日経ビジネス2月20日号に掲載のテレビ・ウォーズ「角川春樹、奇才の『破壊と創造』」に連動したインタビューです。誌面とウェブを合わせてご覧ください。

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――昨年12月に公開された「男たちの大和/YAMATO」で映画界に復帰されました。手応えはどうですか。

角川 (配給会社の)東映は最初、この映画は50代以上が見る作品と踏んでいました。彼らの常識からすると、戦争映画というのは若い人が来ないんです。

 これに対して、私は当初から10代、20代の若者に見せる映画だと言ってきた。そして、インターナショナルな感覚で作る、と。どの国でも家族の問題、民族の問題というのは普遍的な問題ですから。

▼映画会社の意向を覆し脚本を改稿

 東映と私との間に齟齬が生じるのは、映画作りの考え方が根本的に違うからです。今回、脚本が出来上がったのはクランクインの前日ですよ。私がノーを出して、結局、映画会社の意向ではなく、私の意向によるシナリオになりました。

 映画会社が考える感動と、観客が実際に感動する場面は違うんです。映画の泣かせどころとか、喜ばせ方というのを、私は感性で分かっているわけですよ。私の意向で作り変えた脚本を見て、俳優が初めて映画らしい映画の脚本に出会ったと言ってくれたんです。だから根本的に違うんですよ。つまり映画界というのは、事ほどさように固定観念に縛られているわけです。

 今回の映画では、戦艦大和のオープンセットを原寸で作って、さらにこれを広島県尾道市に寄贈しました。この大和の見学者は累計で50万人を突破したそうです。もともと、東映はこのセットを3000万円のコストをかけて、壊そうとしていたんですよ。

――確かに大和の展示は好評のようですね。

角川 今まで戦争のシンボルは原爆ドームだったんですが、それが大和になったんです。マスコミも私の方向に引っ張られているんですよね。

 映画についても、私は観客動員1000万人と言ったのに、東映は「あり得ない。せいぜい300万人」という読みだったんです。宣伝費も3億円だったんですよ。今になって、本当に1000万人が見えてきたものだから、大慌てで7億円に増やしましたけど。

――東映も頑張った。

角川 何もかも、彼らの中では考えられなかったんですよ。

 長渕(剛)の主題歌発表を大和のセットで大々的にやりましたが、東映が考えていたプロモーションは何かといったら、8月15日の終戦記念日に生け花展で献花をやると言うのね。その時は、もうひっくり返って、「おまえたち、頭はないのか」と。

 大和の展示の効果もすごい。これは別にうちにも東映にもお金は入ってこないですよ。ただここへ来た人は、みんな映画を見ますよ。

▼ネットで同時公開を企んだのだが

――映画界は古い体質を引きずっていると。

角川 例えば、私はネットで同時公開を企んだんだね。映画館に来ない人はもともと来ないんだから、そしたらネットで見ればいいとね。でも、それは映画館の業界団体がノーですよ。私は初めから、この映画をヒットさせるカギは、携帯モバイルとインターネットだと思っていたんですけどね。

――新しいことに挑戦しようという姿勢ではないわけですね。

角川 そうですよ。だったら、次回作は映画館で公開しないで、ネット上だけでやってやろうかと。

――映画会社は慌てるでしょうね。ネット以外にも新しいアイデアをお持ちですか。

角川 今回の映画では、原作者の辺見じゅんさんが、「小説 男たちの大和」を書き上げて、昨年11月に発売しました。この本だって10万部以上売れますよ。

――そんなに売れますか。

角川 だって、プラモデルだとかミニチュア模型は爆発的に売れているんですよ。

 今度は劇場でプラモデルからミニチュアまで売っちゃう。わざわざ玩具店に行かなくても、映画の帰りに買えるようにね。

――劇場にもお金が落ちる。

角川 もちろん、劇場も物販で儲かる。その収益は、私にはかかわりないことですけど。私が関係する部分は、原作権を売るということですよね。例えば、コミックスも出しますしね。

▼80年代の“B級”映画の蓄積が今生きていいる

――過去を振り返ってみても、角川さんが作り上げたこと、変えたことはすごく多い。

角川 1980年代前半に、なぜB級映画を2本立てでたくさんやったか。それは衛星放送の時代が来るというのが分かっていたから、そのためのソフトのストックとして考えたんです。実際、今、スカパー(スカイパーフェクTV!)で角川映画をどれだけやっているかということですよね。

