声のなおし

毛穴で語れ!




滑舌




●滑舌 その一(滑舌綱渡り六)
○阿波岩屋の絵は えも言はれぬいい絵
○親も子も孫も曽孫もこもごもに青桃喰らひもごもごまごまご
○上加茂の加茂の傘屋で傘借りて加茂の帰りに返すから傘
○杉 萩 麦 葱 野菊が柳形に曲がると見苦しい
○隣の客はよく柿食ふ客 向うの客もよく柿食ふ客
○上方僧 書写山社僧の総名代 今日の奏者は書写ぢゃぞ書写ぢゃ ぞ
○住吉のすみに雀が巣をくってすばや雀の巣立ちするらん
○月々に月見る月は多けれど月見る月はこの月の月
○奈良の鯰は生鯰 生のまな板奈良まな板
○泥鰌にょろにょろ三にょろにょろ合せてにょろにょろ六にょろに ょろ
○蛙ぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ合せてぴょこぴょこ六ぴょこぴょ こ
○隣の茶釜は唐金(からかね)茶釜 お蓬茶釜も唐金茶釜
○おやおや八百屋さん、お綾は親とお湯屋よ
○瓜売りが瓜売りに来て瓜売れば振り売る瓜をかぶる瓜売り
○りんりんとりんと咲いたる山桜嵐が吹けば花が散りりん


●滑舌 その二

りんりん林檎の木の下に/小さなお家を建てましょか/そしたら小さな窓あけて/
窓から青空見てましょか/りんりん林檎がなったなら/鶫(ツグミ)もちらほらまいりましょ/
丘から丘へと荷をつけて/商人(アキウド)なんぞも通りましょ/りんりん林檎に雪がふり/
一夜に真白くつもったら/それこそかわいい煙(ケム)あげて/朝から食堂を開きましょ/
りんりん林檎は焼きましょか/むかずに皿ごとあげましょか/お客は誰やら知りゃせぬが/
今にも見えそな旅のひと/りんりん林檎の木の下に/小さなお家を建てましょか/
窓から青空見てましょか/遠くの遠くを見てましょか。
(北原白秋「りんりん林檎の」)


●滑舌 その三(外郎売り)

/拙者親方と申すは、御立合にも先達て御存知のお方もござりましょ、
/お江戸を立って二十里上方、相州小田原いっしき町をお過ぎなされて、
/青物町を登りへお出でなさるれば、欄干橋虎屋藤右衛門、唯今は剃髪いたして円斎竹しげと名のりまする。

/元朝より大晦日まで各々様のお手に入れまするは比の透頂香と申す薬、
/昔ちんの国の唐人ういらうと申す者我朝へ来り、此の名方を調合いたし持薬に用ひてござる。

/神仙不思議の妙薬、時の帝より叡聞に達し御所望遊ばされしに、
/ういらう即ち参内の折から件んの薬を深く秘して冠の内に秘めおき、
/用ふる時は一粒づつ冠のすきまより取出す、/よって帝より其の名を透頂香と賜はる、
/即ち文字にも頂に透く香と書いて透頂香と申す。

/唯今は此の薬殊の外ひろまり、透頂香といふ名は御意なされず、
/世上一統にたゞういらうういらうとお呼びなさるる、
/慮外ながら在鎌倉のお大名様方、御参勤御発足の折からお駕籠をとめられ、
/此の薬何十貫文とお買ひなされ下されまする。

/若しお立の内にも熱海か塔の沢へ湯治にお出でなさるゝか、
/又は伊勢へ御参宮の時分は、必ず門違ひをなされますな、
/お下りなされば左り、お上りなされば右の方、
/町人でござれども屋づくりは八方が八つ棟、おもてが三つ棟玉堂づくり、
/破風には菊に桐のたうの御紋を御赦免あって、系図正しき薬でござる。

/近年は此の薬やれ売れるはやるとあって、方々に看枚を出し、
/小田原の炭俵のほんだはらのさんだはらのと名付け、
/ほうろくにて甘茶をねり、それに鍋すみを加へ、
/或ひはういなんういせつういきゃうなどと似たるを申せども、
/平仮名を以てういらうと致したは親方円斎ばかり。

/見世は昼夜の商ひ、暮れて四つまで四方に銅行燈を立て、
/若い者共入替り立替り御手に入れます、/尤も値段は一粒一せん百粒百銭、
/たとひ何百貫お買ひなされても、いっかないっかな負けも添へも致しませぬ、
/さりながら振舞ひまするは百粒二百粒でも厭ひは致さぬ。

