日本に仏教が伝来した飛鳥時代は同時に海外からの文化を受け入れた時代で、その後日本では神々と仏教が共存するようになりました。この頃のアラブ諸国にはまだイスラム教も成立しておらず、アラブの民も多神教で黒石(こくせき)を信仰していたそうです。こうした多神教はキリスト教が伝わる前のヨーロッパも同じで、今でもお地蔵さまのような像が要所要所に残されているといいます。
この6世紀にメッカとメディナは交易で栄えていましたが、その理由が示唆的です。つまり現在イスラエルとパレスチナ自治区があるパレスチナ地域にはビザンツ帝国があり、イラクとイランあたりにはササン朝ペルシャがありました。両国の間には抗争があったため、アラビア半島北部の交易路が使えず、代わりにメッカやメディナを沿岸とする航路が発達したとのことです。
イスラム教が成立する以前からこれらの地域に紛争が絶えなかったということは、豊かな土地を巡る闘いは今も昔も、文明が進んでも変わることはない、ということでしょうか?
ともかくメッカとメディナは交易で栄えたわけですが儲かっていたのは一部の商人だけで地元のアラブ人たちは哀れな生活ぶりだったといいます。ムハマドは40歳くらいの頃、そのメッカで瞑想にふけり、やがてアッラー(唯一神)の声を聞きます。
預言者ムハマドの登場です。アッラーの前では人種に関係なく平等である、と説きました。平等では儲けが薄くなると考えたメッカの富裕層からムハマドは迫害を受け、622年メディナに移ります。これがイスラム歴元年で教団を作ったムハマドはその後メッカを征服、さらにアラビア半島を統一してしまいます。
ユダヤ教が選ばれた民(ユダヤ人)のための宗教であるの対し、キリスト教やイスラム教は人種を問わず人間は皆平等である、と説きその信者は世界中に広がりました。偏在する富を奪い返し(聖戦)平等に分け合うためにイスラム教は生まれたと考えられなくもありません。逆に言うと、富の偏在がなければ戦う理由もないことになります。
現在のイラクの首都バグダッドから、フセイン政権はイスラム諸国が協力してアメリカと戦うよう、”聖戦”を呼びかけています。もしアメリカが富を独占していて、その富を奪い返そうというのならイスラム教の大儀にかなうかも知れません。しかし、その戦いは中東石油の利権をアメリカのメジャーから取り戻した第一次オイルショックの頃に終わっています。
今の中東諸国は石油があるので裕福です。しかも、かつてイラクは同じイスラムの国クウェートを侵略しています。これもクウェートに偏在する富を奪い返すためだった、と言えなくもありません。
最近NHKで再放送されている”おしん”でも貧乏から抜け出すために必至に生きる少女”おしん”の姿が描かれていますが、このドラマはイスラム社会でも共感できる人が多いそうです。逆に日本にもこういう時代があったのかと、このドラマで知った人も多いと聞きます。
フセイン政権はイスラム諸国に”聖戦”を訴えていますが、圧政でクルド人やシーア派を苦しめてきたために説得力が足りないのですが、これもアメリカとのバランスの問題だろうと思います。
最近アメリカで自爆テロに関する調査が行われその結果が発表されました。それは自爆テロと貧しさの関係です。その結果によれば、自爆テロを行う人は貧しい人だけではなく教育を受けた富裕層も含まれており、自爆テロを貧しさと結びつけるのは誤ったイメージだと結んでいました。
しかし、この報告そのものが目くらましのように思えるのです。おそらく、アメリカには世界中の富が自国に集中していることに対して多少の後ろめたさがあるのでしょう。だから、自爆テロは貧しさが理由ではない、と。
しかし、今も昔もイスラム教徒が問題にしているのは貧乏ではないだろうと思います。平等に貧乏ならなにも戦う必要はありません。富が偏在していることが問題でその象徴がイスラエルとパレスチナであり、そのイスラエルを支援している国がアメリカなのです。
アメリカが自国をテロから守ろうとしているのなら、テロ正当化の根拠となっている不当な富の偏在に手を貸すべきではない、つまりイスラエル寄りの外交を止めるべきだということは分かっているのだろうと思います。
しかし、それができないから、イラク戦争には勝ててもアメリカの凋落は進むのかも知れません。強者(つわもの)共が滅びてゆくのはいつの時代もこんな具合のようです。
ー2003/4/3
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