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空腹から満足に至るラーメンの旅

 このコラムは編者がかつて常連であった店に久しぶりに訪れたことをきっかけにして書いたものです。この店の名前も場所も秘密です。地域により人によってラーメンの好みは異なるため、自分なりのお気に入りの店の味を思い出しながら読んでいただければ幸いです。


 ラーメンを食すということはこころもむなしき空腹から出発し、スープや麺やチャーシューとの出会いを経て満足に至る旅をすることを意味する。したがって割り箸は大事な友であり、テーブルに置かれた胡椒(こしょう)は事件の臭いさえする。

 お気に入りの店に入って注文が終わってラーメンを待つ時間は旅支度のための時間になる。奥に長いこの店には厨房と客席を隔てるL字形のカウンターがあり、出入り口に近い席に陣取り中を見るとスタッフは4名。席はカウンターのみで20席以上はある。昼食時は混んで並ぶため昼の12時になる前に入った。8割ほどの席はすでにうまっている。

 出入り口に近いところに大きな鍋が2つあり、麺が次から次に茹で上がる。多いときは10食程を一度に作る。3種類の大きさのどんぶりの並びにあわせて食券を並べているところが面白い。麺は注文に応じて取っ手のついた駕籠(かご)の中に取り分けられてお湯に浸かり、麺の本来の姿を取り戻す。茹でる時間は2分ほど、固ゆでを頼むと麺を茹で始める時間を遅くして調整しているようだ。

 麺を茹でている間にどんぶりにタレを入れる。タレの量はメニューに応じて3種類ほどの小さなお玉を使い分けるため味の濃さは一定になる。その後刻んだネギが入る。ネギは長ネギでカウンターの奥の方でスタッフがあいた時間を使って刻んだものだ。その後、麺を茹でるスタッフが後ろの壁際にあるスープをどんぶりに移す。スープの具が入らないように円形の金網をくぐらせる。

 麺が茹で上がると麺に含まれるお湯を切る。この作業にはスピードと力が要求される。そしてすぐさま麺がどんぶりに移される。麺を入れるスタッフがあるいは別の人が、店の込み具合やスタッフの数に応じてラーメンに具を載せる人が異なるが、その連係プレーがスムーズで心地よい。

 ワカメをどんぶりの左側にのせる。チャーシューを二枚真ん中にのせる。四角に切った海苔を二枚ドンブリの奥にのせると出来上がり、手分けしてカウンターのお客さんのところに運ぶ。これで旅支度がやっと終わる。


 ラーメンが入ったどんぶりが目の前に届くと割り箸を取り、奥の方を持って割る。こうしないと途中で割り箸が折れてしまう。旅の友は五体満足の方が心強い。ドンブリの中央から左にかけてその身を横たわらせている蓮華(れんげ)を左手で起こしてスープを戴く。スープの味は店の味であると同時に自分の体調さえも知らせてくれる。このとき何を使ってこのスープを作り上げたのかを考えるのも楽しい。この店のスープの味はすでにネット上でも複数の人達によって評されている。ある人は塩系とんこつ味と呼び、ある人は醤油系トンコツ味と呼ぶ、化学調味料の使用量が多いと言う人もいれば中くらいだという人もいる。しかし、疑いようも無いことはこの店独自の味だということだろう。

 一通りそうした自分なりのその日その日の解釈が終われば、いよいよ箸が麺をとらえる。その麺は細く縮れが少ない。細いのは茹でる時間を短くするためだろう。街道沿いのその店は朝早くから夜遅くまで営業しており、全国を走り回るドライバーやタクシーの運転手の空腹をより早く満たすために細く進化したのだろう。

 次にチャーシューを味わう。チャーシューは焼き豚とも言われ、豚肉を細い紐(ひも)でしばって味をつけ天火(てんぴ)で焼いて作るらしい。ローストチキンの豚肉版ということになる。チャーシューを作る過程でタレも出来ると言うがここのチャーシューはどうやって作っているのだろうか?このチャーシューは自分はもちろん、他の人にも評判がいい。その出来は日によって、あるいは運によって異なるが特に美味しいのはとろけるように柔らかいとき。

 海苔はスープに浸して程良き頃合いを狙って口に運ぶのがいい。海苔の香りがスープのなかの塩分とからんで磯の香りを運んでくれる。ワカメの歯ごたえを味わい、麺が無くなれば旅も終わりに近づく。

 旅はいつも、食べ終わったラーメンのドンブリをカウンターの上に移して立ち上がり、感謝を込めて「ごちそうさま!」とスタッフに聞こえるように声を発して終わりを告げる。


-2001/12/8




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