その日は一日中家にいたはずなのに、知人から街で見かけたと言われる不思議な経験がある人が少なくないようです。こうした奇妙な出来事はあり得るのでしょうか？
もう一人の自分は街に出かけ、本体の自分は家にいる状態であり、同じ人間が同時に二カ所に姿を現す現象です。しばしば目撃者の存在が語られることから本人の思いこみとか幻覚とかでは説明が出来ません。
忍者は分身の術を使えたとされていますが、その方法は瞬間移動によるもので、目の残像作用を利用したものです。動いていることを悟らせないためには１秒間に約６０回以上場所を移動して元に戻る必要があります。現実の人間であれば体力が足りないこと、さらにそれほどの急激な動きに肉体の強度がついてゆけないことなどから、今の科学で実現することは不可能です。
目で見れば立体的にそこにいることが分かるだけではなく、人が目の前に立っているだけで、向こう側の音を遮（さえぎ）ることから、意識せずとも音の風景が変化して”なんとなく”存在を知ることができます。手を伸ばせば実際に触れることができる生身の肉体は、しっかりした存在であるようにも思えますが、原子の密度から考えるとすかすかの状態だとされています。しかし、すかすかだからと言っても物質の瞬間移動が可能だという訳ではありません。
形がありさわることもできる肉体を伴う分身、つまりコピーを作ることが不可能だと仮定するならば、目撃者は幻覚を見ていると考えなければなりません。しかし、この説明も目撃者が複数になった場合、”集団幻覚”という説得力を欠く説明をすることになります。
我々が持つイメージは、①実際に目の前の風景が映された場合、②過去の記憶を思い出した場合、③想像して作り上げた場合、の３種類に分かれると仮定することができます。
ビデオで観たい番組が終わった後も再生を続けた場合、その後始まったニュース番組を現在のニュースだと勘違いして驚くことがあります。重大ニュースであればなおさら慌ててしまいますが、後でそれがビデオであることがわかり、まんまと騙されたことに気が付きます。
同じイメージでも脳の中ではリアルタイムのイメージと、過去の記憶と、フィクションとを混同しないように分けて記憶しているようです。おそらく、脳はそれらのイメージを別々の、明確に区別されたスクリーンを通して見ているのでしょう。ところがその回路の配線を間違えると、フィクションと現実を取り違えて混乱することになります。
自分が自分の姿を目撃する現象は自分自身のイメージをつかさどっている脳の部位に腫瘍（しゅよう：周りの組織とは関係ない細胞の固まり）ができて大きくなり周囲を圧迫して刺激したとき、幻覚を起こすことが知られています。脳内の酸素が不足することで臨死体験を経験したり、側頭葉の一部に刺激を加えることで体外離脱を体験したりすることがあるとされています。
脳の中には喜怒哀楽から生死に至るまであらゆるメニューが用意され、それが天国や地獄を作り出すとしても、それはその脳を持っている本人に限られるはずです。脳に対する電気的刺激がさまざまな幻覚を起こすことがあるとしても、その電気的刺激は他人にまでは伝えられません。当たり前の話ですが、本人と他人の間には神経がつながっていないからです。
２０世紀になってから本格的に利用され始め、今では欠かせなくなったものに電気があります。これだって、乾電池で電球を光らせている間は直流と呼ばれて大人しくしていますが、その接点をくっつけたり離したり、あるいはプラスとマイナスの極を素早く入れ替えて交流に変えれば、電気のエネルギーはもはや電池と電球とそれらをつなぐ電線の間にとどまらずに空中に飛び出します。
これは一般的には電波と呼ばれています。その性質を利用した同時送受信無線機とも言える携帯電話を使い、あなたは自分とは違う別の人に本来は自分がやるべきことをその人に頼むことがあるはずです。
電話の向こう側にいる人はあなたとは別の人ですが、あなたに変わって行動を起こす人です。つまり、あなたの分身です。
体内の神経や、とぎれた神経細胞と神経細胞の間をつなぐ神経伝達物質によって伝えられている意志は、もしかしたら、その意志のエネルギーが異常に増加したとき、外に飛び出してしまうのかも知れません。
もう一人の自分を作り出しているかもしれない未知の伝達手段を利用できる日はやってくるのでしょうか？それとも、それはただの幻覚に過ぎないのでしょうか？
-2002/9/24
●当サイトは全ページリンク・フリーです。連絡も要りません。
Copyright(C) 2000-2006 xSUNx(サン) all rights reserved.
もう一人の自分