─ 発売おめでとうございます。
青沼 ありがとうございます。
─ 今日は社長に訊かれても(注1)話さなかったことが聞けるということで楽しみにしています(笑)。
青沼 あははは(笑)。そういえば、11月のWii体験会に行ったとき、会場で『トワイライトプリンセス』のでっかい看板を見てたんですよ。そこで初めて気が付いたんですけど、英文のサブタイトルの中に「Wii」という文字が入ってるんです。
─ Twilight…。なるほど!
青沼 エルの文字が間に挟まってますけど、『ゼルダ』のWii版を作ることになったのは運命だったんだなあって(笑)。それで思い出したんですが、3年くらい前のGDC(米国で毎年開かれるゲーム開発者会議のこと)での僕の講演のタイトルは「レボリューション オブ フランチャイズ」だったんです。その講演の後で、「レボリューション」(Wiiの開発コード)が発表されて、やっぱり運命だったのかなあって。こじつけですけど(笑)。
─ (笑) それにしても、スケールがめちゃくちゃ大きなソフトになりましたね。標準クリアタイムってどれくらいなんですか?
青沼 デバッグをやってくれたスーパーマリオクラブのスタッフたちのデータですが、ゲームに慣れてる人たちが普通にプレイして、しかもミニゲームはさらりとやるくらいの感じでやって107時間と言われてます。
─ それはすごい!! やはり開発期間を3年もかけただけのことはあると…。
青沼 (苦笑) でも、開発期間が長かったからと言って、初めからボリュームがあるものを作ろうということではなかったんです。リアル路線を選んだ時点で、リンクや彼を取り巻く世界に、ごまかしの効かないところがどんどん出てきて…。もし、ハイラルという大地で起こる出来事が、すごくコンパクトな世界で起こってしまうと、「世界を救わなきゃ」というモチベーションも弱くなってしまいますよね。やはり「世界を自分が救うんだ!」という気持になるためには、それだけの広大さが求められますし、さまざまな場所にいろんな人たちが住んでいるという状況を作っていくことになり、世界もどんどん大きくなっていくわけです。でも、実は僕も、これほどでかくなるとは思っていなかったんですけどね(笑)。初めは、何となく自分の頭に浮かんだイメージをスタッフに伝えて、それでマップなりを作ってもらったりしたんですけど、それで出来上がってきたのが、僕のイメージの2割増くらいだったんです。
─ それで今作を『時のオカリナ』を超える120パーセントの『ゼルダ』と言ってるわけですね(笑)。
青沼 そんなわけじゃないですけど(笑)。
─ でも、2割増がどんどん積み重なって…。
青沼 そうですね。1つの部分だけでも大きくなっちゃうと、それに連れて全体的に大きくなっちゃうんです。リンクがリアルになって、馬もそれに合わせてリアルになって、全体的にごまかしの効かない世界をどんどん構築していくと、それだけスケールが大きなものになってしまうということはありますね。
─ でも、ただ大きくなっただけでなく、中身がいっぱい詰まってますよね。
青沼 そうですね。ただ広いだけで中身がなかったら間抜けですよね(笑)。世界を拡げてくれて、そこに実在感のあるものを詰めていくという作業を、スタッフは全力でやってくれて、ホントに頭の下がる思いをしています。
─ あの世界をエポナで1周すると、どのくらい時間がかかるんですか?
青沼 それは調べたことはないですね(笑)。
─ 歩くと…?
青沼 歩くとすごく時間がかかりますよね。序盤でエポナを乗れないときに、ハイラル平原を歩いて横断する場面がありますが、あそこだけでもすごく時間がかかりますしね。それで、ゲームが進むにつれて、エリアがどんどん拡がっていくじゃないですか。それで全部の世界がつながってエポナで駆けめぐるのがすごくうれしいですよね。
─ ホント、エポナに乗って走るのがとても気持いいです。
青沼 風を感じるでしょ?
─ 感じます。しかも敵をやっつけながら走れますし。
青沼 そうですね。馬に乗った状態で剣を振り回しながら走れるというのも今作の売りのひとつなんです。ダンジョンとかに入ってしまうと、そのような醍醐味が味わえなくなっちゃいますよね。だから、大きなイベントがひとつ終わったら、馬に乗って走り回りながら敵と戦うような感じでプレイすると、とても気持のいい〜開放感が味わっていただけると思います。
─ 今作は広いだけでなく、高さや深さもありますよね。高いところから飛び降りると、腰のあたりがスッとしちゃうくらい(笑)。
青沼 実は僕、高所恐怖症なので、高いところ、あんまり好きじゃないんです(笑)。でも、今回はクローショットという遠くの標的に引っ掛けるアイテムが登場して、それなのに高いところに行けないのはおかしいということで、「あそこに行ってみたい」みたいな感じでどんどん高くなっていったんですね。
─ 高いところに登って、Cボタンの自分視点で世界を見渡すと、これがまた気持いいんですよね。
青沼 デザイナースタッフたちが、今回の世界を作る中で、「ここが絶景ポイントだ」という地点を各地域に必ず用意しています。だから、ユーザーの皆さんには、自分だけの絶景ポイントを探してほしいですね。しかも時間によって、景色もガラッと変わってきますしね。
PROFILE
青沼英二 あおぬま えいじ

1963年長野県生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン学科修士卒。『ゼルダの伝説時のオカリナ』以降、すべての『ゼルダ』シリーズの開発に携わる。『トワイライトプリンセス』では、当初はプロデューサーだったが、開発途中からディレクターになり、開発現場で陣頭指揮をとる。血液型はA型
