日経ビジネスに掲載のテレビ・ウォーズに連動したインタビューです。誌面とウェブを合わせてご覧ください。

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――IT企業のテレビ局に対する買収攻勢をどう見ていましたか。

菅谷 ネット企業にとっては、テレビの持っているコンテンツとか、報道機能が魅力的なのだろう。だから、楽天のTBSに対するあの提案を見ても、楽天にとっては非常に意味のある内容だ。でも、TBSにとってはほとんど有用性がない。僕に言わせれば知恵のなさだよ。僕は三木谷さん(浩史・楽天会長兼社長)を評価していたんだけど、あの程度の知恵かと、ちょっとがっかりしたね。

――もう少し提案内容を工夫すべきだったと。

菅谷 インターネットとテレビの融合というけれど、僕は融合なんて全然しないと思うんだよ。最近AV(音響・映像)パソコンとかが出てきたけれど、操作の複雑性といったらない。テレビはワンタッチ操作だけど、パソコンはそうはいかない。あれは融合ではなく、単なる合体なんだよね。

 それから、テレビ局というのは報道機関でもあるし、社会性を考慮したクオリティーの高い映像を大量に作っている。中立公平の立場でね。しかし、インターネットの本質は、そうではないよね。「2ちゃんねる」を引き合いに出すわけではないけれども、テレビとは異質だと思う。

▼テレビはネットを活用していく立場

菅谷  ただ、1つだけ言っておかなければいけないのは、楽天やライブドアが動いたというのは、やっぱりテレビ界がだらしないからさ。「面白くなければテレビじゃない」というのもあるけれど、それに走るあまりに公共性や信頼性が、新聞などに比べて低下してしまった部分があるんじゃないか。

 だから、テレビのバラエティー番組なんかを見て、「この程度なら俺でも作れる」と思わせる隙が生じるんだ。その点は絶対反省が必要と思う。一連の買収騒動で一番問われたのは、テレビの信頼性や公共性で、それについて特に民放キー局とNHKは回復に努める責務があると感じた。

――テレビ局が作ったコンテンツを流す送信手段としてのネットをどう評価しますか。

菅谷 これは有用性がある。テレビはマスに対する大量伝達手段で、ネットは個に対応する手段だという点でね。例えば、ニュース報道の場合、大きな事件・事故はテレビですぐ放送される。でも、細かなニュースについては、画面が1つしかない我々は弱いと思うね。そういうことをネットでカバーするという考え方はあり得るだろう。

 僕の考えでは、テレビは制作でも報道でもこれだけのコンテンツと力を持っているわけだから、多少傲慢に聞こえるかもしれないけど、ネットを活用していく立場じゃないかな。例えば、地上デジタル放送は2011年に全国で実現しなければいけないけど、民間事業の限界があるから、離島とかではひょっとしたら間に合わないかもしれない。その場合、ネットでそれをカバーするということはあり得ると思う。

 デジタル投資というのは、テレビ東京でも総額250億円以上あって、今は採算が合わない。だから、本来は民間企業としては、やっていけない投資だよ。それでもあえてやるのは公共性があるから。そういった意味で、デジタル化は公共性を再建するいいチャンスでもあるのかな、と僕は思ってる。

▼視聴率は民度の問題でもある

――公共性、信頼性の一方で視聴率の問題がある。番組の質を保てるのでしょうか。

菅谷 おっしゃる通りです。確かに今視聴率が取れている番組は、正直に言うと、レベルが高いとは言えないバラエティーだよ。それは大衆に迎合した結果。やっぱり数字なんだよ。視聴率がコマーシャリズムに直結するから、一種の悲しい宿命に甘んじている面があるね。

 もっと言えば、今の日本の民度という問題もある。民度が必ずしも高くない日本の文化水準を上げるには、どこかの局が多少の犠牲を払ってでも、いい番組を作らないとしょうがないと思うんだよ。

 当社の経験で言えば、「ワールドビジネスサテライト」の視聴率は、スタートから10年間は1%台ですよ。最近になってようやく5.5%とかになってきた。良質の番組を作り続ければ、深夜の時間帯でも視聴者は徐々についてくるんだよ。

