正直者がバカをみる世の中であったり、努力が報われない社会であってはならないと思いながらも、いつになったらそんな社会がやってくるのか、そもそもそういう社会は実現可能なのか、あらゆる努力が無駄な努力で終わらないように、考えておく必要がありそうです。
世の中の仕組みがどんどん良くなって、理想的な社会が実現したと仮定したとき、それは努力が報われる社会になっているということでしょうか？少なくとも国はそのためにあらゆる手段を講じなければならないという法律ができたとします。
もし、総理大臣になるために努力を惜しまない人が年間１０名現れたとします。すると国はその努力に報いるために、総理大臣の任期を約一ヶ月と決める必要が出てきます。この方法は日本なら可能かも知れませんが、これでは海外どころか国内でさえ、総理大臣が誰なのかいよいよ分からなくなります。
こうやって、少なくとも限られたポストに就こうと努力しても、大多数の人にとってその努力が報われることは現実的にはあり得ないという結論に達することになります。
これは努力しても無駄だということでしょうか？そんな単純ではないはずです。先人の知恵や言動を拾って考えてみることにします。
中国、韓国、日本の精神構造に大きな影響を与えたとされる孔子は努力をしようとしない弟子には何も教えようとはしなかったようです。それは自分の身の回りでは努力に報いるようにしたいと考えていたせいかも知れません。しかし、そういう孔子自身は「富や名声は努力しても得られそうにないので、自分の好きな道に進むことにした」と言っています。
仏像にも彫られ、仏様として日本人にも親しまれている釈迦は釈迦族の王子として生まれましたが、王位は継がず出家しました。釈迦の存命中に釈迦族を攻撃しようと向かう隣国コーサラの王を三度まで止めに入ったとされています。しかし、釈迦（仏）でさえ努力の限界は三度まで。結局釈迦族は隣国から攻撃され、滅亡の憂き目にあいます。
説得の努力を三度でやめた理由は、「隣国から攻撃を受けるような原因を作ったのは釈迦族の方なので、それは宿命としてあきらめざるを得ないこともある」と考えたからではないかと言われています。
キリスト教の世界では「個人が努力するだけでは救われず、主であるイエスを信じることによって救われる」と説いています。生活する上で絶対守るべきだと神より授けられた十戒を守れたものはイエスを除き誰一人としていなかったため、努力するだけではそのルールさえ守れないからだそうです。
イスラム諸国では神の教えに従うために自らを律し、努力することをジハードと呼ぶそうです。”戦争”という意味ではありません。イスラム諸国ではドラマ『おしん』の生き方に惹かれる人が少なくないようです。こうした努力を続ければ、来世で天国にゆけるという考え方があります。
アメリカでは機会の平等という言葉がよく使われ、個人の努力が金銭や名誉というわかりやすい形で報いられるような社会が基本となっているようです。そして地位や名誉を得た後は社会奉仕のために寄付をしたり、養子を迎えたりすることがステータスであったりします。
個人が努力してある発明や発見をした場合、日本ではその権利の多くが企業に属しますが、米国では個人に属するという点が違っているようです。日本の頭脳が米国へ流出するというニュースはよく聞きます。青色LEDを発明したカリフォルニア大学サンタバーバラ校工学部
中村修二教授が日本の企業を飛び出した理由はよく知られているアメリカン・ドリームがアメリカにはあるからだそうです。
これは逆に言うと、日本にはアメリカンドリームがないということをも意味しています。しかし、日本であっても優れた指導者の下で働けたり、暮らせる人は幸せです。それは努力の向かう方向が間違っていれば、成果に向かわず無駄な努力に終わってしまうことを教えてくれるだろうし、社会的に報われることは無くとも、そういう人を重用するようにすると思うからです。
風が吹いて桶屋が儲かり、自分のところにまでやってきて報われるようになるまで待てない人は、自分に報酬や褒美を与えるのが良い方法です。そのためには自分にとっての報酬とは何かをよく知っておく必要がありそうです。
「自分にしては上出来だった。」という言葉を人からほめられたり、社会から認められて報われる前に、自分に与えてしまう術を身につけることは、報われるまでに時間を要する社会で生きてゆくための処世術であるようです。
-2002/5/19
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努力が報われる社会はやってくるのか？