わずか１０分の間に自分を取り戻すためには、道元禅師以来伝わる禅的な手法が一番だと思います。しかしそれは日常的に実施できる方法でなければなりません。これなら同じような効果が得られるのではないか、と思い、実施した結果について報告します。
まずはこれを行う場所です。座禅に適した道場とか、菩提樹の木の下が一番ですが、ちょっと無理そうです。実際に手に入るのは、たとえば会社の昼休みの自分の椅子とか、あるいは移動中の車や電車のなか、または自宅の部屋といった具合です。それでも自分だけの時間と空間が確保できれば、とりあえすOKです。
次は姿勢です。ヨガのように脚を器用に組めればよいのでしょうが、そうそううまく体は曲がってくれません。両足をヨガのように組めないのなら、片足を立てても良いし、椅子に座って肘を突き、手を組んでも良いし、脚は、テーブルの上に乗せても良いし、それが無理なら隣の椅子の上でも、床の上でも良し。座椅子なら前に座布団を二三枚重ねておき、その上に脚を乗せてもよし。それもないなら、畳やカーペットの上に仰向けになって、ちょっと脚を開き、両手を腹の上に乗せてもよし。ともかく集中できる体勢を確保します。
次は周囲の環境です。部屋に一人でいるのなら、テレビやラジオは消し、CDや他の絵や音が出る装置の電源は切ります。電気はまぶしいなら消し、窓は、うるさくなく寒くなく、防犯上も問題がなければ開けてもよく、いやなら閉めます。
そうやって、場所と環境を手に入れたら、いよいよこれから10分間が始まります。しかし、これからやることはシンプルですが、ちょっと難しいかもしれません。ゆっくり息をするだけです。腹式呼吸でもよし、そうでなくてもよいと思います。ともかく息を普通に吸い、はく時間を長くします。肺をイメージし、そのなかの空気が吐き出される様（さま）をイメージします。ゆっくり息をすると、息がだんだん苦しくなってきますが、それでも息をすることに集中します。それ以外のことを考えないようにします。このあたりが一番むずかしいかもしれません。
まだ宿題が残っていることが気になるのなら、学校に通っていることを忘れます。会社でやるプレゼンの準備が気になるというのなら、会社に勤めていることを忘れます。雨が降り日が照りぼうぼうに伸びた畑の雑草が気になるのなら、農業をやっていることを忘れます。男であることや女であることがわずらわしいのなら、男であることや女であることを忘れます。いろいろと人間関係がわずらわしいというのなら、人間をやっていることを忘れます。
親や兄弟やふるさとや、学校の先生や友人など、それが好ましいぞんざいであれ、疎ましい存在であれ、すべてを忘れます。この地球に生まれたことやこれまで住んできたことも忘れます。そして、ただ静かに、息をすることだけを考えます。
そうやって１０分間過ごします。ゆっくり息をすることにより体内の二酸化炭素濃度が増し、次第に脳内にセロトニンが分泌されるようになります。このセロトニンが、気持ちを落ち着かせる正体のようです。食事の後に満腹中枢を刺激し我々に満足感を与えるとされる、あのセロトニンです。
この１０分間の営みは無害であること、そして金がかからないことが一番の魅力です。
-2006/6/29
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１０分間で自分を取り戻す方法