正月三日、江ノ電に乗り終点の鎌倉駅で降りて鶴岡八幡宮に向かった。JR鎌倉駅の下のトンネルを通り小町通りを歩くと、「チョココロッケはいかがですか」の呼び声が聞こえてきた。”いくらなんでも「チョココロッケ」は”と思いながら人の波とともに進んだ。
正月の三日だというのに、駅から鶴岡八幡宮まで歩いて20分かかった。これは普段の倍かかった計算になる。境内に入ってからも、二回のロープ規制を受けながら進み初詣を済ませ、筒を振っておみくじを引き終わるまでに30分がかかった。気がつくと12時半になっていた。
初詣の人の波にもまれながら、何か食べるものはないかと考えながら、駅に向かった。そこで私は気付かないうちに、ジレンマの波にももまれていたようだ。いやジレンマではなくトリレンマかもしれない。それは、”何か食べたい。できれば美味しいものを食べたい。鎌倉の名物を、しかも列に並ばずに食べたい。安ければそれにこしたことはない”。
冷静に考えてみれば、こんな欲求が一度に叶うはずがない。人の波の中からも、「ラーメンでも何でもいいんだよ」というカップルの男の声がしたが、ラーメン店の前には行列が出来ていた。名物焼きたて手焼きせんべいの前では、「並んでるじゃないか」「並べばいいのよ」という男女の声が聞こえてきた。いずれも、自分がジレンマに陥っていることに気付かない人々の声だと思われる。
歩いているうちに駅についてしまった。まだ何も食べていない。昼の一時になり益々通りは混んできた。それからも、”何か食べるところはないか”、と小町通を放浪するかのようだった。そこへ、「チョココロッケはいかがですか」の呼び声がした。
揚げたて「チョココロッケ」は一個200円。私は、値段が手ごろでおいしそうなもの、という日頃の常識を捨て、うまいかどうかはともかく鎌倉の名物らしきもので比較的待たずに食べられるもの、を優先し「チョココロッケ」を買い求めた。
チョココロッケは揚げたてでサクサクしていた。中は暖かくたしかにチョコの味がする。しかもチョコの味を引き出す程度に甘い。思ったほど変な味じゃない。それでも、普段の生活でこのコロッケを選ぶことは無いだろう。鎌倉で、しかもこの状況でしか食べられない、いや食べようとは思わない味だ。
「チョココロッケ」の味、それは一度は食べる価値のある「ジレンマ」の味だ。
-2007/1/4
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