/最前から薬の効験ばかり申しても、御存じのない方には胡椒の丸呑、白川夜船、
/さらば半粒づつ振舞ひませう、御遠慮なしにお手を出して、摘んで御覧じませい。

/第一が男一統の早気付、舟の酔、酒の二日酔をさます、
/魚鳥木のこ麺類のくひ合せ、其の外痰を切りて声を大音に出す、
/六ちん八進十六ぺん、製法細末をあやまたず、かんれいうんの三つを考へ、
/うんぱうの補薬御口中に入って朝日に霜の消ゆる如く、しみしみとなって能き匂ひを保つ、
/鼻紙の間に御入れなされては五両十両でお買ひなされた匂ひ袋や掛香の替りが仕る。

/先づ一粒上って御覧じませい、口の内の涼しさが格別な物、薫風のんどより来り口中微涼を生ず、
/さるによって舌のまはる事は銭独楽がはだしで逃げる、どのやうなむつかしい事でもさっぱりと言うてのけるは比の薬の奇妙、
/証拠のない商ひはならぬ、さらば一粒喰べかけて其の気味合をお目にかけう。

/ひょっと舌が廻り出すと矢も楯もたまらぬ、
/サアあはやのど、かたらな舌にさは歯音、
/わまの二つは唇の軽重かいごう爽やかに、
/うくすつぬほもよろを、/あかさたなはまやらわ、
/いっぺぎぺぎにへぎほしはじかみ盆まめぼん米ぼん牛蒡、
/摘蓼つみ豆つみ山椒、/書写山の社僧正、/こごめの生がみこごめの生がみ、らんこ米のこなまがみ、
/繻子々々緋繻子繻子繻珍、/親も嘉兵衛子も嘉兵衛、親嘉兵衛子嘉兵衛、子嘉兵衛親嘉兵衛、
/古栗(ぐり)の木のふる切口、/雨合羽かばん合羽、
/貴様の脚絆も革脚絆、我等が脚絆も革脚絆(ぎゃはん)、
/しっ皮袴(ばかま)のしっぽころびを、三針針長にちょと縫うて、縫うてちょとぶん出せ、
/河原撫子野石竹、/のら如来のら如来、三のら如来に六のら如来、
/一寸のお小仏におけつまづきやるな細溝にどぢょにょろり、
/京のなま鱈奈良なままな鰹、ちょと四五貫目、
/お茶たちょ茶たちょ、ちゃっと立ちょ、茶たちょ、青竹茶煎でお茶ちゃと立ちゃ、
/くるわくるわ何が来る、高野の山のおこけら小憎、
/狸百ぴき箸百ぜん、天目百ぱい棒八百ぽん、
/武具馬具々々三ぶぐばぐ、合せて武具馬具六ぶぐばぐ、
/菊栗きくぐり三菊栗、合せて菊栗六菊栗、
/麦ごみむぎごみ三むぎごみ、合せてむぎごみ六むぎごみ、
/あの長押の長なぎなたは誰が長なぎなたぞ、
/向うのごまがらはいぬごまがらか真ごまがらか、あれこそほんの真ごまがら、
/がらぴいがらぴい風ぐるま、おきゃがりこぼしおきゃがりこぼし、ゆんべもこぼして又こぼした、
/たぷぽゝ、たゝぷぽゝ、ちりからちりからつたっぽ、たぽたぽ、ひだこ落ちたら煮て喰はう、
/煮ても焼いても喰はれぬものが、五徳鉄きうかな熊童子に石熊(ぐま)いし持、
/とら熊(ぐま)とらふぐ、中にも東寺の羅生門には茨木童子が、うで栗五合(ごんごう)、
/つかんでおむしゃるかの頼光の膝元さらずに、
/鮒きんかん椎茸定めて御段は(ごだんな)そば切りうどんかぐどんな小新発知、
/小棚のこしたの小桶にこみそがこあるぞ、こほどに小杓子こもってこすくてこよこせ、
/おっと合点だ、心得たんぼの川崎神奈川、程ケ谷はしって戸塚へ行けば、
/やいとをすりむく三里ばかりか藤沢平塚、大磯がしや小磯の宿を、
/七つ起きして早天さうさう、相州小田原透頂香。

/かくれござらぬ御ういらう若男女貴賤群集の花のお江戸の花うい郎、
/あの花を見て心をお柔らぎゃっと云ふ、産子這子に至るまで、
/比のういらうの御評判、御存じないとは云はれまい、
/まひまひつぶり角出せ棒出せぼうぼう眉に、臼杵摺鉢、
/ばちばちばち、どろどろどろ、ぐわらぐわらぐわら、と羽目をはづして今日お出の方々さまヘ、
/売らねばならぬ上げねばならぬと、いきせい引ぱり薬の本じめ、
/薬師如来も照覧あれと、ほゝう敬って、うい郎は入らっしゃりませぬか。





叫び



注意
・意味で叫ばない。
・感情を入れない。
・ただ音になる。
・ただ声を震わせる。


●叫び

おーい!
やっほー!
〜さーん!
もしもし!
こんにちは!
万歳!
馬鹿野郎!
カー!
   等




●叫び(呪文)

