Q.いろいろなスポーツが得意な安東さんですが、登山は? |
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山は大好きですが、僕の場合ほとんどはスキーですね。頂上を目指すような本格的登山は今回のロケが初めてでした。体力には、まあ自信はあったのですが、「山登り感」みたいなものがないので、ガイドの方のアドバイスに従っていくしかない状態でしたね。ガイドの奥原さんは65歳とは思えないほどタフな方で、必死にくらいついていきました。 |
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―槍ヶ岳では、一人でテントに泊まるという体験もなさっていましたが
とくに怖いと感じたことはなかったですね。後から、クマが出ることもあると聞いたときにはちょっとビビリましたけど。どう考えたって、クマと勝負したら僕は太刀打ちできませんからね。僕がテントで一泊した場所は、小さなキャンプ場になっているのですが、その日は僕一人でした。スタッフが泊まった山小屋はそこから歩いて20分くらいあるので、全く人の気配は感じません。山では命を落とされた方もいますからね、いないはずの人の声が聞こえることがある、なんて言われたのですが、そういうことは怖くないんです。聞こえるのは雪が溶けてサーッと流れる音くらいで、曇っていたので夜は星も月の明りもなく何にも見えない闇。それを怖いと思われる方もいるでしょうが、僕は逆に精神的にリセットできてよかったですね。都会で生活している時には感じないようなことが実感できるんです。自然の荘厳さや、人間の小ささが。VTRでも巨大生物?の影に驚いているシーンがありますが、どんな生き物も、厳しいサバイバルの中で生き残っている強さみたいなものが感じられるんですよね。そこが自然の美しさだと思います。
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Q.おっしゃる通り自然は壮大で美しいものですが、また厳しさもあります。今回の登山でいちばんつらかったことは? |
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頂上へアタックする前日の雨ですね。ガイドの方も「普通はこんな日はのぼらないね」と言ってました・・・。実際に会ったのは1組のグループだけ。しかも高校の卒業旅行で来たというアメリカ人の青年3人組。10代は怖いもの知らずというか若さのエネルギーでいっぱいですからね・・・。きっと彼らにとっても忘れられない青春の思い出となるでしょう。始めは小雨だったのですが、だんだん雹混じりの激しい降りになってきて。休む場所もありませんから、ただひたすら歩くしかないんです。しかも視界は5メートルくらいかな。ガイドさんの背中と足元を見ながら必死ですよ。まだ雪がたくさん残っていて、その雪が雨でみぞれ状になっていくので、アイゼン(鉄製の登山用かんじき)をつけた靴で、雪の表面に足を引っ掛けるようにして歩くんです。 |
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―さすがに安東さんでもつらかったですか
キツかったですね。なんで、オレはここにいるんだって思いましたよ。でもやはりいい体験でした。本当の極限状態だったらわかりませんけど、ある種、危機的な状況になると人間のいい部分が自然と出てくる場合もあるんですよ。お互い協力的になって、結束力も増します。ちょっとした岩陰で雨をしのいで10分くらい休憩したのですが、その時「あっオレまだチョコが残ってた」とか言って、1枚のチョコレートを人数分に割って、みんなで食べるんです。ほんのひと口しかないのですが、すごくおいしかったですね。本当においしかったし、人間が身体を動かすにはカロリーが必要なんだ!と実感します。僕も持ってきたスナックを出したりして。あのポテトチップスもうまかったなぁ。
残念ながら、いちばんつらかった時の映像や写真はないんです。カメラを出したら壊れてしまう、というほどの激しい風雨でしたから。登山では山小屋から100メートルくらいの所でも遭難したり、命を落とす場合もあるそうです。僕は、スキーで山へ行くことが多いので、基本的に雨の場合は滑りませんし、夜もほとんど外に出ることはなかったんですね。ですから今回の登山で、山の厳しさを、身を持って体験しました。
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