」という白のテーマにそぐうし、白っぽいコモンの《避難》と同じようにプレイできる。青がやってたように呪文を打ち消してるのは間違いないのに、いかにも白っぽい感じでプレイできるんだ。


《暁の魔除け》

 《不愉快の拒絶》が白のクリーチャー保護を象徴するなら、次はプレイヤー保護を象徴するのがいい。ということで、火力呪文や手札破壊への耐性としては以前に《金粉の光》があったよね。一方で、《暁の魔除け》はインスタントの《象牙の仮面》って感じで、白の打ち消し呪文にもう一つの強烈な印象を与えることに成功してると思うよ。


《マナの税収》

 《アウグスティン四世大判事》《抑制の場》などのカード、それに《プロパガンダ》《亡霊の牢獄》になったことを見ても判るとおり、「マナへの課税」は、《輝きの乗り手》《沈黙のオーラ》《洗脳》といった遠い昔から白のカラー・パイの一部だったのさ。白の《魔力の乱れ》は、インスタント化した《輝きの乗り手》ってわけだ。

「君の呪文は1マナ多くかかるよ……ん? ああ、言ってなかった? 悪い悪い、で、もうマナないの?」

 ところで、ベンジャミン・フランクリンの「死と税金は避けがたい」という格言を知ってるかい?


借りたものと、青いもの

 青に《呆然》を入れるってのも全くもって凄まじい話だ。無作為に捨てさせる呪文の青っぽい部分ってどこにあるって? ……ないねぇ。だから、青の手札破壊は、旧来の青に片足を置いたまま、もう一方の足を使って「手札破壊」という次元の混乱のカラー・パイを探ることになったんだ。


《悲しげな考え》

 青のカード操作っていえば、《強迫的な研究》《入念な研究》それに《マーフォークの物あさり》みたいなのがある。で、《強迫的な研究》なんかのように、相手に操作させる系の呪文もあるわけで。じゃ、《ふるい分け》の枚数を変えてみれば、ほーら《精神腐敗》っぽいもののできあがり。「カードを引いて捨てる」という効果だから、青っぽい気がするわけだ。《悲しげな考え》で出来て、《精神腐敗》ができないこと? ……《偏頭痛》でダメージが小さいってぐらいかな。


《陰鬱な失敗》

 普通の呪文の最後に「カードを1枚捨てる」を付けると黒っぽくなる。例えば、《貪欲なるネズミ》《大笑いの悪鬼》がそんな感じだろ? でも、この《陰鬱な失敗》はそうならなかった。完全に黒を感じさせない、《放逐》の写し鏡みたいな感じになったんだ。まあ、《黒騎士》が「黒で2マナ2/2で、すげえ能力を2つも持ってる」なんてのが、《白騎士》のおかげでお目こぼしされてるのと同じような感じだね。開発中は「黒《放逐》」なんてあだ名で呼ばれていたんだけど、フレイバー班のおかげで《陰鬱な失敗》《放逐》《黒騎士》版になることができたってわけさ。


《ヴェナーリアの微光》

 これはまたなんとも微妙なものだ。よく見るとわかるんだけどね。青の《強要》は……んー、なんていうといいかな、つまり、青の《テレパシー》と黒の手札破壊を組み合わせたもの、というんじゃちょっと言いたりない感じだな。プレイテスト中は、こいつは「事前呪文破」って呼ばれてた。要は「呪文1つを対象とし、それを《呪文破》する……手札にある間に!」ってカードなんだ。よく知られた青の効果に軸足を残しておけば、この呪文の効果はよくわかると思うよ。


その他もろもろ

 他のカードについて全部やってる場所も時間もないから、さっさっさと他の色についても駆け足で見てくことにするよ。興味があったら、自分でカードをよく眺めてみると判ると思う。


《太陽の槍》

 時のらせんブロック以前に、白で次に出るカードは何だろうって話をしていても誰も「白の火力呪文で、1マナ3点のやつ!」なんていう奴はいなかったと思うね。白のウィニー・デッキは、火力を入れるためにわざわざ山を散らしてた。グランプリを席巻した「PTジャンク」デッキからずっと、《サルタリーの僧侶》なんかを使ったりして、今ではボロス・デッキ・ウィンなんてのもあって、こいつは……《サルタリーの僧侶》なんかを使って……いやまあ。で、こいつと《塩撃破》《セラの加護》と言った白のクリーチャー除去呪文が白だと認められるには何がいいか、って話だけども。《太陽の槍》は、今までの《Holy Light》やら《流刑》《眩しい光》《厳密なる執行》やらの前例に従うことになる。……乗り越えちゃうんだけどね。