   ・萬歳楽
   ・おととととい、ぽぽい、だあ。
   ・Dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
   ・あちめ おおおお おけ
   ・あびらんけん そわか
   ・どうどうたらりたらりら、たらりららりららりどう。
   ・開け ごま!
   ・お厄払ひませう、厄落し


●叫び(短句)

   ・駝鳥(だちょう)は砂漠をよく走る
   ・あるけばきんぽうげすわればきんぽうげ
   ・あざみあざやかなあさのあめあがり
   ・あれが鶴だったのか
   ・空が 怒(いか)っている/木が 怒っている
   ・なにを そんなに待ちくたびれているのか
   ・五億年の雨よ降れ/五億年の雪よ降れ
    ・燃えるモーツァルトの手をみるな
   ・ああ いいな せいせいするな






朗誦




●名告り(狂言)

・三本の柱
○このあたりに住まひいたす、大果報の者でござる。
天下(てんが)治まりめでたい御 代(みよ)なれば、
この間うちのあなたこなたの御普請は(な)、
おびただしいことでござる。


・瓜盗人
○まかり出でたる者は、このあたりに住まひいたす耕作人でござる。
それがし当年は(な)、瓜を作ってござるが、一段とみごとに出来て、
このやうな満足なことは ござらぬ。



●連ね(歌舞伎)

・三人吉三廓初買
○月も朧に白魚の篝も霞む春の空、つめたい風もほろ酔に心持よく浮か浮かと、
浮れ烏の只一羽塒へ帰る川端で、棹の雫か濡手で粟、思ひがけなく手に入る百両、
  (お厄払ひませう、厄落し)
ほんに今夜は節分か、西の海より川の中落ちた夜鷹は厄落し、
豆沢山で一文の銭と違って金包み、こいつあ春から縁起がいいわえ。

・青砥稿花紅彩畫
役人 
けなげな一言(いちごん)、して真っ先に進みしは。
日本駄右衛門
問はれて名乗るもおこがましいが、生まれは遠州浜松在、
十四の年から親に 離れ、身の生業も白波の沖を越えたる夜働き、
盗みはすれど非道はせず、人に情を掛川から金谷をかけて宿々で、
義賊と噂高札に廻る配付の盥越し、危ねえその身の境界も最早四十に人間の定めは僅か五十年、
六十余州に隠れのねえ賊徒の首領日本(にっぽん)駄右衛門。
弁天小僧菊之助
扨てその次は江ノ島の岩本院の稚児上がり、ふだん着慣れし振り袖から髷も島田に由比ヶ浜、
打ち込む波にしっぽりと女に化けた美人局、油断のならぬ小娘も小袋坂(こぶくろざか)に身の破れ、
悪い浮き名も竜の口土の牢へも二度三度、だんだん越える鳥居数、
八幡様の氏子にて鎌倉無宿と肩書も島に育ってその名さへ、弁天小僧菊之助。
忠信利平
続いて次に控へしは、月の武蔵の江戸育ち、餓鬼の折から手癖が悪く、
抜け参りからぐれ出して旅を稼ぎに西国を廻って首尾も吉野山、
まぶな仕事も大峰に足を留めたる奈良の京、
碁打ちと言って寺々や豪家(ごうか)へ入り込み盗んだる金が御嶽(みたけ)の罪科は、
蹴抜けの党の二重三重、重なる悪事に高飛びなし、
後を隠せし判官(ほうがん)の御名前(おなめえ)かたりの忠信利平(ただのぶりへい)。
赤星十三郎
又その次に連なるは、以前は武家の中小姓(ちゅうごしょう)、
故主(こしゅう)のために切りどりも、鈍き刃の腰越えや砥上ケ原に身の錆を研ぎ直しても、
抜き兼ねる盗み心の深翠り、柳の都谷(やつ)七郷花水橋の切り取りから、
今牛若と名も高く、忍ぶ姿も人の目に月影ケ谷(やつ)御輿ケ嶽、
今日ぞ命の明け方に消ゆる間近き星月夜、その名も赤星十三郎。
南郷力丸
扨てどん尻に控へしは、潮風荒き小ゆるぎの磯(そ)馴れの松の曲がりなり、
人となったる浜育ち、仁義の道も白川の夜舟へ乗り込む船盗人、
波にきらめく稲妻の白刃に脅す人殺し、背負って立たれぬ罪科は、
その身に重き虎ケ石、悪事千里といふからはどうで終ひは木の空と覚悟はかねて鴫立つ沢、
しかし哀れは身に知らぬ念仏嫌えな南郷力丸




●長台詞(ギリシア悲劇)

