最近の北朝鮮のやりかたにたいして”瀬戸際政策”という言葉がよく使われています。ここで言う”瀬戸”には狭門(せと)の意味があるらしく、陸地が迫って海が狭くなっている水際を無理に船が通ろうとすれば、浅瀬に乗り上げて座礁してしまうこともしばしばです。瀬戸際政策には、近道だというメリットがあるものの、油断をすると事故につながるという欠点がある、と言えます。
一歩間違うといつ座礁して大破するかもしれない交渉を北朝鮮は続けていると言えるわけですが、外交用語としての瀬戸際政策は”brinkmanship”の邦訳であるとされています。”brink”はまさに”崖っぷち”を意味することから、崖っぷちに立つ人の最後のあがき、と考えられます。
国と国とを隔てる国境・領海・領空でも危なげな事件が起こります。2001年4月に中国南部の排他的経済水域上空を飛行中の米偵察機と緊急発進した中国の戦闘機が接触し、米偵察機はハイナン島に緊急着陸、中国の戦闘機は墜落しています。
この顛末を伝える同年5月のBBCの記事では中国側の動きを"brinkmanship"と称しています。中国人民解放軍が軍備の近代化のために、沖縄を飛び立ち中国南部海域を偵察している米偵察機に接近したとすれば、それはたしかに瀬戸際政策かも知れません。
インドに対抗して核を持ったパキスタン、アメリカに対抗して軍備を拡張し崩壊した旧ソ連、イラクへの武力行使に最後まで反対したフランスのシラク首相らも、この”brinkman”に入るようです。
瀬戸際政策の前に行き詰まりがあることを考えると、行き詰まりの原因を取り除くことが危険な瀬戸際政策を防ぐ方法だと、言えそうです。しかし、多くの為政者にとって、この行き詰まりの原因を取り除くことそのものが自己否定につながるようです。
北朝鮮の核瀬戸際政策(nuclear brinkmanship)の前に経済的な行き詰まりがありますが、その原因は悪天候による洪水というより、非効率な国の体制(システム)そのものです。原因を取り除こうとすれば、党や軍の幹部であることによる既得権を取り除くことが必要になり、内部の強力な反対にあい、場合によっては命さえ危なくなります。
国を瀬戸際に追い込むか、それともそれを防ぐために自分の立場や命を瀬戸際に追い込むかのいずれかになります。前者を選ぶ為政者が多いからこそ、後者の為政者が歴史に名を残すのだろうと思います。
-2003/4/27
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