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平成17年度卒業式 学長告辞


 本日、この晴れの日に卒業・修了を迎えられました卒業生・修了生のみなさん、まことにおめでとうございます。お祝いをもうしあげます。

 また、ご列席のご父母のみなさまにおかれましても、そのおよろこびはひとしおのこととご拝察申し上げます。

 さて、若いみなさんが社会にその第一歩を踏み出すこの機会に、日ごろ感じていることを一言申し述べて、はなむけの言葉にかえたいと思います。

 みなさんは本学において、美術と音楽に分かれて、さらには専攻を異にして勉学に励んでこられました。それは実技と理論の両面にわたる、芸術の基礎を身につけるためであり、本日、その成果が認められて晴れて卒業・修了式に臨まれているのです。

 いうまでもなく、大学や大学院で教えうるもの、あるいは、そこで学びうるものは至って限られており、あくまでも芸術の基礎であります。

 ですから、芸術大学ならびにその大学院を卒業・修了したということは、ようやく芸術の創造的な活動の出発点に立ったことを、意味しているに過ぎません。

 それに比べると、長い人類史のなかで築き上げ、到達し、受け継いできた芸術世界は、はるかに広大・無辺・多様・深遠、であります。ですから、みなさんは、本日この場から、改めてこの広大・無辺・多様・深遠なる芸術世界に向かって、本格的な勉強を開始しなければなりません。

 それでは、今、芸術の創造的活動の出発点に立ったということは、どのような状態を意味するでしょうか。

 みなさんは、本学において特定の専攻に属して、その専攻のカリキュラムを中心に、特定の芸術領域を学んできました。

 たとえば、美術の絵画専攻であるならばまずは絵を描くことから、音楽の器楽専攻であるならばまずは楽器を弾くことから、琉球芸能専攻であるならばまずは所作を身につけることから、始まったのではないかと思います。

 これらはいわゆる「実技」に属しますが、繰り返しておこなう「訓練」によってしか、獲得できない身体的・感覚的なものであります。それを英語では「ディプシリン」という概念で示しますが、伝統的な芸事の世界においては、「習い事」とか、「修行」などと言い表してきました。

 このように、みなさんが「実技」をとおして学んだものは、理屈のうえの理解からだけでは、とうてい身につかないもの、といってよいでしょう。みなさんは芸術大学に学んで、この身体的・感覚的な基礎を「実技」をとおして身につけることができたのです。このことは、これから始まるみなさんの長い人生にとって大変に貴重なものであると思います。そして、将来、みなさんが芸術大学に学んだことを意義深く感じることがあるとすれば、それは必ずや、この点に尽きるものと思われます。

 もちろん、みなさんはこれからもこの「訓練」を繰り返し、繰り返し磨き上げていかなければなりません。そのことをとおして、より深い芸術の理解に到達することができるでしょう。

 またその一方で、みなさんは芸術に関わる歴史や文化、あるいは芸術一般にかんする理論なども併せて学び、領域や分野を超えて、ひろく芸術に共通するものについても、理解を深めてきたことと思います。

 これによって、それぞれが学ぶ個別の「実技」を芸術一般のなかに適切に位置づける能力を得て、さらには、自らが学ぶものとは異なる領域が存在することを知ったでしょう。

 さて、みなさんは、これらの基礎の上に今、ここから、創造的な活動を開始することになりますが、芸術の創造性は「修行」の蓄積や一般的な芸術の理解からのみ生まれるものではないことも、また明らかです。

 「創造的」とは、過去の蓄積や一般的な理解から解き放されて、あるいはその限界を突破することによって、まったく新しい認識や表現を生み出すことであります。

 それが実際に、どのような契機によってどのように獲得されるかは、いまだ明らかではありません。それはいわゆる「天才」が偉大な認識や表現を生み出す場合とまったく同じ、「不思議」であるといえるでしょう。

 しかしながら、これらに日常を超えた冒険や逸脱が必要不可欠である、ということは、十分に推測できることと思います。いいかえれば、芸術的な創造とは常に「冒険」の結果であり、「冒険」の賜物でもありますから、みなさんが今から向かおうとしている道には、果敢な冒険心が強く求められるのです。

 このような冒険や逸脱は、のんびり待っていると、いつかは外の世界から提供される、といったものではありません。自らが意識的に内なる困難を克服し、社会の圧力をはねのけて、少しずつ勝ち取っていく以外に方法のないものです。そこには、強い積極性と確たる意思とが要求されます。

 このように考えるならば、みなさんは今日から、一人の孤独な冒険者であります

 冒険者であるためには、有効な戦略や手段を意欲的に手に入れて、それを活用して大胆な行動に踏み出さなければなりません。

 しかしながら、このような挑戦がいつも成功するとは限りません。いやむしろ、失敗することの方が多いといえるでしょう。そのような時こそ、再挑戦の絶好の機会であると考えていただきたい、と思います。

 みなさんの、果敢な芸術的挑戦に大いに期待するとともに、その成果を祈念いたしております。

 終わりにあたり、ご多用のなかをご来臨たまわりました、新垣幸子沖縄県出納長をはじめ、ご来賓のみなさまにあつくお礼を申しあげて、わたくしの挨拶といたします。

平成18年3月17日
沖縄県立芸術大学 学長 朝岡 康二