- デザートに与えられたミッション
食事の最後に出てくる甘いデザートはなぜ最初でもなく最中でもなく、最後に出てくるのか?そしてなんとなく満足してしまうのはなぜなのか?今回は甘いデザートに与えられたミッション(使命)について考えます。
主采の肉料理が終わった後、平たい皿の上にワイン色のナプキンが敷かれ、その上の丸い器に入った冷菓子が出てきました。いわゆるデザートというやつです。
前に置かれたスプーンを手に取り、器の中のブラマンジェと呼ばれるフランスのデザートを掬(すく)っては口に運んでゆくうちに、うまいと感じると同時に、満足感が体の中を満たしてゆきました。そしてその味わいにまた出会いたいと、同じレストランに足を運ぶのです。
食事の最後に登場し、甘味を提供するデザートは、脳内にセロトニンの分泌を促し、「もう十分に空腹は満たされたから安心して良し」という指令を送ります。空腹と言う異常事態は食事によって回避され、さらに駄目押しのデザートによって念が押されるという具合です。
デザートに与えられたミッションは、食事という楽しみの一つとの、しばしの別れを告げることであり、「もう後戻りができないよ」、つまり「もう料理のおかわりは無しだよ」と、体に言い聞かせることです。
だから甘いデザートは、どこか切ない味がするのでしょう。
-2007/4/15
- フランス料理店のカレーはどんな味か?
シェフの企みにまんまとはまり今回で四回目の食事になった。土曜日でもあり、早めに店に入ろうとしたが少し遅れてしまった。ところが運良く奥の席が空いている。今日は、限定シーフードカレー、を注文した。この時点ではまだ文字情報しか与えられていない。さて、どんなシーフードカレーになるのだろうか?
まずレタスと水菜のサラダが白い皿に盛られて登場した。ドレッシングが独特で旨い。ありふれたレタスと水菜がなぜこうも旨くなるのか、世の中にはオーラを発しながら人に接する人がいるらしいが、この店のシェフにもそんなオーラを感じる。
そんなことを考えながら今日の料理を予想した。フランス料理店がシーフードカレーを出すんだから、駅構内のカレー屋のように、自動販売機で食券を買い、テーブルにその券を置いてから15秒後にはカレーが出てくるような、そんな作り置きをしているはずがない。おそらく、カレーのベースはあらかじめ用意しているにしても、具は注文を受けてから料理するはずだ。
その具がカレーと絡み、香ばしさを漂わせながら運ばれてくるに違いない。料理を盛る器は長円形だろうか、それとも丸くて浅い皿だろうか、などと考えているうちに料理が運ばれてきた。予想に反して、器は四角いプレートだった。
しかも、シーフードとカレーとライスが別々に盛られている。シーフードは帆立と海老で油で炒めているようなのだが、その油はサラダ油の匂いもオリーブ油の匂いもしない。シーフードの香ばしさと、きりっとした塩味がしっかり出ていてとにかく旨い。
カレーは、肉が細かく刻まれて煮込まれており、シーフードの脇役となるような配慮がされている。シーフードとカレーとライスを別々に食べることによって、それぞれの味が楽しめる。白いライスもその控えめな味が際だつ。結局シーフードをカレーに混ぜることもなく、さらにそれらをライスにかけることもなく、別々に味わっているうちに無くなってしまった。
このあと、グレープフルーツとムースのデザートを味わいながら、カレーがコース料理になりうることを知らされた。この店を応援したいが、流行りすぎて行列が出来ても困るので、店の名前と場所は秘密にするしかない。
-2005/10/28
- 若きシェフのたくらみ2
Bランチを初めて食してから約2週間後の土曜日、まだ明るい6時半前に再び店の前に立った。そのとき私の脇を抜けるように数人の客が店のドアを開け中に入った。何となく危機感を感じた私は急いで中に入った。その危機感は当たらずとは言えども遠からずで、すでにテーブル席はすべて埋まっていた。空いているかと期待したテーブルは予約済みだった。
仕方がない。私はカウンター席を利用することにした。
座ってみると今回はスピーカーの音が適度に調整されている。でもその代わり、客の一人が連れてきた赤ん坊の泣き声がけたたましい。それでも意外にその泣き声は不快ではなかった。近頃の子育ては大変だと知らされているからかも知れない。店も他の客も聞こえない振りをしてくれていた。
