「叶姉妹」の一人の、実の妹兼マネージャーが、正体不明の男と共に姉の宝飾品を持ち去ったことで、実の姉が実の妹を訴える、という芸能ニュースがありました。芸能界のことなので、どこまでが本当で、どこまでがプロモーションなのかわかりません。
ただ、報道の中では裁判沙汰にする理由が分析されていて、それが面白いと思いました。裁判沙汰にすることで、正体不明の男がどんなやつなのか、炙(あぶ)り出したいのではないか、という分析です。
わざわざ裁判沙汰にして揉め事を増やすのは、実の妹が変な男に引っかからないようにするため、といういわけです。この分析そのものも、もしかしたらプロモーションなのかもしれませんが、揉め事が、表面的な揉め事と本来の狙いの、二重構造になっていることはよくわかります。
揉め事の二重構造は、幼い男の子の行動にもみられます。幼い男の子は、しばしば好きな女の子にわざといたずらをすることが知られています。男の子の本来の狙いはその子と仲良くすることですが、失敗したときのリスクを考えたのか、それとも照れくさいのか、あるいは口説き方を知らないためか、まずはいたずらで接近し、そのうちいいところを見せて気を引こう、という作戦です。しかしこの企みはいつも、相手に嫌われたままで終わるのです。
揉め事の二重構造は、落語のなかにもあります。家賃の払いが溜まったら、たいていは溜めた家賃を全部払えば揉めることはありません。しかし、落語の世界では、わざと少なく返して揉め事をつくる「大工調べ」という話があります。
話を聴いた後で、この痛快さは何だろう、と分析してみたら、揉め事が二重構造になっていることがわかりました。家賃を少なく払うことでわざと揉め事を作り出し、その揉め事を解決する過程で傲慢な大家をやっつける、という、二段構えの二重構造です。
「大工調べ」は、借主の大工が家賃を払わないので、大工の命である道具箱を大家が取り上げたことから話が始まります。その話を聴いた大工の頭領が、溜めた家賃1両800文(今で言えば、5万円くらい)より800文足りない1両を渡して、大家に払うように言います。
大家に、1両800ではなくなぜ1両なんだ、と聞かれた大工が、「それはあたぼうよ。当たり前だ。べらぼうめ)」と応えたため大家は怒って頑(かたく)なになり、どうにもならなくなって、ついにお奉行さまに裁いてもらうことになります。
裁きの結果は当時の決まり事に照らして、大工側の勝ちとなりました。
話が終わった後、この話が面白く感じる理由を考えてみました。わざと800文少なくして揉め事の種を蒔いたのは、道具箱を取り上げた大家が許せなかったからではないか、という気がします。
考えて見れば、金がないから家賃を溜めているのに、道具箱を取り上げられたら仕事が出来なくなり、まずます家賃が払えなくなります。ここでわかるのは、大家の狙いは家賃を早く払うように誘導することではなく、大家という立場を利用した、今の言葉で言うところの、パワーハラスメント(嫌がらせ)にあるのではないか、ということです。
落語では、パワーハラスメントに対する仕返しに見事に成功して終わります。しかし現実社会では、どんなに崇高な目的があったにしても、揉め事がただの揉め事で終わることはよくあることです。お互い気をつけましょう。
-2007/3/5
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