 デザイン・チームが「白でないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する」といういい方法を考えてたときに、いつか戻したいと思っていたカードを眺めなおしたんだ。白の《闇への追放》は確かにシンプルだけど、こいつは「アリ」じゃない。そこでデザイン・チームが見つけたのが、色の変わった《掃射》こと《太陽の槍》、ちょっと弄った《Phyrexian Boon》こと《セラの加護》、それに白以外に限った《砂漠の竜巻》こと《塩撃破》ってわけだ。


《塩平原の世捨て》

 何年もほとんど出てきてなかったけど、最近だと《戸惑い》《精神の檻、迷心》《朧宮の特使》なんかにある通り、−X/-0は青のカラー・パイの一部なんだ。《塩平原の世捨て》が白っぽいと思えるのは、プレイヤーやクリーチャーを守るっていう白らしい特徴があるのと、小さいクリーチャーをタップするだけで使える能力だってことが白っぽいってこと。それに、ウルザズ・サーガの《聖域の守衛》の能力に似てるってことに気付けばなお白っぽいと思えるんじゃないかな。


《影武者》

 これはわかりやすいね。《ゾンビ化》を青にするなら、《クローン》の能力にしちゃえばいいってことさ。こいつはプレイテスト中、「死のクローン」と呼ばれてたんだ。実際、本来の青の能力としてこいつを入れようとしたこともあるんだよ。まあ、次元の混乱のカラー・シフトってのは、こいつが世に出るのに最適のタイミングだったってことだね。まさに「片足を青に残して、もう一方の足で黒に踏み込んだ」ってわけ。


《貴重品室の大魔術師》

 タップしてマナを出すクリーチャーって言ったらもうずっと緑のカラー・パイの能力で、他の色のクリーチャーがそんな能力を持ってたことなんてほとんどないよね(《炎の修道女》がいる? まあ、そうだね)。でも、このカードははっきり黒だって皆思っただろ? これが他の黒クリーチャーよりも《ラノワールの使者ロフェロス》に近いなんて、誰も思わなかったはずだよ。


《溶鉄の火の鳥》

 このカードが{4}{R}で2/2のスピリットだったら、いくら次元の混乱のカードでも赤じゃないと思われただろうね。まあ、白か黒か、さもなきゃ緑じゃなけりゃ、死んだクリーチャーを蘇らせるなんてできないはずだ。でも、赤にその能力がない、なんて決めつけるのは早すぎる。「普通の赤」でも「次元の混乱の赤」でも、飛行も滅多にない能力なんだけども、「飛行で復活してくる赤」って何かないかな? 何故《Ivory Gargoyle》を黒にしないで赤にしたかって言うのも、要はそのフレイバーにあるんだ。そう、フェニックス。フェニックスはファンタジーに欠かせないモンスターの1つで、マジックでも簡単に再現できる能力を持ってる。そして、フェニックスといえば炎。炎と言えば赤ってわけさ。《陶片のフェニックス》《ボガーダン・フェニックス》なんかは、復活してくる飛行クリーチャーなのに、誰が見ても赤のクリーチャーだろ? 復活してきて、飛行を持ってて、しかも2/2。《Ivory Gargoyle》は実は赤のフェニックスに相応しい能力の持ち主ってことだ。赤には《ジョークルホープス》系の効果があるから、《Ivory Gargoyle》の能力も活かせるってものさ。


《ユートピアの誓約》

 緑の除去? あり得ないだろ、って誰でも思うんじゃないかな。でも、使ってみるといかにも緑だって判ってくれると思う。つまり、「そのクリーチャーに《平和な心》を」というより、「そのクリーチャーを《極楽鳥》に」という方がこいつの能力を表してるような気がするのさ。で、そうなると、これは何色? もちろん緑だ。

 こんな感じで、色んなカラー・シフト・カードがその色でアリだと思えるように調整したんだ。片足を元のカラー・パイに残したまま、もう一方の足を伸ばして次元の混乱のカラー・パイを探ってるってわけさ。


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