注1:社長に訊かれても
任天堂HPに連載された、岩田社長によるインタビューのこと。→こちらでご覧になれます
表情が豊かになった16歳のリンク
─ リンクたちの表情もとても豊かですよね。
青沼 実は、登場キャラクターの表情をどこまで表現するかについては、難しい面もあるんです。やりだしたらキリがないんですね。ですから、要所要所のプレイヤーが喜怒哀楽を感じるような場面で、リンクの表情を変えて、それを共感してもらうことが重要だと考えてるんです。デモシーンはもちろんそうですけど、それ以外の場面でも、ポイントを絞って表情を見られるようにしようと。例えば釣りでダメだったときの表情とかね(笑)。
─ 宝箱を開けたときに、アイテムによって表情が変わったりしますしね(笑)。ところで、今回のリンクは16歳という設定なんですね。
青沼 16歳って大人になるちょっと手前という感じがあるでしょ。それに、ディスクシステムの『リンクの冒険』のCMで、「16のとーき」って言ってましたし、やっぱりリンクは16のとーきなんだろうなと(笑)。
一同 (笑)
青沼 16歳ってちょっと大人びてきて、親から「やっちゃあダメ」と言われたら、逆にやりたくなるような年齢じゃないですか。だから、リンクが敵と戦うときに、剣をクルッと回したりしたりして。
─ 敵を挑発するような仕草ですね。
青沼 あの仕草にリンクのやんちゃな性格を込めたようなところもあって、背伸びしてかっこつけてる感じを出したわけです。
─ 昔のアメリカ映画なんかで見たような…。
青沼 そう! 僕にとっては『ウエスト・サイド物語』(注2)のジョージ・チャキリスなんです。ネタもとが古いなあと思いつつ、スタッフには「絶対に入れてね」と話してたんです。
─ なるほど〜(笑)。あと、剣をかっこよくしまうこともできますよね。
青沼 そのコツは習得しましたか?
─ 敵を倒したら、1歩も動かずにすばやくAボタンを押す!
青沼 そのとおり! あれってなかなか気が付かないですしね。「ここでかっこよく剣をしまいたかったのに!!」という場面はたくさんあるので、ユーザーの皆さんにもぜひマスターしてほしいですね。
注2:『ウエスト・サイド物語』
1961年に公開されたミュージカル映画。ジョージ・チャキリスは不良グループのリーダー。
剣を納めるアクション
↑ダンジョンボスに勝ったときのかっこいい剣のしまい方がいつでもできるように
リンクの声優さんが変わったワケ
─ 今回もチャンバラが楽しいですよね。
青沼 剣戦闘ができる敵とは、きちんとしたチャンバラができるようにということは、『時のオカリナ』のときからキッチリとやっています。今回はかっこいい剣戦闘ができるようにといくつかの技をデザイナーに考えてもらって、それを入れてるんですけど、宮本(茂さん=今作のプロデューサー)は特に「とどめ」が大好きで…(笑)。
─ とどめは、見方によってはすごく刺激的なシーンですよね。
青沼 かなりね。「いいの? こんな表現までやっちゃって」ということもありますよね。でも、正義のために剣を持って戦っているリンクが、大きな技で敵をしとめるという手応えがリアルに伝わってこないとダメだと思ったんです。そのためには、あのような表現も今回の『ゼルダ』には入れていこうということになったんです。
─ その「とどめ」を習得するのが「奥義」で、いろんな剣技を教えてもらう地点に出てくる石がありますよね?
青沼 ウインドストーンと呼んでます。風が吹き抜けて音が鳴ってるということで、そういう名称にしました。
─ あそこにバクダンを置いたんですけど飛びませんでした。
一同 (笑)
青沼 『時のオカリナ』と同じことをやるわけないじゃないですか! 困るなあ〜(笑)。
─ でも、穴があいてるから、何かやりたくなっちゃうじゃないですか(笑)。それにしても奥義のシステムはいいですよね。
青沼 奥義は、『風のタクト』でのAボタン特殊攻撃(注3)からの変遷ですね。このソフトには大勢のスタッフがかかわっていますから、イベントにしてもセリフにしても、スタッフにほとんど任せてるんです。でも僕自身は、ゲームの中に「これがオレだ」というのを入れたいところがあって、あの奥義を教える骸骨戦士のスクリプト(セリフのこと)は僕が書きました。今回は彼が僕の分身なんです(笑)。
─ そうだったんですか(笑)。
青沼 『風のタクト』のときは、赤獅子の王が僕の分身だったんですけどね。
─ そうでしたね(笑)。ところで、リンクの声優さんも変わりましたよね。
青沼 ええ。最初にまず、「今度のリンクにはこれまでの声優さんの声が合ってるんだろうか」という意見が出てきたんです。NOA(任天堂オブアメリカ)からも、「これまでのリンクの声だったら、ちょっと違和感があります」という意見が寄せられたんですね。今回のリンクが多感な年ごろだとすれば、『時のオカリナ』のリンクとは、もう少し違ったイメージの声がいいということになりまして。そこで、女性の声優さんも含めて、声のサンプルを送ってもらって、ゲームの中で仮に使ってみたら、いちばんしっくり来たのが、今回の笹沼晃さん(注4)だったというワケです。声に関しても、やんちゃな感じというか、ちょっと不良っぽいものを表現したかったんですね。
注3:Aボタン特殊攻撃
画面上のAボタンのアイコンがピカピカマークになったときに行える攻撃。
赤獅子の王
↑『風のタクト』でリンクが大海原を航海するのに欠かせなかった「赤獅子の王」
注4:笹沼晃さん
アーツビジョン所属の声優さん。代表作に「機動戦士ガンダムSEED」のディアッカ・エルスマンなどがある。

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