――テレビ東京の番組は、以前から他局とは違っていましたよね。

菅谷 テレビ東京は業界では長年、“番外地”なわけね。視聴率でそうだったし、番組を安上がりに作ってきた。

 うちの年間制作費は400億円強で、一方、日テレ(日本テレビ放送網)、TBS、フジ(フジテレビジョン)は1000億~1100億円くらいある。その差がある中では、視聴率の面でも、番組の質という面でも、今は相当頑張っていると思いますよ。

 当社の方針は個性、クオリティー、パワーある番組を作り、規模は小さくても最良、最強の局にすること。これはできますよ。経済とアニメと健全なバラエティーでは他局に負けないと思ってますから。

▼CM飛ばし見が世の中の大勢になるとは思えない

――アニメは日本が世界に誇れる産業ですね。そこに強みがあるのは大きい。

菅谷 当社の売り上げ構成は放送収入が90%で、事業収入が10%。事業収入の中には権利ビジネス、例えばグッズの販売とかアニメから派生したものが多く含まれる。

 そのアニメをうちは週37本流してる。1週間の番組数は全部で320本だから、1割を超えているわけだ。当社の輸出比率が、民放の中ではダントツの5%に達しているのも、そのせいだよ。アニメは完全に輸出商品なんだ。日本の放送局は基本的にドメスティックで、国際性がないんだよな。テレビ東京が唯一5%の輸出力を持っているということは、大きな特徴と言えるよね。

――アニメの輸出や事業収入もそうですが、テレビ局の経営は広告依存から変わっていくのでしょうか。

菅谷 広告依存モデルは簡単には変わらないと思うけれどね。別の柱も育てていかなければならないけど、時間がかかりますよ。

――ハードディスクレコーダーの普及などで、視聴者が見たい番組を自分で編成し、CMを飛ばしてしまうケースも増えてきました。

菅谷 去年、野村総合研究所がCM飛ばしの調査をやってたね。でも、本当に飛ばし見している人はどれぐらいいるのかな。世の中の大勢になるとは到底思えないね。

 テレビ局の編成がなぜ大事かというと、やっぱり責任なんだよ。報道すべきか、流すべきかどうかということを含めて判断する。その最終決定権はテレビ局の編成が持っている。この機能は絶対変わらないと思う。「どんなことがあっても責任を持って流す」というのが、ネットと違うマスコミの特性ですよ。

▼編成権こそテレビの信頼性の源泉

――そこが信頼性の源泉だと。

菅谷 その通りです。大事なのは、責任編成をやっているということだよね。

 だから、堀江さん(貴文ライブドア前社長)が言うような、「視聴者が判断すればいいんだ」という理屈はダメと思うね。ネットと報道というのはかなり異質だと思うし、ましてネットと放送の発展史は全く違うよ。大異質だね。だから、フジもTBSも大抵抗したわけだな。ちょっとお金が儲かったからテレビ局を買いますということでは、抵抗するのは当たり前の話だよ。

――民放各社の業績を見ると、TBSと日テレの調子が悪くて、フジとテレビ朝日がいい。色分けが鮮明になっていますね。

菅谷 TBSは2005年度中間決算を見ると、営業利益が半減するなど、すごい落ち込みだよね。テレビ東京にも追いつかれそうだとか、三木谷さんにコメントされたりしてね。

――巨人戦をドル箱にしてきた日テレも苦しい。

菅谷 お金に飽かせて4番バッターを集め過ぎたな。打っても走れない選手をね。そんなことで、やっぱりジャイアンツには壮絶な批判がありますよ。

 巨人戦の去年の平均視聴率は10.2%と過去最低。これはある意味、革命だよね。巨人戦がつまらなくなったんだよ。キラーコンテンツの地位を失った。一度なくしたものを回復するには時間がかかるよ。

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破天荒なメディア戦略が、テレビと映画の世界を一変させた。次回(本誌2月20日号)は、メディアの革命児角川春樹に迫る。ウェブ連動インタビューには女優・薬師丸ひろ子が登場します。

(聞き手:日経ビジネス編集部、写真:村田 和聡)


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日経ビジネス1月9日号から3月27日号の連載「TV WARS テレビ・ウォーズ」に連動したキーパーソンインタビュー。