――確かに何度も繰り返し放映されていますね。

角川 テレビでのオンエアは、それまで公開後3年だったのを半年でやりました。それだけじゃない。映画でやった作品を、役者を代えてテレビドラマにもした。「犬神家の一族」なんか映画公開の半年後にやって、40%以上の視聴率を取りました。

――最近は逆に、テレビドラマを映画化するケースが増えています。

角川 「ローレライ」を見たけれど、何というちゃちな映画だろうとびっくりしちゃったね。太平洋戦争の話なのに、すべて現代風にやっている。戦争をまともに扱ったら若者が見に来ないという前提がテレビ局にあって、それでああいう映画になっちゃうわけね。テレビ番組の企画なんて中身からじゃなくて、まずキャスティングから始まるでしょう。あれを映画でもやっている。

――今の映画の作り手には志が欠けていると。

角川 クリエーターがいなかったということなんだね。自分はこの12年間、刑務所に入って闘争をやっていた。その間、クリエーターが不在だったということでしょう。

 利益を上げなければという考え方はもちろん大事ですよ。だけど、それだけだと、テレビの二番煎じになるわけだ。そんなのはクリエーターじゃないんですよ。

――角川さんと他の作り手の違いは何ですか。

角川 代議士が落選したら、もう先生とは言われないよね。でも、角川春樹は刑務所に行ったって角川春樹だし、出てきたって角川春樹。これは本当の真実の力だよ。

 刑務所に入ったということは、もちろん逆風ですよ。明らかにそれは感じている。しかし、自分の腕力で物事を解決していくという中で、人の思惑とか社会の常識とか、そんなものはもう眼中にない。

▼サラリーマンやバンカーに文化が作れるか

――言葉は悪いですが、クリエーターは狂気と紙一重というか…。

角川 そうだよ。長渕が私に「兄貴、いつの時代も文化って不良が作ってきたよね」って言うんだ。サラリーマンやバンカーが作ってきたわけじゃないんですよ。ましてやホリエモンとかね。ITのそんな連中は文化とは関係ないんだからね。

――刑務所に入った経験は、ご自身にとっては良かったんですか。

角川 良かった。私にとって、個人的にはね。12年間の法廷闘争ですべてを失ってしまう、お金もね。そして、戻ってきて、さてこれからが勝負だと。それで、大和のクランクアップ会見で「21世紀は角川春樹の時代だと思う」と言ったんです。

 あの発言を聞いた人は、単に大和のことだと思っているんだろうね。私の本当の戦略をまだ分かってない。

――1つの映画のことだけを指しているわけではない。

角川 だって大和だけが成功したって、私の時代にはなりませんよ。

 私は病気を治したり、いろんなことができるんだよね。それを使って、宗教を必要としない時代に持っていこうとしている。人間は幸せになったり、仕事がうまくいったり、病気が治れば宗教は必要ないではないかと。私自身は刑務所でもっと先のレベルに行ったんだよ。

――どういうことですか。

角川 生き方として生涯不良と言い出したんですよ。人間は何のために生まれてきたかという根本的なことが宗教も哲学も分かっていない。人間は楽しむために生まれてきた。これしかない。それを私は刑務所の中で分かったからね。

――病気を治すこと以外に、どんなことができるのですか。

角川 この間までは、日本の地震を止めることに命を懸けていた。それで止めたんだよ。

▼地震、台風、日本文化のためなら命も捨てる

――いつ?

角川 昨年の7月7日です。止めるだけの能力を持っているからね。だからサイバー戦争になった時に、最も大きな力を発揮するのは私だろうね。荒唐無稽に聞こえるかもしれないけど、一つひとつ実績がある。この前の台風も東京を直撃するというので、迂回させたんだ。それで静岡を通って千葉に抜けた。

――地震を止めるというのは、どういう作業になるんですか。

角川 私の独特のやり方なんだ。45分ぐらいかかったかな。この時は、やれば自分が死ぬということを覚悟のうえでやった。

――相当のエネルギーを使うという意味ですか。

角川 そうじゃなくて、自分の命が取られるだろうと思った。人の能力で自然現象を止めちゃうんだよ。前もってこれから起きることを変えるわけだから、歴史の改造と同じなんだよ。俺は、日本文化のためだったら命を捨てても構わないんだ。

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「笑い」の裏に隠された、総帥の黙考と苦悩の日々。次回(本誌2月27日号)はフジテレビ飛躍の立役者、鹿内春雄に迫る。ウェブ連動インタビューには横澤彪・元フジテレビジョン・エグゼクティブプロデューサーが登場します。

(聞き手:日経ビジネス編集部、写真:的野 弘路)


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