ウェイトレスがドリンクメニューを持ってきてくれたがアルコールには手を付けないことにした。ほろ酔い気分でいるわけにはいかない。アルコールは味覚を鈍らせる。シェフの料理を見逃さないためにも、頼りない自分の味覚を鋭くしておく必要がある。シェフが本気ならこっちだって真剣に料理に向き合う必要がある。
Bランチの4倍の価格(¥3800)に設定されたディナーのBコースに挑戦することにした。前菜に選んだのはトビウオの焼き料理。毎年春がくると黒潮に乗って日本近海にやってくるトビウオは、ぶつ切りにして海水を入れた大釜に投げ込み、ただ煮込んだだけでも旨い。開きを焼いても旨い。そんなトビウオをフランス料理ではどう焼いて見せようというのだろうか。
料理が運ばれてきた。焼き魚の香ばしさを保ちながらも魚の生臭さが見事に消えている。もちろん骨は一本残らずきれいに抜かれている。骨をのどに引っかけるとやっかいだ。ピンセットで骨を抜く姿が頭に浮かんだ。
前菜の後はじゃがいもの冷たいスープ。そしてハーブが効いたパン、オマールエビ、口直しのデザート、肉料理、デザート、コーヒーと続いた。デザートはアイスクリームが冷たく甘く、ハーブの匂いが鼻全体を包み幸せな気分にしてくれた。店を出たのは9時過ぎだった。つまり店の中で3時間近くを過ごしたことになる。
食事が終わったときランチの時と同じようにシェフが話しかけてきた。料理を出すのに時間がかかりすぎたことを詫びながら次は人手を増やすつもりだという。この店がフリーペーパーに紹介されたらしい。若いシェフは今回も熱っぽく語っていた。もしかしたらここは有名な店になってしまうのかも知れない。
若きシェフのたくらみは今のところ順調のようだ。
-2005/7/31
- 若きシェフのたくらみ
ある街道沿いに新しいレストランがオープンした。その街道は県道だが渋滞することでよく知られている。街道沿いに広めに取られた歩道を歩いていた時、いつの間にかその店が開店していることに気がついた。そこでためしに昼食をとることにしたのだ。
店の前に立っていたら女性従業員が入り口のドアを開け中に案内してくれた。そこまでは良かったのだが、案内されたテーブルがたまたまスピーカーのそばで音量が大きくちょっとうるさい。しかも出てきたお冷やには柑橘系の香りがついていた。食器洗い用洗剤を連想してしまった。
料理はランチだけでABCの三種類しかない。そこで値段が真ん中のBランチを選んだ。950円でデザートや飲み物が付く。料理が出てくると間もなく私はいつものようにいつものペースで食べ始めやがて食べ終えた。もしかしたらこの料理は旨かったのかも知れない、と気がついた時には遅かった。習慣とは恐ろしいもので、味わいの時間は放たれた矢のように過ぎ去ってしまったのだ。
ご存じのように、食によって得られる快感は旨さとそれを味わう時間の積に比例する。
主菜を食べ終えた頃、頭に白く長い帽子を被った若いシェフがやってきた。「食事はいかがでしたか」。”しまった。このシェフは本気だ”と思った。感想を語るほどじっくり味わってはいない。油断していた。
食後に各テーブルにシェフが出てきて客と会話するのは珍しくないが、Bランチくらいで出てきた理由は何だったのだろうか?シェフとの会話で、スープも主菜もシェフの新しい試みであったことが解った。
ご存じのように、料理の旨さは料理人の熱意に比例する。
それからしばらくするとデザートがやってきた。いろいろな香りが重なりあいながらもくどくならず涼しげなデザートに仕上がっている。たしかにこのような創作デザートはチェーン店には無い。気のせいかアイスコーヒーまで旨く感じる。主菜を味わい尽くせなかったことが悔やまれる。デザートつきで一食千円を下回る値付けがされているのはどうしてなのだろうか?おそらくランチを夜のディナーへの誘い水ととらえているからに違いない。
店を出て入り口に戻り店の名前を確認したがフランス語で書かれており発音が解らない。帰宅後にネットで検索してみたがホームページも見つからない。
こうなったらディナーをじっくり味わうしかない。シェフの企みにまんまと乗ることになるが、それもまたうれしい。
-2005/7/17
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