・アイスキュロス『アガメムノン』(アガメムノン)
○レーダーの娘、わが家の守りよ、賛辞は分相応に、そしてそれも他人から寄せられる栄誉でなくてはならぬ。その先のことも、女の気持ちにまかせて、華美にすぎる出迎えをいたしてはならぬ。また、異邦人のごとくに足元にひれふして、大袈裟な口上を吐くべきではない。況んや身に装う布を敷きつめてわが道に妬みを招くことなどは、全くの無用。そのような栄誉は神々に捧げよ。私は、神のようにではなく、人間としての敬いを受けたい



・アイスキュロス『アガメムノン』(クリュタイメストラ)
○先程、その場に応じて言った言葉に今また反対のことを言うのも、別に恥だとは思いますまい。味方のような振りをして敵に向かって巧みをめぐらす時、その程度のことは至極当然の罠。そうでなくて、どうして飛び越えて逃げられぬ程高々と敵を網で囲みおおせましょう。私にとってこの手合わせはとうの昔から、いさかいのあったその日から、決まっていました。その昔のいさかいを心から忘れ得ぬ身にやってきたのです。いかにも遅くはあったけれど。...皆さん方がご覧のように、打ち倒したその人のそばに私は立っています。この通りにやったのです。そのことを私は隠そうとはしません。逃げることも、死の運命を防ぐこともできないように、逃れられないその投げ網をちょうど魚を取るそれのように、くるっと引き回して二度この人を打ちました。すると二度うめきの叫びをあげてそのままぐったりしたのです。そこで倒れたところへ三度目を打ち下ろしました。このようにしてこの人は打ち倒れ、最期の息を引き取ったのです。





群読




●群読テクスト
群読テクスト一(ソポクレス『アンティゴネー』)

 王よりのお触れ!
 オイディプースの子息エテオクレースはこの国のために戦い、槍功名隠れもなく、あっぱれの働きをした後の討ち死。その功により、墓を築いて葬り、最高の死者を送るに相応しい荘重な葬儀を執り行なうべし。
 一方、その兄、ポリュネイケースは、亡命先より立ち戻り、父祖の地ならびに一族の崇めまつる神々の社に火を放って灰燼に帰せんとたくらむのみならず、一族同輩の血をすすり、あるいは市民を奴隷にせんとしたかどにより、いかなるものと言えども墓を築くべからず、弔いを行なうべからず、哀悼の意を表すべからず。骸は埋葬せず野晒しにして、野鳥野犬の餌食となし、みせしめのため無惨な姿のまま放置すべし。



群読テクスト二(ソポクレス『アンティゴネー』)

 不思議なるもののあまたある中で、人間にまさって不思議なるものは絶えてない。あるいは冬、吹きすさぶ寒風に身をさらし、山なすうねりの狭間に漂い、波頭砕ける海原を押し渡る。あるいは、神々の中でも殊更に尊き女神ガイア、疲れを知らぬ大地に、来る年も、来る年も、鍬を打ち、馬の子等を追いつつ、女神の胸を攻め悩ます。
 また、心も軽ろき鳥の族、野にすむ獣の族塩辛き海に棲む魚の族を、網を投じて捕えるもの、これもまた、いとも賢き者、人間。
 あるいは、野に棲み、山を行く獣を、飼い慣らしては家畜となし、あるいは、たてがみ長き馬どもや、山ずみの、疲れを知らぬ牛どもを、軛につけて使役する者、人間。
  
  

群読テクスト三(ソポクレス『アンティゴネー』)

 まこと、人間の才知は思いもかけず、時には悪、時には善の道を行く。いにしえの掟を尊び、神の正義を守るところ、国は栄え、心おごるゆえに見苦しきを敢えて行なうところ、国は滅ぶ。
 願わくは我が一族のうちにかかる者のなく、またかかる者が我らの心の友ともならぬよう。
  


群読テクスト四(ソポクレス『アンティゴネー』)

 恋ごころよ、いまだかつて向かう敵なく、富、財宝を思いのままに奪い尽くす人を惑わす魔の力よ。
 恋ごころよ、夜をこめて柔らかき乙女の頬にそなたは潜み、野も山も大海原も越えて、恋の矢は飛ぶ。
 恋ごころよ、不死なる神も、命はかない人間も、取り付かれれば、ただひたすらに狂い立つ。
 恋ごころよ、正しき者を甘美な罠で、邪な破滅の道に迷いこませ、あるいは血を分けた親と子の争いを引き起こし、あるいは花嫁の瞳に宿り不義の想いへひとをいざなう。ひそやかな憧れは国の掟にもましこの世を統べる。
愛の女神アプロディテー、いざ、戯れよ、そよ、戯れよ、やよ、戯れよ、それ、戯れよ。
 


世界劇場研究所の扉へ シェイクスピア戸所研究室の扉へ